【超短編小説】 警報、出てますよ
傘は差さなかった。
びしょ濡れになりたかったから。
服が濡れてもすぐにお風呂に入ればいい。
その日は台風が近づいていた。
「ごめん、台風。私、今から外に出るね」
玄関を思い切り開けて、アパートのそばにある公園までダッシュする。
公園に着くと持っていた傘は畳み、地面に落とした。
すると、物凄い勢いで雨が降ってきた。
でも、良いの。天然のシャワーなんだから。
公園の近くを通る車に乗っている人達が私を見ている。
おそらく窓越しに「警報、出てますよ」と言っている。
でも、私の心は警報以上のゲリラ豪雨なの。
雨に打たれなきゃ、やってられない。
私は誰もいない公園に一人立っていた。
しばらくすると、自転車を押して歩くお巡りさんがやってきた。
「お姉さん、こんな日に何してるんですか?」
「良いんです。私が選んで、こうしてるので」
「しかし、今夜は暴風警報が発令してますから」
その時だった。
空から声がした。
台風が話しかけてきたのだ。
「良いじゃないですか、たまにはそんな日があっても。雨に打たれてくださいな」
「ありがとう、台風!」と私は返したが、お巡りさんには台風の声は聞こえなかったようだった。
「誰と話してるんですか、風邪引きますよ」とお巡りさんは心配そうな顔をした。
「風邪は引きません。だって、私の気分はもう晴れ模様なので」(完)