【追悼コラム】相次ぐ訃報に触れて…それでも言葉を綴り続ける
―上品でありながら、ピリリと辛みの効いた関西弁が光る人でした
岸部四郎さん、斎藤洋介さん、藤木孝さん…
最近、俳優さんや有名人の残念な訃報が続いている。
お悔やみ申し上げ、安穏を念願する。
さて、岸部四郎さんと言えば、どのニュースでも言われていることではあるが、やはり沙悟浄役である。
ドラマ『西遊記』はクオリティが高く何度も再放送され、今や海外進出まで果たしている。その当時においても高い視聴率を獲得して、大きなムーブメントだったと聞いたことがある。
再放送を楽しんだ世代ではあるが、本編前の銅鑼から始まるジングル(でいいのかな?オープニング?)を聞いただけでもワクワクしたものである。
そういった意味でも、岸部四郎さんと言えば、沙悟浄となるのは当然であるが、沙悟浄を日本人に親しみやすい存在にしたという意味においても、その功績は大きいだろう。
ドラマを観て『西遊記』に興味を持ち、『西遊記』の訳本を読んで見ると、驚くことになる。孫悟空と猪八戒は大活躍なのだが、沙悟浄の存在感は極めて薄い。水怪とされているだけで、もちろんカッパでもない。
『西遊記』の研究者として知られ、岩波文庫版の翻訳も担当されている中野美代子先生は、講談や劇などで創作が繰り返されるうちに、キャラクターが成熟していったと語る。
つまり、孫悟空と猪八戒については、キャラクターが十分に成熟されてから、『西遊記』が編纂されたが、沙悟浄のキャラクターが育つ前に『西遊記』が編纂されてしまったと語る。
漢学の家系に生まれ、素養あまりある中島敦さんは、その点を見逃さなかった。
中島敦さんと言えば、やはり代表作は、『山月記』『名人伝』『李陵』であろう。
沙悟浄を主人公とした、『悟浄出世』と『悟浄歎異』もなかなかの名作である。『西遊記』で目立たない存在であった、沙悟浄に悲哀を感じたのであろう。
中国を舞台とした憂いのある作品は、中島敦さんの主戦場である。内容としては、軽いものではないため、精神の健康状態が良好なときに、読むことをオススメする。
筆者を含め、日本人の想像力を豊かにしてくださった、関西弁の沙悟浄・岸部四郎さんに感謝申し上げ、本日の筆をおく。
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