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~こんなにも美味しくないピーマンの肉詰めははじめてだ~


大切な人とひと時を過ごすとき、
そこにお料理があったらこころが弾むのは
何故だろう
そこにあまいものがあったら
もっと気持ちが晴れるのは 
何故だろう。

悲しい時 涙が出る時。口に入れるたべものは
濡れてしまって美味しくない 

苦しくて たべものが喉を通らない時
生きるのが辛いとき
食べ物を口にいれたって おいしくない

じゃあ食べなきゃいいじゃない。

でもさ、どんなに辛くても
生きるのが嫌でも
たべる は切り離せない

たとえ味がしなくても
口から食べられなくても
たべものって
沈んだ心になぜか
少しの勇気と前向きな気持ちをくれる

口にすると ハッとするのはなんでだろう
お腹に入れば ぎゅーっと
まってたよ、と優しくおなかが動きだす
そして少し。 やさしくなれる。

苦しくたって 生きている
ハッピーなときと、なんも変わらない
からだはちゃんと動いている
生きている。

わたしが辛かったあの日。
胸に何か詰まっている感覚がして、
食べたいという気持ちになれなかった。
というか、食べるなんて。
こんなわたしには贅沢だと思った。
でも今日あった苦しい出来事が母にバレないように。
頑張って口にしたのは
母の作ったピーマンの肉詰め。

泣く予定はなかったのに
クールに食べ終えて塾に行く予定だったのに。
一口噛み締めたら
ぶわーっと涙が溢れたのは、
変わってしまったわたしの日常と反対に
変わらないいつもの母の味があったから。

安心したんだと思う
涙が次から次へと出てきた。 嫌だった。

今日のことは
わたしを愛してくれる母にだからこそ
話せないと思っていた。。なのに。

流れた涙で計画は台無しだ。

でもそれで良かった。
本当は
母の胸で泣きたくてたまらなかった…
朝から堪えていたこの気持ちは 
夕食のピーマンの肉詰めで一気に崩されてしまう。

溢れる涙とともに 
ひとつひとつ 噛み締めて
わたしは泣いているなあ
苦しいなあ 
こんなにも美味しくないピーマンで肉詰めは初めてだなあ。
だけど母の味、母の胸。安心するね。
そう思った。
わたしは母にひとつひとつ話し始めた。
母も泣いていた。

お母さんのつくるご飯はいつも安定している。
だからわたしのぐらつく気持ちを引き出して、
大丈夫よ、話していいの、泣いてもいいの、
何があったっていつもの味は変わらない
何があったっていつもの母よ
あなたの母よ。
だから 辛かったこと
話して … と。

母のつくるご飯には
母の気持ちがまるごと宿っていて
口にすればたちまち伝わる。

ありがとう
ここにわたしの居場所があった
まだ生きてていい
ここにいる
食べてもいい

ありがとう。
いただきます。
ごちそうさまでした。

… お料理にはそんな物語がある。
ただ食べているだけかもしれない。
でもお野菜にもお魚にもお肉にだって
色々な物語がある。
そしてそれを調理する人にも
口にする人にもたくさんのストーリーがある。


一食一食、ひとつひとつの食材に、道具に、人に、、
感謝していただく。

そして食卓を囲む時
あなたのお顔はどう変わるかなあ
少しでもこわばりが緩んでいたらいいなあ
ツンツンした言葉でなく、誰かの悪口でなく、
柔らかい まあるい言葉が出るといいなあ。
そう想像しながらわたしは台所に立ちます

お料理教室に通ったわけでも 
お料理の学校を出たわけでも
特別な修行を積んだわけでもありません。
昔からいただいてきた母と祖母の味を頼りに
そこにおいしさと幸せがぴたりと重なるように
その日お逢いできる方を想い、
メニューを考えて つくる。
そんなことをしていたら
いつの日にかお料理は
私の中で相手と気持ちを交わす大切なツールのひとつになっていました。

かつて辛かった日に
食事でわたしのきもちを引き出してくれた
母のように。

わたしも、食べることを通して
みなさまの心にある硬いものを
するすると溶かして そして
やさしいことばや心に詰まっていた想いが溢れて…
ほーっと癒されて
そして前向きな気持ちになれる。
そんな、ひとときを今後お届けできたら幸せだなあ。と、
ぼんやり考えている今日この頃です。


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