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【小説】『 魔眼の匣の殺人 』 著:今村昌弘【感想】

※この記事はネタバレを含みます※


●あらすじ


その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は、予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人に死が訪れ、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに、客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。残り四十八時間。二人の予言に支配された匣のなかで、生き残り謎を解き明かせるか?! 二十一世紀最高の大型新人による、待望のシリーズ第2弾。


魔眼の匣の殺人



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●『 魔眼の匣の殺人 』の内容(※ネタバレ注意)


当書籍は、明確化されているわけではないが実質、著者:今村昌弘の前作『 屍人荘の殺人 』の続編にあたる。

そのため、屍人荘の殺人の内容を含んだ記載になるので、あらかじめご了承頂きたい。

紫湛荘で発生した事件・・・婆可安湖の事件から数か月後、ミステリ愛好会会長となった葉村譲とその会員になった剣崎比留子は、紫湛荘での事件で残された謎である”班目機関”について調べるべく、日々情報を交流していた。

すると、月刊アトランティスというオカルト雑誌で、”M機関”の文字を目にする。

雑誌の内容は要約すると以下の通りだった。

「婆可安湖の事件は以前、月刊アトランティスに送られてきた謎の手紙の内容と一致しており、数か月前に大阪で発生した火災についても同様なことが起こっていたという。

その手紙を辿ってみると、W県からのものであると判明し、更にW県の人里離れた村では”M機関”と自称する連中がいたという。」

婆可安湖の事件も含め、記載されている”M機関”というのは”班目機関”と同一視して間違いないだろうと考えた二人は、同時に記載されていたW県へ足を運ぶことになった。

W県へ向かう途中、バスの中で男女二人組の高校生と出会う。周囲に全く人がいないのでこんな場所に高校生がいることを不思議に思っていた葉村と剣崎だったが、後に高校生二人組も目的地が同じだということがわかった。男子は一方的に執拗に女子に絡んでおり、大変鬱陶しがられていた。カップルにも部活の先輩後輩といった感じにも見えなかった。

また、バスの中でその高校生の女子・・・十色真理絵がおもむろにスケッチを始めたかと思うと、そのスケッチの内容と同じことが起こるという、不思議な体験をする葉村と剣崎。

二人は十色とそのもう一人の男子、茎沢忍を警戒しつつ、件の村である”好見村”へ辿り着いた。

しかし村には全く人の気配がなく、揃いも揃って意図的に、一時的に失踪していることを状況判断した剣崎だったが、冬ということもあり寝泊りする場所を失ってしまっただけであった。道中、ガソリンを切らして困っているという王寺貴士、葬式の帰りに車のトラブルに遭遇した師々田厳雄とその息子である師々田純。そして以前村に住んでおり、墓参りの帰りに立ち往生している師々田親子を拾ってきたという朱鷺野秋子。皆が帰る術もなく泊まる宿もなく途方に暮れる羽目になってしまった。

しばらくすると派手な格好をした朱鷺野秋子は歯切れの悪そうな顔で、「サキミ様のところは・・・底無川の向こうの建物は確かめたの?」という。

サキミという名前に反応した十色と茎沢、そしてサキミ=未来視と踏んだ葉村と剣崎は月刊アトランティスの予言の手紙を思い出し、彼女に会うことを強く所望した。

朱鷺野は興味本位ならやめておきなさい。と釘を刺すも、皆が現状誰もいない村にいても仕方がないと判断し、橋を渡りサキミのいる建物に向かった。

サキミがいるという建物はコンクリート状の四角い形をしており、窓も一切なく、周囲からとても浮いていた。まるで箱のようだった。朱鷺野によると、真雁という地域の名前と掛けて”魔眼の匣”と呼ばれていたという。

魔眼の匣の中には予言者のサキミ、サキミのお手伝いのような役割をしている神服泰子、そして月刊アトランティスの記者で今回送られてきた予言書をエサに取材をしに来たという臼井頼太がいた。臼井によると電話は通じず、ガソリンのあてもなく、皆が再び途方に暮れた。

