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【ブックレビュー】丹羽宇一郎著『死ぬほど読書』

――読書経験の少ない人へ向けた丹羽流“読書のススメ”
だが、読書人から読書人への賛歌でもある

タイトル:『死ぬほど読書』
著者名:丹羽宇一郎
出版社:幻冬舎新書
発行年月日:2017/7/27

実家の本屋さんで生まれ育ち、総合商社・伊藤忠商事で社長まで務めた一流のビジネスマン丹羽宇一郎さんが、読書経験の少ない人へ向けて書いた、読書がどれだけ人生に有益であるかを説いた一冊。

■読書人を勇気づけてくれる

読書の好きな人がこの書名を見れば、読書経験が豊富な人のいわゆる読書エッセイや読書法などを期待してしまう。

読書人が読書エッセイに求めるのは、新たな本と出会いたいといういわば…スケベ心からである。読書人が読書法を求めるのは、効率的な術を知ってもっと本を読みたいというやはり…スケベ心からである。

タイトルはそうやって練りに練った末に決まったものも多いので、タイトルに釣られて買ってしまうこともあります。しかし、実際に読んでみるとたいしたことがなくて、ああ失敗したな、と思うことも少なくありません。

と丹羽さん自身も本書の中で語っている。ならば、もう少し気配りをしてほしかったところ。

では、読書好きに得るところはないのかというとそうでもない。茶道・華道・柔道・仏道など、あらゆる「○道」という世界がある。好きでその道を歩んではいるものの、どこか不安な気持ちにさらされていることもまた事実である。

丹羽さんは本書でいわば「読書道」を提示している。読書が人生にどれだけの恵みをもたらしてくれるのかを喝破することによって、道歩む者の不安を取り除いてくれる。

「読書を多く重ねてきた人は、それだけたくさんの著者と出会って、その人たちの声を頭のなかで響かせているのです。ですから、たとえ一人暮らしで読書に明け暮れているような人でも、内面は孤独などというものからはほど遠く、じつに賑やかで楽しげなものなのではないでしょうか。」
「私から見れば、たとえお金があっても、仕事をしないでぶらぶらしている人は不幸です。 読書にいそしむならまだしも、特段何もしない中途半端な生き方をして本当に楽しいのかと思ってしまいます。」

こういった、読書人を勇気づけてくれる言葉が随所に出てくる。

■瀬島龍三さんの話

同じく伊藤忠商事の社長であった瀬島龍三さんの話も少し出てくる。

瀬島さんは私にこういいました。 「もし問題が起こったら、すぐ飛行機に乗って現地へ行きなさい。お金なんか気にしなくてもいい。それで会社から文句をいわれるなら、私にいいなさい」 商社マンは一次情報を一刻も早く得ることが、とても重要だと教えてくれたのです。これは日本軍の大本営作戦参謀であった瀬島さんの「すべては現場に宿る」という自戒的教訓からきた言葉だと思います。

瀬島さんは、山崎豊子さんの『不毛地帯』の主人公としてよく知られている。フジテレビ系列で放映されていた「日本のよふけ」にゲスト出演された際には、大きな反響があった。筆者もこの番組を通じて瀬島さんの存在を知った。

瀬島さんが語られるときは、どうしても大本営作戦参謀やシベリア抑留の話が先になってしまう。そうして、“お時間”が来てしまうのである。丹羽さんを通じて、ビジネスマンとしての横顔を垣間見ることができたことは貴重であった。

■独自評価

◇文章の上手さ★★★★★
とても丁寧に書かれていて非常に読みやすい。さすが、本屋の息子さん!!
◇表現の美しさ★★☆☆☆
文章表現は抜群だが、ときめくような表現はそれほど見られなかった。
◇情報の豊富さ★☆☆☆☆
あくまで読書経験の少ない人へ向けて書かれているため、未知の情報はそれほど多くなかった。
◇内容の面白さ★★★★☆
読書経験の少ない人にとっても、読書人にとっても、受け取り方は異なるものの、興味深いところが多い。
◇全体の難しさ☆☆☆☆☆
平易な言葉で綴られているため、スルスルと読める。

■まとめ

立場のあるビジネスマンによって書かれた本では、生々しい時勢への意見ついては各所への配慮や利害から触れられないことが多い。触れたとして、歴史になぞらえつつ、歴史は変わらないなどと文を結び、読者に察して下さいで終わらせてしまうことが多い。丹羽さんはその辺りに全く容赦がない。それも、本書の魅力の1つになっている。

読書は心に与える栄養であると丹羽さんは言う。商業主義のビジネス書を読むより、ずっと「栄養」となるに違いない。


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