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京都市京セラ美術館に行ってきました。

ミュージアム部のキムチです。大阪在住。子供のころから両親に連れられ、天王寺の大阪市立美術館や岡崎の京都市美術館に通い、どちらかと言えば行き返りに連れて行ってもらえるレストランや喫茶店を楽しみにしていました。そのころから数えれば、美術鑑賞歴は半世紀にも!

さて、2017年4月からリニューアルのために休館になっていた京都市美術館が、命名権を得た京セラの名前を冠した京都市京セラ美術館としてリニューアルオープンしました。当初の開館予定が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で遅れていましたが、5月26日からオープン。京都府在住者に限られていた入館制限も今はなくなり、入館時間を区切って事前予約制での入館になっています(美術館ホームページから、もしくは電話による前日までの予約)。今回は、リニューアルした美術館と杉本博司さんの「瑠璃の浄土」展 をお目当てに、久しぶりの京都に足を延ばしてきました。

館長を務めるのは、リニューアルも担当した建築家の青木淳さん

リニューアル前の京都市美術館は、昭和3年に昭和天皇の即位を記念して計画された大礼記念京都美術館(開館は昭和8年)を前身としており、帝冠様式の重厚な建物ですが、リニューアルを担当した青木淳さん(青木淳・西澤徹夫設計共同体)は、その外観をほぼ維持しながら二つの大きな変化を加えることによって美術館の動線と可能性を広げています。

ひとつめは、西側玄関前の広場を掘り下げてスロープを作り、エントランスを地下1階レベルに設定したこと。掘り下げであらわになった前面をガラスで覆い「ガラス・リボン」という空間を作り出し、そこにミュージアム・ショップとカフェを設置しています。

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玄関前のスロープ

エントランスから内部に入ると正面に大階段があり、そこから大空間の中央ホールに上がることができます。この中央ホールが美術館のハブとなって、北側の企画展示室、南側の常設展示室、そしてさらに東側に抜けた北側(本館の北東側)に改装されて新たに設けられた新展示室(東山キューブ)へとアプローチすることができます。(この東山キューブで「瑠璃の浄土」展が開催されました。)中央ホールから東側へ抜けると、ガラス窓から七代目小川治兵衛作庭になる日本庭園とその奥に東山の山並みを望むことができます。設計の青木淳さんが意図したのがこのエントランスから東山を望む東西軸の動線で、現在は入館を制限されていますが、ゆくゆくは市民に開放されることが予定されているそうです。

ふたつめの変化は東山キューブの改装で、現代美術に対応する大箱の展示室に生まれ変わりました。屋上は屋上庭園として開放されていて、ここからも日本庭園や東山を望むことのできる憩いの場所となっています。

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日本庭園から東山キューブを望む。池の上には杉本博司さんの「硝子の茶室 聞鳥庵Mondrian」が。

今回の改装の設計を担当し、新たな館長を務める青木淳さんは、ポスト・モダン建築で有名な磯崎新アトリエの出身で、作品としては各地のルイ・ヴィトンの店舗設計や青森県立美術館の設計で知られています。今回のリニューアルにおいても、南北に両翼を持つ歴史的建造物に東西の軸を再設定し、歴史と現代をクロスさせるような文化的場を創造することに意欲を示しています。

ミュージアムショップとカフェも美術館の魅力

私には「美術館のカフェは美味しい」という持論(思い込み?)がありますが、「ガラス・リボン」の南側に設けられたカフェ「ENFUSE(エンフューズ)」は、「温故知新」をコンセプトに、京都ならではの調理法や地元の食材をいかした食事やスイーツ、ソフトドリンクとクラフトなアルコールドリンク等を提供しています。今回ランチに選んだのは「京の素材のおかずプレート」と自然派ワインの白。

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おかずプレートが1200円で、グラスワインが800円。プレートもワインも美味しかったです。