葉村と剣崎、十色と茎沢、臼井はサキミに奥の間におり姿が見えないサキミに会うため、神服に言伝をしてもらい面会することになった。

しばらくして神服に呼ばれ、いざサキミの間に入った葉村たち。剣崎と臼井、そして興味本位の王寺が室内にいた。随分やつれたお婆さんの姿をしたサキミに対し、しばらく臼井の質問攻めが続いた。しかし、いつまで経っても十色と茎沢の姿が見えない。

バスで見た、予知していたかのような十色のスケッチが気にかかり、話の途中だが、葉村は様子を見てくると剣崎に伝え、二人がいるであろう食堂へ向かう。

警戒されると思った葉村は食堂の扉の隙間から、十色のスケッチを盗み見る。

そこには、黒と茶色の平坦な構造物が激しく炎上する光景があった。

茎沢は早く逃げないと、と訴えているが、十色は他の人にも知らせないとと言い合っているようだった。すると突然、外の様子を見廻っていた師々田が喧騒を変えて帰ってきた。

「大変だ、橋が、橋が燃えているぞ!」

葉村が現場に向かうと事実、橋は炎上し、焼け落ちていた。

その地は一瞬で、陸の孤島と化してしまった。

どうやら橋は、好見村の連中が予言を鵜呑みにして仕向けたことではないかと、神服は言う。確かに橋の向こうには複数の人影が見えており、火元もガソリンによるものではないかということだった。

そして肝心のサキミの予言の内容を、神服は皆に伝えた。

”あと二日のうちに、この地で四人死ぬ”

好見村の連中はそれを恐れて好見村を一時的に去り、魔眼の匣にいた人たちに予言の内容を押し付けたのだと。

神服が用意したレトルトカレーを食べながら以上の話を聞いていた皆は、とりあえずは魔眼の匣に宿泊することを決めたのであった。

夜、葉村と剣崎は部屋で情報交換をしていた。

その時、葉村は炎上する橋を見に行く際、十色にこのようなことを言われたという。

”絵のことは、黙ってもらえませんか”

葉村は十色のことを考え迷ったが、結局剣崎に伝えることになった。その旨も彼女に伝えた。

そして、二人の考えは一致した。バスの一件も、橋の炎上もただの偶然ではない。

彼女――十色には予知能力があり、その光景を無心でスケッチしてしまうということ。

自作自演という考えも少なからずあったため、様子見ということで一先ず片付けると、葉村の風呂の時間になった。葉村は部屋を後にした。

葉村が風呂から戻ると、部屋の前で佇んでいる十色がいた。

剣崎も遭遇し、部屋で十色の話を聞くことになった。

そこでは十色は年相応の笑顔を見せながら剣崎に話しかける様子や、茎沢との関係を聞かれ勝手に付きまとっているだけですと答えたりなど、雑談をもってこの場は終了した。

翌日、皆は食堂に集まり朝食をとっていた。

未だに予言についてのことを調べ上げたい様子の臼井と、以前好見に住んでいたことからサキミの能力は本当だと言う朱鷺野。予言を全く信じていない師々田の問答や言い合いが行われたあと、オカルトに関心があるのか茎沢が月刊アトランティスについて質問した。臼井は百のネタのうち一つでも本物があれば良いと述べ、実際にあったとされている三つ首トンネルでの事件を取り上げた。

三つ首トンネルでは男に裏切られた女の霊がおり、男性がそこを通ると呪われるという話だ。そこへ肝試しに向かった若者四人のうち三人が死亡していた。一人は運転中に虚血性心疾患で死亡。一人は婆可安湖の事件で死亡。もう一人は大阪の火災事件の被害者であったという。

一通り話し終わった後、皆は匣の周囲に脱出できる道などがないかを調べていた。

匣の裏側に岩壁があり、そこに抜け道もあったが、先は滝になっており飛び込んでも助からないような急流であった。

収穫無しのまま匣の前方にある焼け落ちた橋に向かう葉村たち。そこには既に臼井や十色、師々田の姿があった。

葉村は臼井に、ひょっとしたら橋を燃やした犯人がこの中にいるかもしれないし、危険な状態であることを言うと、臼井は顔をひきつけ、そうなってくれないと困ると叫んだ。せめて誰か一人でも死んでもらわないと記事にならない。と。

