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あの日のベトナム~ベトナムの風になれ!バイクでクチトンネルを目指す

ベトナムの子はガニ股だ。
…と、冒頭から失礼極まりない私見を披露しているが、本当にガニ股な子が多いのである。そしてこれはベトナム国内限定の話。よってベトナムに行った人だけが真実を知ることができるのである(‼︎)。
そしてこれも完全に個人の見解になるが、ベトナムっ子がガニ股なのには最低でも2つの理由があると思っている。
ひとつめは、履物のせい。
ベトナムは気候のせいかサンダル履きの方が多い。ビーチサンダル、便所サンダル、クロックスもどき。すべて引きずって歩くタイプの履物だ。引きずるのでどうしてもつま先が外を向く。結果、がに股気味に歩くことになる。
もうひとつは、バイクに乗っているせい。
彼らの生活に必須のアイテム、バイク。これに毎日またがっているのである。結果ガニ股になる。
そんな馬鹿な!と思うかもしれないが、この持論に関しては自信がある。自信を持つに至った実体験があるからだ。今回はそんな“ガニ股体験”をした旅の思い出をつづろうと思う。

ホーチミンでのある休日、ベトナムっ子数人と出かけることになった。どこに行きたいかと聞かれ、ずっと気になっていたクチトンネルへ行ってみたいと答えると、”結構遠いけど大丈夫か”という。ここでロクに確認もせず、”大丈夫!”と答えたのがそもそもの始まりだ。
当日は早朝にホーチミン郊外のショッピングモールで待ち合わせをした。休みの都合がついた4人に私を加えた計5人での旅だ。あらかじめバイクで向かうと聞いてはいたが、詳細については何も知らされていなかった。メンバーのうち2人は夫婦のためバイク1台に2人乗り。私は他のメンバーの後ろに乗せてもらう。ベトナムの一般的なバイクはビッグスクーターより少し小さく、原付より大きいぐらいの中型?車。小さいが2人乗り用にできているため乗り心地は悪くない。予備のヘルメットを借りてバイクにまたがり、持参したベトナムのバイク乗りの必須アイテム、マスクを装着。さらにサングラスで目を保護し、スカーフをしっかりと巻いていざ出発だ。
大まかな位置関係はこちら。

ホーチミン市郊外からクチトンネルまでは約50キロほど。バイクで行くにはなかなかの距離だ。ベトナムは悪路が多いため、日本と比べると進むのに時間がかかる。さらに市街地では慢性的に渋滞しているため、車で移動した場合は1時間半ぐらいはかかる。バイクなら何時間かかるのか聞くと、そうだね3時間ちょっとかな、と軽く返される。バイクに2人乗りで3時間半...なかなかの強行スケジュールである。とはいえ、自分が運転するわけではないので気楽な気持ちで後部シートに座っていた。彼らに遠くないか聞くと、ちょっと遠いが行けない事もないとのこと。頻繁ではないが、彼らが遊びにいく時にはそのくらいの移動もするらしい。頼もしい限りである。

1時間ほど走って市街地を完全に抜けたあたりで食堂に立ち寄った。広い敷地に半分屋外のような二階建ての建物があり、一階が食堂になっているらしい。午前中の中途半端な時間だったせいか客は我々しかいない。思い思いに注文をし朝食を楽しむ。天気が良く気温もそこまで暑くない。車の通りはそう多くないため、市街地のように排気ガスが気になることもない。空気がおいしい、絶好のお出かけ日和だ。良い気分で食事を終えると、再びバイクに跨った。ここからまたクチトンネルへの旅が続く。

ベトナムのうどん的なもの。肉の出汁が良く出ている

市街地を抜けたあたりからすでにアスファルト舗装の道はではなく土埃が舞うでこぼこの道を走っている。気分はダカールラリーである。悪路にタイヤを取られ、大きくシートの上で大きくバウンドしながらようやくクチトンネルに到着した。バイクを降り、砂埃で真っ白になった洋服の埃を払っていざ!クチトンネルへ。

