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歩くことと、その先にあったこと

怒らないから正直に言ってほしい。
もう花粉飛んでるよね???


歩くのが好きだ。

東京都の生活保護受給者は、都営交通の無料乗車券というものがもらえる。
これは1年有効の定期券のようなもので、都営地下鉄や都営バスを無料で利用できる。
PASMOに移し替えることもできて大変便利なので、わたしも活用している。
無料乗車券も持っていて、自宅そばには地下鉄駅とバス停があるにも関わらず、時間が許せば歩ける範囲は歩いて行ってしまう。

単純に歩くという行為が好きらしい。

歩くと血流が活発になって頭が冴えるし、歩きながら眺める風景も面白い。
20~30分の散歩だけでなく、月に1回役所に収入申告しに行く時も、小一時間歩いていったりする。

まだ今とは別の場所に住んでいた時、朝から3時間くらい歩いて役所まで行ったことがある。
完全なる出来心で、2時間歩いた頃には、
「なんでこんな無謀なことを…」
と、力いっぱい後悔していたが、なんとか最後まで歩きとおした。
翌日、脚は筋肉痛でパンパンだったが、その翌週には
「また歩きたいな~」
という気持ちになっていたから、我ながら驚く。
疲れることは度外視なのだ。

ひとりで歩くのもいいし、誰かと歩くのもいい。
昼間でも面白いが、夜中だと俄然ワクワクする。

一番好きな”歩きスポット”は、都市の大きな街道沿いだ。
わたしは田舎の出身で、東京に出てきて、その夜の明るさと賑やかさに感動したクチだったりする。
繁華街や盛り場だけでなく道路もだ。
四六時中クルマが走っているので驚いたものだ。

真夜中に川崎駅から南武沿線道路をはるばる溝の口まで歩いたことがある。
血気盛んな若い頃、飲み仲間のひとりに「もう終電ないから、歩いて家まで帰ろう」と言い出すクレイジーなヤツがいた。
彼女の家までの距離は、多分わたしと似たり寄ったりだったと思う。
ふたりしてどうかしている。
その時はダラダラと4時間くらい歩いた。
なにしろ気力も体力も今の10倍はあったので、歩いている最中はずっとしゃべっていた。
なにをそんなに話すことがあったのだろう。
ちっとも思い出せないから、さぞしょうもない話をしていたのだと思う。
時々自動販売機で飲み物を買って、飲みながら歩いた。
電車の高架が並走する広い街道で、高架下に張り巡らされたフェンスを、ずーっと先まで街灯が照らしていた。
時々通りかかるコンビニやファストフード店の灯りが温かそうに見えた。
今起きているひとが自分達以外にもいるんだねえと、当たり前なことを言って笑ったりした。

普段の生活で夜道というのは、大なり小なり恐ろしいものだ。
わたしは家に帰る途中、自転車に乗った若い男にすれ違いざま「ワッ!」と、脅かされたことがある。
駅から家の前までおっさんが後ろをついて来て、マンションに入ろうとしたところで「これから食事しませんか?」と言われたこともあった。
実体験以上の恐ろしいことはニュースでいくらでも知ることができる。
わたし達は自分自身の警戒心でそれらを避けねばならず、回避に失敗すると自業自得とされることさえある。
その理不尽さがさらに恐ろしい。

この夜は、そういった恐ろしい目に遭うことなく、歩きとおせた。
このままずっと歩いててもいいなあと思えてしまう、幸福な夜だった。

この夜の記憶があるためか、時々誰かと歩きたい気分になることもある。
とはいえ、誘い合って昼間ウォーキングをするのとは違うし、当然夜は危険なので、今は主に昼間ひとりで歩いている。

便宜上、歩くゴールは設定する。
東京から鹿児島まで歩き続けるわけにはいかないし、期日のない放浪の旅に出るわけにもいかない。
それでも歩いている間は、どこまででも行けるという気持ちになり、実際に放浪しているような心許なさと清々しさがある。

わたしが自分の力だけでできることは多くないが、ただ歩いてどこかに行って帰ってくることはできる。
そのことが素朴に面白く、心強い。
思いがけず遠くまで行ってしまっても、とりあえず歩けば帰ることだってできるのだ。

誰の言葉だったか忘れてしまったが、
「歩くのを止めなければ、とりあえずゴールにはたどり着ける」
というのがある。
なにもかもがそんな簡単だとは思わないが、好きな言葉だ。

コロナで世の中がひっくり返って仕事がなくなった時、性風俗に戻るしかないとあきらめかけたことがある。
二度と戻りたくなくて、性風俗から逃げ続けてきた。
二度と知らない男の性器を口に入れたくなかったし、裸を見せたり触られたくなかった。
そして不快さを受け容れて笑うこともしたくなかった。

だからもう一歩逃げてみたのだ。
もう一歩だけ歩いてみた。

その先に、今の生活がある。

逃げるのを、歩くことを止めなくてよかった。
今はしみじみとそう思う。

今日はまた長くなってしまった。
相変わらずまとまらないけど、まあ、こうしてやってるうちにまとまるようになるんじゃないかな。

歩くのを止めない。
とりあえず、今は。


ではまた。

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