身勝手な言い分に言い返してやろうかと思う葉村と剣崎だったが、そこに橋の方にいた師々田がやってきた。やはり川も激流で渡れそうにないという。

おとなしく皆が匣への帰路に立つと、道中、突然十色がしゃがみ込み、一心不乱にスケッチを始めた。紙を全体的に埋め尽くす茶色と、そこに混じった陰鬱な黒色だった。

剣崎がその状況の考察を口にした瞬間、重低音が迫り骨まで伝わった。地震だ。

足元が揺れるなかで、葉村と剣崎は十色のスケッチが何を示していたのか把握し、訴える。

「気を付けて!何かが崩れます!」

その時、橋と匣の間にあった石垣がずるりと滑り、土塊はその下にいた臼井の姿を呑み込んだ。

地震はやがて収まったが、臼井の救助は叶わず、不幸にも一人目の犠牲が出てしまった。

残りの死亡者は、男性一人と女性二人になった。

命からがら帰ってきた皆は、匣に留まっていた朱鷺野や王寺、茎沢、神服に状況を伝えた。

すると朱鷺野は、土砂崩れで表紙が取れてしまった十色のスケッチブックに目をやり、驚愕した。まさか、土砂が崩れ人が死にゆく姿をスケッチしたのではないか、と。

するとすぐさま茎沢が反論し、余計なことまで口にしてしまった。

先輩がその絵を描いたのは土砂が崩れる前だ!橋の炎上も、バスの事故も、身の回りで起こる事件を絵で予知することができる!

顔色を失いつつも茎沢を止める十色。王寺はまさかそんな・・・と戦慄しており、そんな都合の良い話があるわけがないと否定する朱鷺野と師々田。

十色の予知が本当かどうか。自作自演ではないかという不問な押し問答がある程度続いた後、ペラペラと余計なことばかり喋る茎沢に対し、十色が彼に怒声を浴びせた。それで皆は冷静になったのか、今後の方針が決まらないまま解散という形になった。

葉村と剣崎が変わらず情報共有をしていると、神服が二人を呼びに来た。サキミとの面会ができるようだ。

二人は早速その場に行き、臼井の前では隠していた婆可安湖の事件のこと、そして班目機関のことを尋ねた。しかし、サキミはもうその組織には関わっておらず、現在どのような状況にいるのかもわからないという。ただ、班目機関がどのような機関なのかという情報を得るだけという拍子抜けな結果になってしまった。

その後、剣崎と解散した葉村は風呂上りということもあって部屋でウトウトしていた。

すると、すごい剣幕で剣崎が部屋へあがってきた。

吐き気を催しながら目を開けると、彼女は葉村におそらく一酸化炭素中毒だと指摘した。

症状は軽く、吐き気も落ち着いてきたが、どうして剣崎は葉村がそのような状況にあるのかわかったのだろうか。

答えは明白だった。彼女の背後には十色がいた。

十色が部屋の前で、赤い部屋で横たわる人物と床に転がっている小動物の絵をスケッチしている様子を見かけた剣崎が推測し、真っ先に葉村を訪ねたらそこがその部屋だったという。

