かつての実家
極彩色の夢を見る。
毎度のことながら、目の前に広がる景色に圧倒されてしまう。
そこは、色が「色」として「生きている」世界で、視界に入るものすべてが生命力を持っている。
いつか見た夢では紅葉の季節で、目の前に広がった絶景のあまりの美しさに、足元の水たまりに気づかなかったくらい。
スニーカーの中まで浸みてきた水が靴下を濡らして一瞬不快な感覚を覚えたけど、それよりも極彩色の紅葉の世界をもっと味わいたくて歩き続け、気づいたら膝まで水に浸かっていた。
水に映る景色もまた、絶景だった。
いつもそこへ行くと「またここに来れた」と思う。
夢ではいつも、「私の家」というとなぜか今はもうない過去の実家の設定だ。
そのかつての実家は現実ではもう取り壊されて、ピカピカの新築となって今は母がひとりで住んでいる。
私は実家を出て13年、結婚してからも何度か引っ越して、気に入って買った中古の日本家屋に住んでからはもう6年が経つ。
それなのに、夢の中で私の家はいつも、かつての実家のままなのだ。
一昨日の夢で、私はまた「かつての実家」にいた。
すべてがありありと懐かしい場所だけど家族の時間軸だけがバラバラで、母は20年前の姿だし、亡き祖母はまだ生きていて、介護が少し大変になってきた頃の9年前の姿。
4年前に他界した父は他界した後の設定だったので不在で、父の荷物だけがまだそこかしこに置いてあった。
こんなにも「かつての実家」の夢を見ることを、「引っ越しが終わってないんだよ」と夫は笑う。
確かに、過去の場所の夢を見続けることは何かそこに気づくべきものがあるのかもしれない。
私の引っ越しは、何をすれば完了になるのだろう?
昨夜眠ると、私は二夜連続で「かつての実家」にいた。
前日との違いは、そこに友達のよーこちゃんがいること。
今は結婚して海が美しい国に住んでいるよーこちゃん。
時々連絡を取って元気をもらっているけれど、実は私たちはテレパシーでもやり取りしている。
お互いに用事がある時は相手の想念が来ていることがすぐにわかり、話したい内容が伝わってきたり、お互いを表すアイテムや数字などが物質界に現れる。
彼女は以前会ったとき、夢の中で何度か私とUFOを見たり、乗ったりしていると言っていた。
その彼女が初めて私の夢の中の「かつての実家」に遊びに来てくれた。
「お母さんが大変だから帰らなくちゃ」と言った彼女は、しばらくすると「やっぱり泊まれることになったよ」と言い、私たちは「パジャマパーティーだね!」と喜んだ。
(今更ながら見始めた「けものフレンズ」のサーバルちゃんを見てると、彼女と重なる瞬間がよくある。そんなイメージです)
しばらくワインを飲んだりお菓子をつまんだりしてたら、よーこちゃんが
「出かけよう」
と言った。慌てて身支度を整えて一階に降りて行くと玄関が空いていて、ドアの向こうには見慣れない景色が広がっていた。
それは圧倒的な紫色の世界で、世界中のアメジストを集めてきて作ったような、グランドキャニオンみたいな丘があった。
玄関横で風にゆらりと揺れる見たこともない木は、やはり薄紫色の葉をつけている。
空も風も土も、すべてが様々なトーンの紫色になっているのに不思議とヘンテコには見えず、常識的な景色にも見えた。
すべての彩度を全振りしたようなこの世界と、普通の夢との決定的な違いは「質感」にある。
とにかく「存在感」がものすごい。
気体すらもゼリーのような存在感があるので、目の前に見えているものが固体なのか気体なのか一瞬判別できないこともある。
いつも鮮やかさとその質感によって「またここに来れた」と思うのだ。
その時、「かつての実家」を振り返ると父がトイレから出て来た。
父もまた、薄紫色の服を纏って私を見ていた。
でも、この姿はもしかして...
車の音がしたので外を見ると、よーこちゃんの小さな緑色の車が停まっている。
私は父に「行ってきます」と言い、後部座席に乗り込んだ。
乗ってみて驚いたのは、その狭さ。あれ、車ってこんなに狭かったっけ?
そう思った時、運転席にいたよーこちゃんが運転席をぐるりと回転させ、私と向き合う形になった。
「さっちゃんこれ乗るの久しぶりだから、忘れてるかな?」
と言うや否や、私たちが向かい合って座っている「乗り物」が物凄いスピードで動き出した。
まるでつるつる滑っているかのような走り心地で、どこが「前」なのか、どこに向かっているのか、よーこちゃんがどうやって操縦しているのかもわからない。
「この世界のことって、よく忘れちゃうよねー」
と、よーこちゃんが「わかるわかる」と頷いていた。
ようやくこの乗り物に慣れてきた頃、
「さっちゃんのお父さん、この星の人だったんだね。すごく背が高かったねぇ」
と言われ、先ほどの父の姿を思い出した。
薄紫色の服を纏った父の頭は、髪なのか帽子なのかわからないけれど黄色で、体型が地球人のそれではなかったのだ。
もともと割とシュッとした体型ではあったけど、とても顔が小さく、首が長く、体が細長い体型になっていた。
それを見て私がどう思ったかというと
「ああ、お父さんって本当はこうなのか」
となぜだかホッとしたのである。
長年夢に現れる「かつての実家」は、もしかしたら「本当の姿の父」の家なのかもしれない。
その家は私が「またここに来れた」と認識している世界の、実家の住所に建っている。
つまり、死によって離れ離れになった父と母は、時空を超えて同じ場所で暮らしているのである。
変わらずに、愛し合ったままで。
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