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キタダヒロヒコ詩歌集 1 ゆらぐ

 ゆらぐ   キタダヒロヒコ


考へごとをするため
車を北へ

四つめの街を抜けるころ
そのひとのことを思ふ

そのひとはゐるやうでゐない
すくなくとも私の未来には

ゐないであらう
考へごとのなかにはゐるけど

蔦だらけのふるい館を過ぎる
行つたこともない家だ たぶん

これから行くことも無い しかし
紗のかかつた記憶にある家だ

わたしの意識に欠かせぬ家だ。
そのひとのやうに

影しかなくてもそこにいのちは
蜘蛛の巣のやうに張つてゐる

蔦がふいに揺れ
車体の裏側に光がゆらぎ

わたしはずつと気づかない
あなたもずつとそのことに



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