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【お仕事図鑑 vol.3】 食品業界の商品開発〜アイデアを形にする仕事〜

「美味しいふわとろのパンケーキが食べたい。」
そう思っても、実際に自分で作れるかは別問題。
材料や火加減、焼き方がわからない方も多いのでは?

企業の商品作りも同じで、アイデアだけでは商品になりません。
形のないアイデアを、商品という目に見える形にする仕事、それが「商品開発職」です。

今回は、まさにものづくりの核となる「商品開発職」について解説します!


はじめに

前回同様、食品業界の「商品」は多岐に渡りますが、本記事では「商品=実際に店舗やレストランで消費者に販売される最終品」とします。
特に今回は、メーカーでの加工食品を想定しており、飲食店でのメニューや惣菜等は、一旦脇に置いています。

※ちなみに、飲食店などその場で調理する場合は「レシピ開発」、より原料に近い製品や飲料などの場合は成分の配合を決める業務を「処方開発」という場合があります。

また、商品企画と商品開発の仕事は境目が曖昧で、企業によっては兼務や職責のオーバーラップがあります。
予めご了承ください。

商品開発はどんな仕事?

一言で言えば、技術的な知識を持ち、マーケティング職と製造現場をつなぐ人といえます。
商品作りの核となる業務を担う、まさにものづくりど真ん中の仕事なので、業務内容自体が自社の機密情報に直結することも多く、あまり社外に向けて詳細が語られない仕事です。

商品開発職の基本的な業務内容は以下の通りです。

1)原料決めと配合設計
2)テストキッチン等での試作・試食
3)スケールアップ、ラインテスト
4)初回量産の立ち会い
※企業により、原価計算、栄養成分の確認・表示作成などの業務が入ります。

1)原料決めと配合設計

まずは、企画から共有された商品を見て、どのような原料を使い、どのような配分で混ぜるか、を考えます。
この時、購買・調達部門とも調整し、原材料の確保が可能か、原価はどれくらいかかりそうか、なども検討していきます。

開発職の最初の肝となる仕事で、原材料の知識が必要になります。
配合を考えるのは、味作りなどのレシピ部分だけではありません。

配合を決める原料には、例えば、
・食感を決めるためのゲル化剤@ゼリー飲料
・味や食感を損なわず機能を持たせるための添加剤(アミノ酸、乳酸菌、タンパク源など)@機能性表示食品
・膨らみ方や食感を決めるための油脂・膨張剤・小麦粉@パン類
・賞味期限を担保するための防腐剤
・衣となる粉の配合@揚げ物
など、消費者が気づかない部分も含め、安全で美味しい食品を作るために様々な原料とその量を決めていきます。

2)テストキッチン等での試作・試食

ある程度、配合が見えたら社内のテストキッチンやラボで試作をし、関連部署も交えて試食をします。
ここで挙がった意見をもとに、開発者は配合の修正と試作を繰り返します。
受託製造の場合は、発注元の顧客の担当者も招いて、より良い商品に仕立てていきます。

3)スケールアップ、ラインテスト

試作で方向が定まったら、次は工場での量産化に移ります。
製造技術者やライン管理者、品質保証の担当者などと相談しながら、どのような設備を用い、どのような順番で製造していくかを決めていきます。

キッチンやラボでの小規模生産と工場での大量生産では、所要時間や製造環境などが異なるため、完成品の質が異なることが多いです。
そのため、工程の見通しが立ったら、工場設備を使っての試作も行ない、不具合や問題を1つずつ解消していきます(ラインテスト)。

なお、この3)の工程全体は「工場への落とし込み」と呼ばれます。
商品開発職で2番目に経験する肝となる業務ですが、求人票でも「工場への落とし込み」とだけ記載されているケースが多いです。
(エージェント時代のヒアリングでも「あ〜、落とし込みやってるのね〜」ぐらいで終わることが多かったです。)