通気口があるためこのようなことが起こることはないと怪しみ、通気口を見るとネズミの死骸が敷き詰められていた。

私の能力のせいで・・・と落ち込んでいる十色を、剣崎はその能力のおかげで葉村君を助けることができたとたしなめると、十色は自分の能力について話し始めた。

最初に能力が発生したのは小学生の頃で、何の前触れもなく一つの光景が思い浮かび、気が付くと机一面に絵が描かれていたという。そして、実際その絵の出来事が起こった。

親に言っても取り合ってもらえず、祖父に関しては口外するなと釘を刺される始末。

年一、二回だったこの現象も年齢を重ねるにつれ悪化し、高校生の現在は怪しまれないように美術部に入り、好きでもない絵を度々描いているという。

彼女は自分の祖父が何か隠していると思い、死んだ祖父の遺品などを漁っているうちに好見やサキミ、班目機関での実験のことを知ったという。

そして、彼女の祖父こそ、班目機関の研究員であったと。

思わぬ情報を得た葉村と剣崎は、十色が持っていた祖父のノートを借り、その場は解散となった。

翌朝、剣崎は食堂で、予言を全く信じていない師々田に対し、逆にどのような状況に遭遇したら予言を信じるのか。また、予言が予言とされる線引きとは何かを伺っていた。

しばらくすると、再び十色が一心不乱に何かを書き始めた。赤っぽい点の連なりの側に倒れている人影。その人影は両手で首に触れ、苦しげに見えた。

葉村は思わず、連想した死因である「毒死・・・?」と呟く。食堂にいた神服がサキミの危機と察知し、寝過ごしてしまったようで不在だった王寺が食堂に来たと同時に、入れ替わるように食堂を出て行ってしまった。途中でトイレに立った息子を心配した師々田や葉村たちもそれに続いた。

するとそこには、十色のスケッチにあったような赤い花がサキミの部屋の前に散らばっており、それを踏み抜けていくと内部にも赤い花が散らばっていた。その先にサキミはいた。

辛うじて生きているようで、咳き込みながら倒れ込んでいた。どうやらサキミの湯飲みに毒が盛られていたようだ。

現場の保存とサキミの様態を見終えた後、師々田は十色のスケッチブックをひったくり、十色が犯人だと訴えた。自分の予知能力を見せつけるための自作自演だと。

茎沢は猛反発し、剣崎も否定した、赤い花は裏庭にまで行かないと採れない。そんな猶予はなく、さらには内部の花瓶には白い花があり、十色が食堂にいる間に神服が赤い花に入れ替えたのだという。十色が花の色を知る余地はなかったという立証だった。しかし、師々田はあえて絵にそっくりの状況にするために赤い花を用意したのだと反論する。意見は平行線を辿っており、最終的には、十色が危険分子となった以上、軟禁せざるを得ないという結論に至ってしまった。差別だと噛みつく茎沢だが、十色自身がそれで安心できるのであれば、と承諾し、この一件は一先ず落ち着いた。

――解散する際、玄関の前を通りかかった葉村はあることに気づいた。

玄関にあったフェルト人形が、四つから三つに減っていたのだ。

その晩、部屋の戸締りをしていると、師々田の息子である純がお兄ちゃんたちが喧嘩してる!と言い駆け寄ってきた。

十色の軟禁が不服だった茎沢が、王寺や純にまで難癖をつけていたのだと、その場にいた朱鷺野は言う。

茎沢の言い分はこうだ。先に十色のスケッチの内容を見て、十色に罪を擦り付けるべく似たような現場にしたという。そのため、食堂にいなかった王寺と純に目を付けたのだそうだ。

しかし、剣崎は推理する。絵を描いた直後にサキミが毒を飲むというタイミングはあまりにも出来すぎていると。可能性は広がるばかりで、玄関にあったフェルト人形の有無も皆知らないようだった。一人が死ぬ度に一つ消えているのではないかと、不気味に思う面々。

葉村はミッシングリンク――つまり被害者と犯人は何かしらの関係がありそれが犯行動機に繋がるという点を指摘した。それから、皆が過去話をしながら休憩時間もはさみつつ、お互いを監視することになった。