トップページのみ英語対応の激ムズHPはこちら。
ベトナムのHPはどこもこんな感じ。これぞベトナムさん。

クチトンネルはいわゆる”トンネル”ではない。ベトナム戦争時に造られた地下都市だ。全長250キロとも言われるアリの巣状に張り巡らされたトンネルと、それらを繋ぐ房からなる地下都市は3層構造となっており、軍事施設、居住スペース、備蓄倉庫など用途に応じて分けられていた。最下層はなんと地下12mに位置し、緊急時には深層部にある極狭のトンネルを通って川に逃げられるようにもなっていたらしい。しかもこれらの建設はほぼ人力行われたというのだから恐れ入る。この広大な敷地の中には当時の生活を体験できるエリアや歴史を学ぶワークショップなどがあり、トンネルの一部を実際に通ることもできる。

左はトンネルの構造、右はトンネルの範囲についての図
戦時中のお部屋。陸上はまだ広いね
昼は戦い、夜は耕す。ベトコンは大忙しだ



クチトンネル観光は一定の人数が集まるまで待機し、グループで行動する。グループには専門ガイドの同行が義務付けられ、単独で行動しないよう事前に注意を受ける。観光で入れるのはごく一部のエリアのみ。それ以外は崩れていたり、先の状況が把握出来ていないため無闇に入るのは危険なのだそうだ。トンネルに入ったまま行方不明になった人もいるらしい。ガイドが通った道のみを辿るよう、事前に何度も注意があった。

実際にトンネルへ進む前に、地面に開いた小さな通気口のような穴を見せられる。当時のベトコンが出入りしていた穴だというが、パッと見はとても入れそうにない。希望者は実際に入ってみることが出来るのでぜひ試していただきたい。私も挑戦したが、入るのに一苦労、自力での脱出は非常に難しく、最終的には泥だらけになって脱出した。

穴の入口。一見浅そうだが実は斜めに掘られており、体をスライドさせて入り込む。
身長185cmのお兄さんが入るとこんな感じ
私も挑戦。見守る方も入っている方もホラーである


施設の大まかな説明が済むと、いよいよトンネルの本体部分へと進んでいく。観光客が入れるエリアはとてもよく整備されており、実際の入口とは異なる。大きく拡張し、階段を設置した観光用の入口からトンネルへと降りていく。

入口はとても快適だ

1層目は広めの部屋があり、極端に背が高くなければ直立できる場所もある。さらに下層へ下ると一気に天井が低く極端に狭いエリアになる。壁が両側から迫ってくるような圧迫感のある空間に息が詰まる。通路は腰をかがめてうさぎ跳びの姿勢でしか前に進めない。入口こそライトがあり壁がビニールシートで保護され歩きやすいが、ほとんどの場所はむき出しの壁と申し訳程度の小さなライトがまばらに設置されているだけでなんとも心許ない。前後に人がいてもすぐに姿が見えなくなる暗く入り組んだ通路をビクビクしながら進んだ。

同じグループにドイツ人の青年がいた。彼は一人で旅をしているらしい。
話好きな彼と軽く会話をしつつトンネルを進む。するといつの間にか私たちがグループの最後尾になっていた。青年は好奇心旺盛で無鉄砲な性格らしく、あてずっぽうでどんどん前へと進んでいく。気づけばすでに観光用のライトがない、真っ暗なエリアに突入していた。
まずい、と思い足を止めた。前には暗闇と青年が灯した携帯の明かりのみ。後方も真っ暗な穴があるだけだ。グループの人々はすでに前に進んでしまったようで話し声ひとつしない。前にいるであろう青年に”こっちは危ないからそろそろ戻ろう”と声をかけたが、”大丈夫、まだまだ先へ行けそうだよ!一緒に冒険しよう!”と能天気な答えが返ってきた。一体何を考えているのだろう、ガイドの注意を聞いていなかったのだろうか。暗闇への恐怖もあいまって腹が立ってきた。
あとでわかったことだが、グループと距離が空いた隙に観光ルートからそれて非公開エリアへと足を踏み入れてしまっていたようだ。どうりで暗闇でもわかる荒れ放題の壁とかび臭い空気だった。はるか先へ行ってしまった彼を放っていくこともできずに、前も後ろも真っ暗闇の穴にひとりでたたずむ恐怖を想像してみてほしい。足がすくんで一歩も動けなくなってしまった。

