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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2022年6月の記事一覧

【超短編小説】 警報、出てますよ

【超短編小説】 警報、出てますよ

傘は差さなかった。

びしょ濡れになりたかったから。

服が濡れてもすぐにお風呂に入ればいい。

その日は台風が近づいていた。

「ごめん、台風。私、今から外に出るね」

玄関を思い切り開けて、アパートのそばにある公園までダッシュする。

公園に着くと持っていた傘は畳み、地面に落とした。

すると、物凄い勢いで雨が降ってきた。

でも、良いの。天然のシャワーなんだから。

公園の近くを通る車に乗っ

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【超短編小説】  必殺ボールキャッチ

【超短編小説】 必殺ボールキャッチ

今日も連敗だった。

ここ最近は負け続きだ。

まあ、勝てることも少ない。

何をもって勝ちというのかも分からないが。

息子には、こう言った。

「パパは勝ちがほとんど決まった試合に何度も出場しているんだ。社長という監督にはな、ボールぐらい取って来いと言われてる」

「ボールは取れるの?」

「取れたら良いけどな。なかなかボールは取れないんだ。ボールを取るのはパパの同期ばっかりさ」

「ボールは

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【超短編小説】 砂時計を止める

【超短編小説】 砂時計を止める

砂時計を止めた。

私の行為を知る者は、誰もいない。

しかし、砂時計を止めなければ、世界は今頃とんでもないことになっていた。

この行いが公表されることは決してないだろう。

日の目を見ることはないけれど、確かにそれは必要なことであった。

この世の中には、ニュースにならなくても成し遂げなければならない陰の支えが数多く存在する。

これらの支えが無くなれば、人々が今日と同じように生活を送ることは

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【超短編小説】 悩んでるんだダンス

【超短編小説】 悩んでるんだダンス

私は悩んでいた。

「なに、悩んでるの?そんな難しい顔しても変わらないんじゃない」と妻は言った。

「君には分からないさ」と私は冷たく返した。

「そういう時はね、悩んでるんだダンスを踊れば良いの」

「悩んでるんだダンス?」

「そう。最近、考えたの。こうやってやるのよ」

妻は椅子から立ち上がると、手をひらひらさせて「悩んでるんだダンス」と何度も繰り返し言いながら踊り始めた。

「くだらないこ

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【超短編小説】 明日には好きになる

【超短編小説】 明日には好きになる

「明日には好きになると思う」

「どういうこと?」

「なんていうか、好きと嫌いが毎日入れ替わるんだよね。だから、今日はちょっと嫌いなの」

「昨日は?」

「どっちでもない」

「その基準じゃ、僕には分からないよ」

「分からないけど、そうなの」

「どうして?」

「理屈じゃないんだよ、こういうのは」

「分かりやすく言って」

「上手く言えないけど。女の子にはそういうことがあるんだよ。そうだ

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