茎沢は、予知で事故といじめを十色が助けてくれたという話と、十色がいかにすごい能力者かということを話した。

王寺は、美形のあまり小学生くらいのときに女子に間違えられたということを話した。

朱鷺野は、父との二人暮らしで経済的にも苦しく、サキミに対しての印象も悪かったため、好見から離れたということを話した。

師々田は皆の話の途中で寝たようで、代わりに息子の純が話してくれた。

おばあちゃんの葬式でここに来たことと、師々田は離婚したママの苗字で、本当は”えんじゅ”という苗字だったということを話した。

今のところこれといった異常はなく、相互監視作戦は成功したに思われた。

すると、いきなり皆がいた食堂の扉が開き、神服さんが駆けつけて、叫んだ。

「銃は、事務室の散弾銃はどこにやったのですか!」

今朝、熊がいたという菜園の見回りをした後、ロッカーに閉まった散弾銃が見当たらない。

過去話の途中で、席を外した面々――茎沢、王寺、朱鷺野、師々田親子は心当たりがないという。まさか、十色が持ち出したのだろうか。

確かに施錠されていたはずの十色の部屋の扉が開く。

電気を付けると、そこには床に落ちた散弾銃と、胸に大穴を開けて仰向けに倒れた十色がいた。残りの死亡者は、男性一人と女性二人になった。

十色の無残な姿を見て、茎沢はお前たちのせいだ。絶対に殺してやると錯乱しながら、匣の外に出て行ってしまった。

夜の山は危険で、なおかつ扉を開けて待っていても凶器を持って襲ってくるかもしれないと考えた皆は、ひとまず扉を閉めかんぬきをかけた。

そして、十色の検体を行う剣崎。師々田に証人を頼み、現場の状況を確認する。

発射残渣がないため自殺の可能性はないが、他殺にしても壁に銃痕もなかった。

現場確認後、朱鷺野は休憩に立った時ロッカーに鍵はなかったという。

つまり、一番帰りが遅く朱鷺野の後に休憩に行った師々田親子の犯行だと。

すると剣崎は、クローズドサークルは犯罪に不向きな状況であり、誰かが”同性の人間が二人死ねば自分は助かる”と考えたのではないかと推測する。

食堂の空気が凍り、各々が自分の身を守るしかない。皆がそういう考えに至った。

十色が死亡したことにショックを抱いた剣崎は、心配する葉村を押しのけて部屋に入ってしまった。葉村は自責の念にかられながら、一晩を過ごした。

翌日、神服のノックで目を覚ました葉村。

どうかしたのかと問いかけると、剣崎の姿が見当たらないという。

匣の内部から外の滝まで探していると、滝の前に足跡と片方だけの剣崎のスニーカーがあった。女性二人目の犠牲者が出た・・・

そう皆が思っていたが、実は剣崎は犠牲者のフリをしており、葉村の部屋の中に隠れていた。十色が死んだ夜、剣崎の案で剣崎が死んだということにするという算段を立てたのだ。

次の犠牲者が出る前に、犯人の動きを封じなければならない。

犯人は死の予言から免れるために誰かと手を組み、急ごしらえの共犯をした。

犯人は女性同士、男性同士、異性という三通りの組み合わせがあり、十色が殺されたことを考えると男性同士はなく、剣崎が死んだということになっているため、女性同士だったとしたらもう犯罪は起こらない。異性のコンビだと男性の犠牲者が出る危険はあるが、その分男性陣の警戒心も高まるため犯人が殺人を実行するのも難しいという判断だった。

納得した葉村だが、謎はまだ残っている。どうやって犯人は共犯関係を結んだのか。

その謎を残したまま、葉村は手掛かりを探すため十色の殺人現場へ向かった。

殺人現場では、十色の胸に大穴が開いていたことと、壁に銃痕がないことから、壁にかかっていた時計の短針にヒットし、壊れた短針の証拠を隠すために時計を壊し、部屋も荒らしたのではないかと推理した葉村。短針が壊れていたら、殺害時間がわかってしまうからだ。

バラバラになっていた時計を持ち出し、剣崎と共にパズルのように合わせる作業をするも、盤面に銃痕はなかった。銃が短針に当りその盤面に痕が残っているのではという推理は間違っていたのだ。

途方に暮れた葉村だが、剣崎はそこでとあることを思いつく。

盤面に銃痕がないということは、長針と短針が重なったところに銃がヒットしたのではないか。そして一人、長針と短針が重なった時間に姿を消していた人物が存在していたのだ。

