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『君は隅田川に消えたのか-藤牧義夫と版画の虚実』 駒井吉重

結局、藤牧義夫の事が気になってしまい一気読みしてしまいました。メチャクチャ面白かったです。が、深い…

こちら、昭和10年に24歳の若さで失踪した版画家・藤牧義夫の謎を追いかける作品。彼自身のこともさることながら、どちらかというと彼の〝偽作〟の謎について調べ上げたミステリー仕立ての内容でした。

藤牧の謎の失踪については最後まで分からずじまいですが、それよりも生前の彼の事を語り続け、結果的に藤牧の名を世に拡げることに繋げた、版画家・小野忠重の存在に俄然関心が沸きました。

小野忠重は藤牧義夫の2歳年上で藤牧の存在が知られるきっかけになった新版画集団を立ち上げた人物。

小野は、藤巻が失踪す直前に小野に会いに行き、藤巻から多数の作品を預かったと自ら語り続けていた。

しかし語る内容は時の経過により変遷し、長い時を経て辻褄が合わないことに一部の人達が気づき始める。

しかも、小野から周囲に提供されていた藤牧作品の中には〝偽作〟があった事まで明るみになっていき…。

本作の著者は、偽作を制作した人物に「何故そんなことをしたのか?」と何度も疑問を抱くが、最終的な答えを見いだせない。

でも、その複雑な感情について、この本を読み終わる頃には感覚的に理解できた気がする。

似た感覚を感じた作品があったよなーと考えていたら思い出しました。

映画『累-かさね-』です。

こちらの『累-かさね-』では、キスをすると顔が入れ替わる不思議な口紅によって、美貌を持つ相手と入れ替わり、元々自分が持っていた演技の才能とが合わさって、瞬く間に周囲から注目されるようになっていく。

但し入れ替われる時間は限られている。

このままずっと入れ替わったままでいられたらいいのに…という内容でした。

藤牧の〝偽作〟を制作した人物は、正に入れ替わった感覚で1人で2人の人物を生きていたのかなと感じました…。

昭和52年。
画廊・かんらん舎の大谷氏は「早逝の画家達」の企画で藤牧をとりあげようと、彼の作品を所蔵する小野に相談。
すると、小野から3つの条件を提示される。

  • 図録を作成すること

  • 藤牧の生地・館林に記念碑を建立すること

  • 作品が散逸しないように美術館に一括売却すること

この3つの条件に複雑な心境が表れている気がする。悔恨と鎮魂、但し名声を欲する感情が上回っている。

『藤巻の作品』=『自分の作品』を美術館に収蔵することに。

大谷氏は約束を果たし、生地に記念碑を建立し、更に作品は東京国立近代美術館に収蔵された。

色々感じることある書籍でしたが、これからも『隅田川両岸画巻』をはじめ、素晴らしい藤牧作品には純粋に楽しませて頂こうと思います。

いやー、ホント深い内容でした…。

こちらをご覧になると更にこの本を読みたくなると思います。



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