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無い日記

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記事一覧

サボテンの男性

サボテンの男性

夕方、涼しくなってきたので散歩に出かけることにした。
もうすっかり秋だ。秋の湿度が愛おしく感じる。
歩いていると庭先に座っている男性がいた。30代か40代くらいの男性で、空を見上げていた。
「綺麗な夕焼けですね」と話しかけたら、「夜を待っているんです。」と返された。
やけに白く、嫌に目が黒い男性だった。
「夜になったら…夜になったらサボテンを散歩させようと思うんです」
「サボテンを?」
「家の中で

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無い日記:通勤路

無い日記:通勤路

東京メトロ丸の内線に乗って銀座駅で降りる。
私のバイト先の最寄り駅だ。
銀座というだけでなんだか高級な猫、高級な鳩、高級な人間に見えてくる。静かに背筋を伸ばす。

高級な人の群れの中に、私がよく知るローカルな遊園地でもらえるお土産を首から下げる人たちがいた。
最初は一人だったが、だんだんと増えていきあっという間に6人ほどまで増えた。
乗換駅でもなければ住宅街も無いこの駅でなぜ…?と少し不安になる。

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ショートショート:惑星セット

南行徳駅の裏を歩いていたら、小さなペットショップが新しくオープンしていることに気が付いた。
私はハムスターが好きなので、買うつもりは無いが眺めていこうと思い、少し立ち寄った。
するとそこに大きな水槽を見つけた。
縦1メートル、横2メートル、高さ80センチ程の大きな空の水槽だ。
こんなデカい水槽なのに、値段があまりに安い。1万円払って少しおつりがくるくらいだ。
水槽の横には小さな虫かごがあり、おがく

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ショートショート:Bot

朝、目を覚まして机を見ると手のひらより少し大きい芋虫がいた。
カブトムシの幼虫みたいな、白くて柔らかいアレ。
「勝手に家に上がるな!」と言うと、「あ~、すみません。」とゆっくり落ち着いた声で話してきた。
机の上は邪魔なので、棚の空いているスペースに移動させた。
「何で家に来たの?」と聞くと、「なんとなくですね…」と言う。
まあ、確かになんとなく人の家に上がりたくなる日もあるよな、と納得する。
妙に

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無い日記:不法侵入

今朝の私は、天井を向いていた。
スマホ依存症の私は、寝る寸前までスマホで何かしている。
私のスマホはデカいので、大抵横向いて寝ることになる。
でも昨日はいつもと違った。
スマホの充電コードがしっかり刺さっていなかったからなのと、疲れてスクロール酔いしていたのと、ちょうど青空文庫の小説が読み終わったからだ。
水からだんだんと浮かび上がるように、睡眠から這い出る。
開けた目が視力を取り戻してくると、ザ

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無い日記:収穫

無い日記:収穫

JR相模線に乗っていたら、居眠りをしてしまった。
私は寝ぼけていたのもあり、目を覚ましてすぐ電車から飛び降りた。
目的の駅のだいぶ先の下溝駅だった。
ううむと考えてから、まあ急ぎの用事もないしと思い、下溝駅で下車してうろつくことにした。
こういう時散歩すると、なんとなく「良い生活」をしている気持ちになれるので好きなのだ。
良い生活は無意味さから生まれると思う。
今日は曇り。散歩するには丁度良い。

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