するとその時、廊下から女性の悲鳴が響く。

剣崎を置いて扉の外に顔を出した葉村は、何故か真っ暗な廊下に、白装束の人間が歩いているのを見かけた。途中で合流した神服も白装束の人間は武器を持っていたと伝えた。

朱鷺野の部屋に向かおうとする白装束。通路の先からは何も聞こえなくなってしまった。

彼女が危ないと思い、師々田や王寺に助けを求め朱鷺野の部屋に突入すると、そこには―――驚くように目を見開いたまま仰向けに倒れていた朱鷺野の姿があった。

女性は安全だったはずじゃ・・・剣崎が死んだフリをしているため、皆がそう思っていると、今度は師々田純の姿が見えないという。

師々田は、純が剣崎に懐いていたため、彼女を探しに外に出たのではないかと判断し、彼を探しに匣の外を出て滝の方へ向かった。

山中で、子供の悲鳴が聞こえた。師々田が猪のような勢いで声がした方へ突進する。

彼にようやく追いついた葉村たちは、目の前の信じられない光景に言葉を失った。

腹を引き裂かれ、あちこちを齧られた死体がそこに横たわっている。おそらく、熊に襲われたのだろう。茎沢が、無残な姿で死んでいた。

茎沢の死体が見つかると同時に、剣崎が目の前に現れた。

死んだフリをしたということを驚いている皆に説明すると、師々田はかなりの剣幕で非難した。神服はサキミ様の予言は間違っていなかったと、安堵しているようだった。

茎沢の検分を終えた剣崎は立ち上がり、その場にいた全員にこう言った。

「三時間後、食堂に集まってもらえますか。そこで犯人を明らかにします」

三時間後、食堂に既に師々田、王寺、神服の姿があった。

葉村と剣崎は到着すると、彼らの目の前に刃物を置いた。

そして、剣崎は口を開き、推理を始めたのだった。

この犯行は、予言や予知を恐れる気持ちが起こした殺人である。

葉村が一酸化炭素中毒になりかけたとき、十色が無心で書いていた予知の絵を見かけて、犯人はその状況を模倣することで、自分以外の犠牲者を出そうとした。

サキミの毒殺未遂も、食堂に向かったときに十色の絵を扉の隙間から見て、サキミを標的にすべく、赤い花を押し付けることで身の安全を守った。

(ちなみに、彼女の部屋に毒薬が隠されていたことから、サキミは誰かに毒を盛られたわけではなく、自殺を図ろうとしていたことがわかった。自殺を隠すために毒薬を処分するつもりが、部屋の前に花がばらまかれており、身動きが取れず、仕方なく部屋の中に隠したのだ。

サキミが自殺を図ろうとした理由は、十色のためであった。十色はサキミの孫だったのだ。)

犯人は以上の出来事から十色の予知能力を恐れ、死の予言から免れるために、誰かを脅迫し共犯者にしようと試みた。

犯人はサキミに毒を盛ったのは朱鷺野だと考え(倉庫に朱鷺野のネイルチップと、

亜ソ酸があったため、そう勘違いした)脅迫するも、そのせいで自分の意図が朱鷺野にバレ、逆に弱みを握られてしまった。

朱鷺野もサキミの予言を信じていたため、二人は協力し、”交換殺人”を決行した。

予言から逃れるための殺人なら異性から狙われるはずがないと踏み、お互いに自分とは異なる性別の人間を殺そうと企んだのだ。

そして、十色の死亡時刻―――長針と短針が重なった時間にアリバイがあるのは、22時54分に休憩に出た人物・・・王寺。

朱鷺野が銃のロッカーの件で嘘を吐いたのも、王寺を庇うためと考えると納得がいく。

しかし、剣崎が死亡(偽造)したことで、犯人・・・王寺と朱鷺野の状況は一変した。

女性の犠牲者が二人になったため、朱鷺野が手を汚す必要がなくなった。

そこで二人は激しい押し問答になり、その結果朱鷺野は床に倒れ頭を打った。気絶したのだ。意識を取り戻し、自分の犯行がバラされることを恐れ、女性の犠牲者の枠が満たされていたため彼女を殺すこともできなかった王寺は、全員の目の前で朱鷺野が犯人としか思えない状況を作るしかなかった。そのための白装束での偽造だったのだ。