立ちすくんでいると後方から私たちを呼ぶ声が聞こえた。小さな声だが明らかに呼んでいる。こっちに戻って来いそっちはだめだと、ガイドさんの声が聞こえる。ああ助かった。私は大声でガイドさんに居場所を知らせる。そして青年に戻ってくるよう半ば怒鳴りながらガイドさんの声がするほうへと歩き出した。
戻ってみればほんの数歩道を逸れただけであったが、暗く狭い空間では永遠かと思うほど遠く長く感じた。ガイドさんの声に従い進むと、頭上から光が指している場所に出た。斜めに空いた穴から屈折した地上の光が漏れている。いざ脱出、と出口に一歩近づいて思わず悲鳴を上げた。
そこにはコウモリが数羽ぶら下がっていた。あんなに間近でコウモリをみたのはあれが最初で最後だ。半泣きで”コウモリがいて出られないよぉぉ”と情けない声で訴えるとガイドさんは笑って”大丈夫、コウモリは何もしないから出てこい”という。

いや、そういう問題ではない。

何度か無理だと訴えると、ガイドさんが”じゃあ別の出口から出ておいで”という。どうやら来た道をたどると別の出口があるらしいのだが、そちらのほうが小さく急な穴で出るのが難しいらしい。しかし背に腹は代えられない。コウモリがいないならと、小さい穴を必死によじ登ろうとした。結果自力で脱出かなわず、2人がかりで腕を引き上げてもらってトンネルを脱出した。

トンネルですっかり体力を消耗してしまった。気を取り直して用意されていたおやつをいただく。当時でよく食べられていたキャッサバイモをふかしたものだ。ほんのり、本当にかすかに甘いイモにピーナツの粉をかけて頂く。正直お口にあわなかったのだが、同行したベトナムっ子はおいしいとモリモリ食べ、おかわりまでしていた。私にも食べろと差し出してくるので、お腹がいっぱいで食べられないとごまかしお茶を飲んでその場を離れた。タピオカになっていたら美味しかったのにな。

イモ、もといキャッサバ


女性も戦地へ 少年戦士もいた
トラップ 竹だが威力抜群
足が挟まったら大惨事 凶器だ


非日常を体験し、夕日に照らされるクチトンネルを後にした。
ここからまた3時間半の道のりである。トンネルを歩き回り足はくたくただ。また往路の3時間半でおしりや股関節に地味にダメージを受けていた。この時点ですでに若干ガニ股になっていたが、バイクに乗らずに帰るわけにはいかない。よっこいせ、と後部シートに収まった。帰宅途中でベトナム式のローカルな焼肉をご馳走になった。普段は見かけない肉や珍しいヤギのお乳の肉などをいただきディナーを楽しんだ。

ベトナムでは何か知らずに口にすることばかりだった
ソースがおいしい
野菜モリモリ ナゾ肉モリモリ
これが便利 日本に欲しい(あるのかな)
ライスペーパーをこうやって濡らす 画期的!

その後トイレ休憩をかねて道の駅のようなところに立ち寄りお土産を物色しつつ軽く飲み物を飲んだり、アイスクリームショップに立ちよったりして市街地まで戻ってきた。

カフェ...?
カフェ!
ベトナムっ子はワニが好き

バイクに乗って見るトラフィックはリアルだ。夕方は特に混んでいるので、自分のすぐ脇数十センチぐらいを他のバイクがすり抜けていく。臨場感とスリルを楽しみながらバイクに揺られていた。
集合場所に戻ってきたのはすっかり夜も暮れてだいぶ遅い時間、9時をまわろうかという時刻だ。本当に長い時間お世話になった。
お礼を言ってバイクをクを降りた時から明らかに膝が開いてまっすぐ歩けない。おしりも痛いし座るのも難しい。鏡で見なくともわかる。絶対にガニ股だ。ガニ股になっている。
その後数日は座るたびにお尻が痛く、足は筋肉痛でガニ股だった。

そんな過酷な日帰りツアーだったのだが、この日のことはベトナムの日々の中でも特に記憶に残っている。バイクで砂埃を蹴散らし、風を受け、土にまみれ、たくさんの感情が心に芽生えた日。
そんなディープな思い出をくれるクチトンネル。
チャンスがあればぜひ訪れてほしい。
できればバイクで。
それも2人乗りで。



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