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「管理社会」の中で

仕事とは体力だ、とつくづく思う。
先日、某建設会社の面接に行ってきた。
面接のなかで再三訊かれたことがあった。
それは、健康面のことだ。面接官は3人いて、一人が人事部の女性、続いて男性の人事部長、そして男性の社員の方だった。3人に再三訊かれたことは、「最後に健康診断を受けたのはいつですか?」と、「結果は異常なしでしたか?」ということだった。
 私が最後に健康診断を受けたのは、今年の1月末で、結果はというと母からの遺伝の糖尿病のため、血糖値は高めだったが、HbA1b(ヘモグロビンエーワンシー)は6.1と良好だったし、尿検査も糖もタンパクも−だったし、ただ、当時は今みたく体幹を鍛えたり、腹筋背筋、下腹部を鍛えるストレッチをしていなかったので、体重はあった。それでも総じて「異常なし」だったので、私は「異常なしでした」と答えた。それでも面接官はなお畳み掛けるかのように、「今、服用している薬とかありますか?」と訊いてきたので、私はこれだけは知っていてもらおうと思い、自分が母からの遺伝の糖尿病であり、現在血糖を下げる薬を朝だけ飲んでいることを告げた。そうしたら更に、「服用なさっている薬の名前を教えて下さい」ときた。私は内心(教えてもわかんのかよ?)と思ったが、素直に「アマリール0.5ミリを朝1錠のみです」と答えた。
 今の時代は、知力もさることながら、体力・健康が第一なんだな、と思い知らされた。その他にも、「糖尿病と向き合うために、何か運動などしていますか?」ときたので、私は素直に「ウォーキングと、体幹を鍛えるストレッチ、お尻を鍛えるストレッチ、腹筋背筋、下腹部を鍛えるストレッチをしています」と答えると、「おお!」という3人からの感心の声が。
 私はずっと昔、幼少期の頃から、体格の良かった父親譲りの固太りで、ブタというより牛のようなどっしりとした体型をしていた。実際、よく食べてもいたから、小学校の低学年の頃、当時フジテレビの青春ドラマで、宮沢りえ主演でライバル役が武田久美子の『スワンの涙』という、バレリーナだった主人公がシンクロナイズドスイミングの選手になるというサクセスストーリーが流行っていたので、皆私の友人たちはスイミングを習っている子たちが大半いて、私はというと持病のアトピー性皮膚炎を患っていたり、それと先天性の両足関節機能障害があったので、プールは塩素水でアトピーが悪化する可能性があるということと、足が悪いので、溺れて死ぬかもしれない、という私の母親の勝手な思い込みで、私はスイミングは却下され、私は好きでもないピアノと、糞の役にも立たなかった英会話だけを延々と習わされたのだった。それでも、友だちのそのお母さんの付き合いで、プールに見学に行くと、2階の見学テラスから見える、友だちやそれより年下の子たちが一生懸命に泳ぐ姿に感動して眺めていたら、その友だちのお母さんが、「あおいちゃんも習いたくなったでしょう?痩せるわよ〜」等とホホホと笑いながら、私の肩や腕や脇腹をぐりぐりと揉んできて、そのニヤニヤと笑う目が、嫌らしいファシストのようで怖かったのを今でも覚えている。

 時を経て私は高校、短大を卒業し、就職は大手造船業の会社に就職をした。私はピアノ教室はキライで中1で辞めてしまったが、歌うことは大好きで、よく、中島みゆきや相川七瀬などをカラオケで友人と歌っていて、会社の先輩も仕事の傍らタップダンスや生花を習っていたりしていたので、私も何か習い事がしたい、そうだ、歌だ!と思い、市川市の本八幡にある音楽教室のボーカル科に通うようになった。そこはなんと、単なるお習い事教室ではなかった。プロ育成というか、これからプロになる人たちの可能性を引き出そうとするかのような教室だったから、指導も本格的だった。講師のF先生は、「声は身体です。あなたたちの身体が楽器なの。だから、毎日のスクワット、腹筋背筋、腕立て伏せは習慣にしてください。食事にも気をつけて。ボーカリストは歌だけではないの、外見も意識して!」というストイックな指導のもと、私は学生時代より11キロぐらい痩せて、身長163センチに対し体重は51キロまで搾った。しかし、当時の私は歌い込みすぎて、声より酷い肩凝りを起こしてしまったので、オーディション用に作ったデモMDも納得がいかず、歌手は断念し、詩を書くようになったのだが。

 話を戻そう。
面接でも再三、健康面を訊かれたように今、社会全体が健康を求めている。テレビを点ければ、「あなたは何キロ痩せられる?」のR社のCMや、「30分間の運動で−12キロ」が売りのC社のCMだったり、コロナ禍の影響もあるだろうが、とにかく今の日本人の少なくとも真っ当に働いている人々は、健康を常に気にしている。
しかし、私は思う。それは私が根っからの自由人であるから余計そう感じてしまうのか、現代人は、あまり、管理ばかりされないほうが良いと思う。人間が「管理」されることに「管理」されすぎてしまうと、心の自由さを失い、精神病者が増えたり、自殺者も減らない。こんな「管理社会」の中で私たちはどう生きるか。常に模索しながら、私たちは日常の中でささやかな楽しみを見つけて生きていくことが必要だと、今改めて感じている。

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