第2話 二人の絆
土曜日、清乃は海斗の家で、冬用の浴衣をネットや
近くのお店のパンフレットを、一緒に横になりながら見ていた。
清乃は出来るだけ可愛い浴衣を探していたが、
海斗にとっては柄は清乃と同じならどれでも良かった。
彼は彼女の視線の先を見るように、清乃を見ていた。
清乃は海斗が自分を見ている事には気づいていたが、
嬉しくもあり、照れてもいたが、彼女はどれなら彼が気に入って
くれるだろうかと気にしていた。
海斗にとって清乃は、自分よりも大切な存在だった。
当然、それは彼女にとっても、海斗は愛してやまない存在だった。
その想いは強くなるばかりで、彼女は浴衣を見ていたが、
彼は遠い想い出を、いつしか眺めていた。
最初の出会いは、幼い頃、両方の両親と共に
キャンプに出掛けた時だった。
お互いに一人っ子で、二人とも小学一年生だった。
一人っ子だった為か、人見知りで、清乃は母親の足の陰から、
ただ黙ってじっと海斗を見ていた。
それに気づいた海斗の父親は、足元にいる息子の背丈までしゃがみ込むと、まだ幼い男の子に言った。
「女の子は力が弱いから、清乃ちゃんを守ってあげなさい。
脅かすような真似などしてはいけない。
心を自分から開けば、すぐには難しいだろうが、
必ず伝わるものだ。お前は優しい子だ。いつも通りに接しなさい」
海斗は目の前にいる父親に深く頷いた。
そして海斗は清乃の近くまで行くと、更に彼女は陰へと隠れたが、
「ぼくが守るから怖くないよ」と清乃に向けて優しく話しかけた。
「ぼくの名前は海斗。ぼくの初めての友達になって欲しい」
まだ小さな女の子は、ゆっくりと母親の足元の陰から顏だけ出すと、
「わたしの名前は清乃。わたしの友達になってくれるの?」
「うん! ぼくは男だから清乃ちゃんの事は守ってあげるね!」
少女は笑顔で頷いて、母親の足元から手を離して、
少年の元へ笑顔で走って行った。
二人の両親たちは微笑ましく子供たちを見ていた。
両親たちは目の届く範囲に、子供たちにあまり遠くへ行かないよう
伝えていたが、視界から消えていた。
そして、子供にはよくある事だと思い直した。
暫くすると、広いキャンプ場に悲鳴が轟いた。
泣きながら清乃が両親の元へ走ってきた。
何を言っているのかさえも分からないほど錯乱していた。
海斗がいない事にすぐに気づいた。
「あなた!! 海斗を探してきて!」
父親は清乃が走って来た方向へと、一心不乱に駆けた。
そこにはうつ伏せに血まみれになって倒れた海斗と、
大型犬の首輪を握り締めていた男がいた。
父親はすぐに救急車を呼び、
気づけば辺り一帯に人だかりができていた。
皆、声を落として囁《ささや》き合っていた。
海斗の父は、背中の服は引き裂かれ血まみれの息子に対して、
震える指で脈を取った。
弱くて今にも消えそうな灯のような、
ゆっくりと静かな血の巡りを指先に感じた。
犬は飼い主らしき男に、動きが取れないよう緑の地面に押し付けていた。
リードは無理矢理引き千切ったように切れてきた。
偶発的に起きた事故だと、分かっていても、怒りは確かにあったが、
それ以上に吐き気をもよおすほど、心が痛かった。
救急車と警察のサイレンが聞こえ、誰かは知らないが、野次馬の誰かが
警察を呼ぶ前に救急車を呼ぶべきだろうと怒りに拳を握らせた。
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