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映画『ダンケルク』(2017)

こんばんわ、唐崎夜雨です。
今年のアカデミー賞でクリストファー・ノーランが『オッペンハイマー』で監督賞を受賞。今夜は祝!というわけではなく、クリストファー・ノーラン監督作品の『ダンケルク』(原題:Dunkirk)を見る。

『ダンケルク』は、最近見ていた『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』、『空軍大戦略』、『鷲は舞いおりた』と同じく、英国チャーチル首相時代が舞台の作品です。

とりわけ、同じ2017年の映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は、本作と同時期の国内の政治的状況が描かれていて、あわせてみると面白いかもしれません。

また『ダンケルク』でパイロットと無線でやりとりする指揮官の声は『空軍大戦略』『鷲は舞いおりた』に出演していたマイケル・ケインだそうです。いまはもう俳優を引退されたようですが、クリストファー・ノーラン作品の常連さんでした。

ちなみに『ダンケルク』は、その年のアカデミー賞で編集賞、録音賞、音響編集賞を受賞しています。たしかに、このあたりの音響や編集を見聞する映画だと思う。

3つの視点

映画『ダンケルク』の特徴は、陸・海・空の3つの視点が並行して描かれているところです。しかも、陸・海・空はそれぞれの時間が異なり、陸の一週間、海の一日、空の一時間が並行している。ということは、陸の場面で夜、次の場面では海の昼間、ということもある。

しかも、この3つの物語はクライマックスで交錯する。つまり、陸の一週間と海の一日のうち、ある一時間が空の一時間と重なっている。あえて時系列的にならべると、時間を行ったり来たりしていることになる。しかしそうゆう複雑さを感じさせない。ホントうまく創るなぁという印象。

陸の一週間は、仲間を失った若き兵士トミーが、はやくイギリスへ帰ろうと試みる。
海の一日は、イギリスからダンケルクへ向かうドーソンの船。途中で救出した英兵はダンケルクへ向かわず英国へ戻ることをドーソンに要求する。
空の一時間は、ダンケルク撤退を援護するスピットファイアの小隊。

付け加えますと、本作は1940年のダンケルクからの撤退を描いていますが、史実に基づいて撮られたものではなく、撤退劇の大枠だけ利用して、内容はほぼフィクションだと思われます。

音を聞く映画

『ダンケルク』はセリフが少ない。とくに陸のパートにおける若い兵士たちの多くは口数が少ない。映画におけるアメリカ兵などはいつもおしゃべりしている印象だが、それと比べるとこちらはリアリティがありそう。

それというのも、ダンケルクはすでに周囲をドイツ軍に包囲されている。フランス軍が抗戦しているが、いつまでもつか分からない。一方イギリスからの救出は遅々として進まない。ドイツ軍の総攻撃が始まったら終わりである。命を失うかもしれないし、捕虜になれば帰国はいつになるか。
そんな状況を思えば、あまり口をきかなくなるのも無理からぬこと。

この少ないセリフを補うのが、音。
爆撃などの効果音はもちろんのこと、常に不安と緊張を強いるような音楽が各パートを通じて流れている。音楽音響が接着剤となって異なる時間の架け橋をしている。音楽は『レインマン』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』などのハンス・ジマー。アカデミー賞にはノミネートされていた。

一方で、多くを語らないために青年たちの背景や人物像があまりよくわからない。ドラマというよりサバイバルゲームを見ているかのように思えることもある。

ほかの多くの兵士が粛々と規律に従い撤退行動をしているのに、主人公の若い兵士たちはなぜ急いで帰ろうとするのか。一刻も早く帰国したい気持ちはわかるけれど、それは皆おなじだよなぁ。

あえて描かなかったのかも

主人公のワケはあえて描かなかったと見るとどうだろうか。
ダンケルク以外の土地で起こる逸話を排除することで、観客をダンケルクに集中、拘束させたかったのかなと考える。

例えば、早くおっかさんに会いたいというワケを主人公に与えると、観客は主人公に感情移入しやすいだろう。しかし、それではダンケルクという土地から離れて普遍的な人間ドラマになってしまう。

あくまでも監督が描きたかったのはあの日あの時のダンケルクという土地だったのかもしれない。それゆえに陸海空と多面的に描こうとした。

例外的に、海のパートで、映画には登場しないドーソン船長の息子の逸話がある。これはダンケルク以前の物語だが、船長の息子の物語によって、海のパートと空のパートが融合する。

そして、ライアンの娘

Wikipediaを見ていたら、クリストファー・ノーラン監督が『ダンケルク』を撮るのに参考にした11本の映画がある。

その中にデヴィッド・リーン監督の『ライアンの娘』がある。『ライアンの娘』いえば砂浜、浜辺であろう。『ダンケルク』も長大なビーチである。陸から眺める海岸は雄大である。

デヴィッド・リーンの作品は好き。『アラビアのロレンス』『戦場にかける橋』など雄大な自然を舞台にした作品が好き。唐崎夜雨にとって『ダンケルク』がわりとお気に入りな処は、デヴィッド・リーン的な風景を感じさせるところにあるのかも。

それから上映時間106分。尺が2時間以内で終わるのも好感。

『ダンケルク』(2017)
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
プロダクション・デザイン:ネイサン・クロウリー
編集:リー・スミス
音楽:ハンス・ジマー
衣装デザイン:ジェフリー・カーランド
出演:フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジェームズ・ダーシー、バリー・コーガン、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、マーク・ライアンス、トム・ハーディ



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