4)初回量産の立ち会い

無事にラインテストが完了したら、いよいよ本番の大量生産に移ります。
初回の製造のみ、商品開発者や商品企画者が立ち会うことが多いです。

商品開発職のやりがいと大変さ

「言うのとやるのとでは大違い」とよく言われますが、商品作りにおいても同じです。
企画するのも大変ですが、商品開発も地道な試行錯誤の繰り返しです。
その過程は非常に泥臭いものですが、その分、無事に製造され店頭に並んだ時には大きな達成感や喜びを感じられます。
大きくまとめると、やりがいと大変さは以下のようになります。

<やりがい>
・アイディアが、具体的な商品になる過程を作っていける
・商品の味や食感といった商品の肝の部分に携われる
・自分の仕事の成果が、お店で確認できる

<大変さ>
・試作時、スケールアップ時など、随時、様々な課題が発生する
・上市の日程(発売日)は決まっているので、納期までに問題解消に努めないといけないプレッシャーがある
・背景知識の異なる部門間で折衝しないといけない
(企画などのマーケティング職と、製造などの技術職は、商品の捉え方・業務遂行の事情が全く異なるため)
・工場への国内外出張が発生しやすい
 ※近年は海外(特にアジア圏)に製造拠点を持つメーカーもあるため。
・工場の稼働に合わせてラインテスト等を行うため、夜勤が発生する場合がある

商品開発職で必要なスキル・キャリアパス

商品開発職で必要とされる(身につけられる)スキル

商品開発職で身に付くスキルは、なんといっても、原料や配合の知識です。
さらに、工場への落とし込みから、自社や委託先の設備や工程設計の知識も身に付きます。
技術的な知識だけでなく、コミュニケーション力も重要です。
具体的には、企画と製造をつなげる立場として、背景知識や物の見方が異なる部署間の間に立つため、非常に高い調整力を必要とします。

商品開発職のキャリアパス

商品開発職は、技術職の配属先として位置付けられることが多いです。
社内異動であれば、研究開発職の方が、より商品に近いものを作りたいと考えた時などです。

一方、ファブレスメーカーや商社では、商品企画者が配合を検討し、委託先工場とすり合わせながら落とし込みを行う場合があります。
その際は、技術面は委託先工場が熟知しているため、必ずしも理系技術職でなくても対応できるケースもあります。

転職の場合は、食品業界経験者、特に原料の知識や、商品の味にも関わる配合の知識があると有利です。
こうした背景から、「調理師・パティシエ」からの転職も多いです。
エージェント時代にも、高齢になって厨房に立ち続けることに不安を感じたり、自分のお店を持つために機械での大量生産も学びたい、といった理由で、飲食業から食品メーカーに転職した方に、何度かお会いしました。

最近(2024年7月現在)は、コンビニ各社の弁当・惣菜を作るOEMメーカーで、商品開発職のニーズが高まっています。
コンビニ食はターゲットが広いこともあり、募集の間口が広く、未経験でもチャレンジできる場合があります。
しかし、コンビニの弁当・惣菜は商品サイクルが早く、また品質基準も厳しいことから、短期での開発が必要となり、かなり忙しい環境で働くことは覚悟しておいた方がよさそうです。

商品開発職のその後のキャリアとしては、商品開発のスペシャリストや、商品企画への異動があります。
また、技術系総合職として、製造管理や品質管理(官能評価、成分分析など)などの異動・ジョブローテーションもあります。

まとめ

今回は、商品作りの要である、商品開発職について解説しました。
企業により、商品企画や調達等との兼務やオーバーラップが見られる職種でもあります。
商品開発職に興味がある方は、ぜひ色々な求人や(少ないですが)新卒採用等の社員インタビューなども見てみてください。
商材による業務の違いや、業務の面白さが実感できるはずです。

次回は、技術職関連で「品質保証」を解説予定です。
更新は7月16日予定です。お楽しみに!

お仕事図鑑シリーズでは、マーケティングや品質保証などの技術職も含め紹介していきたいと思います。

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