「ガラス・リボン」の北側にはミュージアム・ショップ「ART LAB KYOTO(アート・ラボ・キョウト)」があり、開催されている各展覧会のグッズや豊富な美術書籍、京都の伝統文化を楽しめる限定商品、オリジナルグッズからスイーツまで、豊富なラインナップが楽しめ、ミュージアム・ショップにも力が入っていました。

杉本博司さんの魅力を存分に味わう「瑠璃の浄土」展

さて今回のお目当ては、現代美術用に新設された「東山キューブ」で開催された杉本博司さんの「瑠璃の浄土」展。「かつて6つの大寺院が存在していた京都・岡崎の地に立つ京都市京セラ美術館の再生にあたり、現代における人々の魂が向かう場所としての浄土の観想や、今、果たされるべき再生とは、といった問いから、「瑠璃の浄土」のタイトルのもと、仮想の寺院の荘厳」が構想されたとのこと。土地の歴史にまつわる「浄土」と、それを「瑠璃=硝子」から構想する企みに杉本さんの仕掛けがあります。

ニューヨークで自ら古物商を営む経歴を持つ杉本博司さんは、1970年代より、大型カメラを用いた高度な技術と独自のコンセプトによる写真作品を制作し、世界的に高い評価を受けてきました。私が杉本さんの展覧会で最初に衝撃を受けたのは、金沢21世紀美術館で2008年から2009年にかけて開催された「歴史の歴史」展でした。その展覧会では、収集家としての杉本博司と写真家としての杉本博司が一体化し、法隆寺や正倉院などの歴史的美術品の(とても個人とは思えない)収集品から、歴史の尺度を笑うかのように考古遺物、化石、宇宙写真と宇宙食などの展示品が並べられ、そこに自らの海景シリーズ、放電場シリーズなどの写真が組み合わされていました。組み合わされ繰り広げられる展示からは、人が営む「歴史」を超然と俯瞰する乾いた視線を感じましたが、それは代表作のひとつである「海景シリーズ」に漂う不思議な感覚に通じるものかもしれません。

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金沢21世紀美術館「杉本博司 歴史の歴史」展             (出展:https://www.kanazawa21.jp/exhibit/sugimoto/

杉本さんの作品には、哲学者のカンタン・メイヤスーに倣って「祖先以前性」とでも言ってみたくなるような、人知を超えた時間が集積しているように感じますが、今回の「瑠璃の浄土」展にも、人々が希求する「浄土」という観念をプリズムという光学機器で分光し、数々の瑠璃による作品へと結晶化していくもうひとつ別次元の時間が流れていたように思います。

なかでも、今回の目玉となる展示はふたつ。ひとつは、新たに制作された京都蓮華王院本堂(通称、三十三間堂)中尊の大判写真を含む「仏の海」で、薄暗い会場に浮かび上がる1001体の千手観音立像を従えた中尊の大判写真が、三十三間堂の荘厳さを再現しています。また、隣の部屋には、もうひとつの目玉作品である世界初公開となる大判カラー作品「OPTICKS」シリーズが展示されていますが、これはアイザック・ニュートンがプリズムによって太陽光を分離し、再び収束させた実験にちなみ、分離した光のあわいと深みをカラープリントに再現する作品です。この作品でも光が自らの中に閉じ込めた深い深い時間がじわじわと析出してくるような感触が味わえます。

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OPTIKSシリーズより。

思えば、美術館を訪ねる旅とは、異なる時間の中に迷い込むような旅かもしれません。だからこそ、美術館を出た時、私たちは少しぼーっとしているのかもしれません。その余韻を味わいながら、京都のまちをしばらくぶらぶらするのは、至福の時間ですね。

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至福の時間に乾杯。

京都市京セラ美術館
 〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町124
 TEL:075-771-4334
 開館時間 10:00~18:00※入場は閉館の30分前まで
 休館日 月曜日※祝日の場合は開館/年末年始
 ※現在、来館予約制。詳しくは公式HPをご覧ください。
 https://kyotocity-kyocera.museum/




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