インドネシアのチョコ
インドネシア出張のおみやげで、チョコレートをもらった。
インドネシアは、赤道直下の熱帯地域の国。
年間通じて27~28度で、10月~3月は雨季にあたり、湿度も高い。
チョコレートには過酷な環境のはずだ。
菓子メーカーに勤めて以来、チョコレートは「直射日光・高温多湿を避けて25℃以下で保存」と叩き込まれている。
暖房の効いた部屋に放置されていたり、直射日光が当たっていたりすると、チョコレートから「さよなら…」と聞こえてくるようになったくらいだ(幻聴)。
ーーインドネシアのチョコレート。
明るい暗闇、しょっぱい砂糖、宇宙の風くらいの撞着語法に聞こえる。
原料の、カカオならまだしも。
調べてみると、インドネシアのカカオの生産量は、世界でトップ5に入るという。
しかし、そのほとんどはマレーシアやアメリカに輸出されていて、日本へは品質の問題からあまり入ってきていないのだとか。
赤道直下の国で、かわいらしい板チョコレートが製造・販売されているとは知らなかったし、元気な姿で我が家へやってきたのが、にわかには信じがたい。
はじめて手に取るインドネシアのチョコレートを、まずはじっくり観察する。
インドネシア語と、英語による裏面表示。
いちご、ブルーベリー、カシューナッツ、ピンクのかけらのイラストが、味のすべてをあますところなく伝える。
右下の、ひときわ目立つ白い丸がしばらく分からなかったが、おそらく容器に入ったヨーグルトを真上から描いたものだろう。
構図が斬新。
ところで、インドネシア語はナシゴレンくらいしか知らない。
輸入会社を通して日本で販売されるチョコレートは、たいてい日本語の表示シールが上から貼られている。
でもこれは現地から直移動なので、てがかりは英語のみ。
さて、インドネシア語で、チョコレートはなんと言うのだろう。
原材料のなかには、chocolateの表記がない。
ひときわ目立つメーカーロゴのうえに、逆さに書かれた英文を見つけた。
そこに、唯一Chocolateの文字が。
フォントが同じなので、インドネシア語だとこの部分のはず。
Yoghurt,Stroberi,Blueberryはつづりも英語とほぼ同じだから、位置的にKacang Medeがカシューナッツ。
Chocolate = Cokelatとわかる。
コケラット、と読みたくなってしまうが、発音はチョクラットだそうだ。
つづりはコカ・コーラ感があるものの、発音はしっかりチョコレート。
どこかの国で開発されて、世界中に広まっていったものは、どこの国でも響きにおもかげを残すのだろうか。
もうひとつ気になったのが、砂糖である。
左下の栄養成分表示のなかに、Gula/Sugarと書かれているので、インドネシア語で砂糖はグーラ。
砂糖といえば、sugar(英)、sucre(仏)、zucchero(伊)、caxap(露)といった具合に、日本語も含め、さらさらザラザラした響きで始まる国が多い。
名は体を表すと言わんばかりに。
だから、グ、で始まるのが意外だった。
砂糖の発祥は紀元前327年頃のインドとされており、sugarの語源も、サンスクリット語でさとうきびを意味するSarkaraが語源という。
しかし、原料であるさとうきび自体の伝説が残るのは、インドネシアにほど近いニューギニア周辺の島々。
その歴史はなんと紀元前8,000年~1,500年にもさかのぼるとか。
インドから大陸を駆けめぐって世界に広まったSarkaraと異なり、島国で独自の発展を遂げてきたから、響きもちょっと違うのだろうか。
一方で、Garam/Saltと書かれているとおり、インドネシア語で塩はガラム。
砂糖と塩、gulaとgaram、sugarとsalt、sucreとsel。
どこの国も、砂糖と塩は、頭文字のさらさら感が似ている気がする。
言うまでもなく、砂糖と塩は物理的にもよく似ている。
「きっとこの世界の共通言語は/英語じゃなくて笑顔だと思う」という歌を思い出した。
「砂糖と塩っていろいろ似てるよね」というフレーズも、世界の共通言語になりうるのではないかと思う。
魚肉ソーセージ色、もとい落ち着いたピンクの銀紙をむくと、まったく同じ色のチョコレートがあらわれた。甘酸っぱい香りが漂う。
ピンクの銀紙、これもまた撞着語法。
natural color、natural flavorと書いてあったので、天然着色料だし、天然香料だ。
真ん中が盛り上がっていたり、ロゴが刻印されていたりして、なかなか手が込んでいる。
サーティーワンアイスクリームにありそうな、カラフルでポップな断面。
思いのほか、いちご、ブルーベリー、カシューナッツが入っていた。
ホワイトチョコレートなので、カカオマスは入っておらず、油脂分の多いココアバターが原材料表示の上位に来ている。
なるほど、これなら常夏の国でも比較的溶けにくいだろう。
輸入菓子は、たまにクセが強くて口に合わないものがある。失礼ながら、おそるおそる口に運ぶ。
びっくりするくらい食べ慣れている味がした。
自社で扱うストロベリーチョコレートと、ほぼ同じ味だ。食べやすい。
ホワイトチョコレートのまったりした甘さの中に、ヨーグルトといちごの酸味が弾ける。
カシューナッツのカリカリ感と、ブルーベリーの酸味が加わって、なんだか贅沢。
よく見たら、保存温度帯は18℃~22℃。
直射日光を避け、清潔で乾燥した場所で保存せよ、とのこと。
自社より基準が厳しい。
インドネシアのチョコレートに脅威を覚えた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?