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年老いた母が「自己選択」をする

年老いた母は、自分で選んだり、決めたりする機会がほとんどありませんでした。最近、車椅子に乗るようになり、母なりの自己選択の機会が増えました。私にとっても嬉しい経験でした。

膝が痛いから引きこもる それなら痛くない方法で外に出よう


母は、まさに「閉じこもり」。家の外には全く出ません。介護サービスも使いません。人と接することもほとんどありません。体のあちこちが痛く、動くのもやっと。家でじっとしている、の悪循環でした。

車椅子がやってきた


母に「お出かけしよう」と言っても「いやや」という返事。最大の理由は、膝が痛いから歩きたくないということでした。

「そうか〜。出かけたくても痛くて行けないんだね」
「じゃあ、痛くない方法で出かけたらいい」
「車椅子を借りよう」

母の介護認定では、車椅子を介護保険で借りることはできません。ところが、市の社会福祉協議会で無償で借りることができました。きれいで扱いやすい車椅子をすぐに貸していただけました。
「すごいなあ。車椅子をただで貸してもらえるシステムがあるんだ。親切だね〜」

そして、車椅子が母のもとにやってきました。
車椅子の乗り方を母に伝授。
フットレストを上げ下げする、ブレーキをかける、こいで前進するといったことを少しずつ教えました。

ところが、母にはブレーキの概念がない。
そうです。母は、自転車も車も運転できない人生を送ってきたのです。だから、「ブレーキをかける」という語彙も経験もなかったのです。



とにかく外に出よう


天気の良い日には、私が車椅子を押し、家の周りを散歩しました。私がさりげなく母から離れていると、母は自分でこいで動くようになりました。そこで一句。

”運転を はじめてしたのは 車椅子 ”    母

やっぱり母には動きたいという気持ちがあったんだなあ、と嬉しくなりました。私が行き先を決めるのではなく、母が一人で行き先を決め、短い距離を自分で進んでいました。


図書館で本を自分で選ぶことができた


母は本を読むことが好きです。
以前は、代理で、母が好みそうな本を数冊図書館で借り、母に渡していました。気に入って読むものもあれば、そうでないものもありました。

好きな著者の本を選ぶ

好きの母はきっと自分で本を選びたいだろう、と思い、車椅子で図書館へ出かけました。
初めは、私が車椅子を押し、「どれにする?」と母を誘導していました。

車椅子で図書館に出かけ始めて1ヶ月すると、母は自分で車椅子を漕いで、本棚を巡るようになりました。私は、少し離れたところから見守り。母は、気に入った本を2〜3冊選んで、自分でカウンターへ行き、借りることができました。
「へ〜、お母さん、結弦の本読むんだ」と、母の好みについての発見がありました。

読みやすい形態の本を選ぶ

ある日、「これ借りる」と言って持ってきたのは、大活字の本でした。母が自由に本棚を巡り、自分にとって読みやすい本を見つけたのでした。

私はそれまで、大活字本と言えば視覚障害のある方のもの、という先入観がありました。そのため、大活字本の棚には行きませんでした。しかし、母は、「これなら読みやすい。疲れない。」と思い、選んだのです。自分で、自分にふさわしい本を選んだのです。「そうなんだ。老眼の人も大活字本を読んでいいんだ」。母の選択は、私にとっては大きな発見でした。


痛い膝は車椅子でカバーした そうすると自分で選んで、本当に自分の求めているものを手に入れることができた


本好きの母が、与えられるのではなく、自分で本を選ぶことができました。自分の好きなものを自分で選ぶ、私たちが当たり前にしていることです。母は、車椅子に乗ることで、動く自由を手にし、自分の好きな分野で自己選択の機会を持つことができました。

自己選択することは、自分の時間を充実させることにつながるのですね。これからも、少しずつですが、母の自己選択の機会を作っていきたいと思います。





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