以上の推理を終えると、苦しい言い訳で度々口をはさんでいた王寺は激怒し、目の前にあったナイフを手にし、剣崎に向けた。しかし、剣崎は落ち着いた様子で言う。

「サキミさんの死の予言は満たされた。それでもまだ人を殺せますか。自分の手で予言を覆せますか。手を汚したことがすべて無駄になったとしても」

そう、予言を信じて殺人を犯した犯人だからこそ、予言を裏切れない。

王寺の手からナイフが落ちる。――あの女の呪いだ。そう呟いた。

彼は部屋で一時的に拘束されることとなった。

実は王寺は、橋が燃えた後臼井が話していた、三つ首トンネルの被害者の一人であった。

バイクに残ったお守りを気にしていたのも、背中に刺青があったのも呪いから免れるための要因であり、そして実際の写真を見せた臼井もまた、三つ首トンネルを訪れた者の一人であった。彼が土砂崩れで死んだことを、三つ首トンネルの女の呪いだと思い込んだ。

「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」

その二日が過ぎ、葉村と剣崎はサキミの部屋を訪れた。

そして、そこで剣崎は驚くべきことを口にした。”あなたは天禰サキミではないのでしょう”。

葉村は耳を疑う。それでは、目の前の老女はいったい誰なのか。

十色からもらった、十色の祖父の日記。そこで、祖父は班目機関でサキミの予言の実験をしている日々で、サキミに恋をする。(ここでは省いているが、作中に祖父の日記の内容の描写があった)

そして祖父には助手がいた。日記では岡町君と書かれており、男性と葉村は思っていたが、実は日記には岡町君のことを”彼”とは一度も書かれていなかった。

日記でのサキミは、十色の祖父に「きっと連れて行ってください」と言っていたのだが、匣にいるサキミは「でも、果たされなかったね。私を迎えに来てくれるという約束は」と言った。

このことから”魔眼の匣にいるサキミこそ十色の祖父の助手、岡町君であり”、”約束は二つあった”ということがわかる。

つまり、十色の祖父は彼女を身代わりにし迎えに行くと約束したのにも関わらず、結局本物のサキミと一緒に幸せに暮らし、生涯を全うしたのだ。

自分を置いて行った十色一家を憎み、月刊アトランティスにに手紙を送り機関の事をバラそうとしたこと。

予言について書かれた記録帳のストックが切れそうであったため、このままではサキミを恨む好見の人間との関係が崩れると恐れ、自殺を図ったこと。

玄関前のフェルト人形を減らし、皆を疑心暗鬼にさせ、予知能力のある十色を孤立させたこと。そして、最愛の孫が死ぬことでサキミが予言したことを後悔させたかったこと。

これらについて推理した後、剣崎は最後にこう述べた。

現在班目機関の情報は封殺されているため、機関の事をバラすことができないこと。

また、自殺に失敗したことから、好見の人間からインチキの烙印を押されることを免れるためには自分の死を予言し、その通りに命を絶つしかないこと。

サキミ―――いや、岡町は、自身の予言に殺されるのだ。

小柄な老女はなにか言い返そうとしたが途端に咳き込みだした。

葉村と剣崎がその場を後にしても、咳の音はいつまでも続いていた。

魔眼の匣の外で、剣崎は葉村に、君のホームズにはなれない。と言って彼を通り過ぎた。

葉村はふと気づく。何故、自殺する役が比留子さんだったのか?

予言に従えば、臼井の他にもう一人男が死ぬはずだった。

予言が本物だった時、葉村を死なせないために、犯人が死ぬかもしれない選択をしたのだ。

剣崎は葉村のホームズにならないという道をとった。

しかし、たとえ彼女が俺のホームズでないとしても、俺は彼女のワトソンにならなければならない。

今回の事件で班目機関の研究の一端を知ることができた。

しかし、この数ヶ月後、十色の祖父のノートで触れられていた大量殺人のその後に関わることになろうとは、この時の彼らにはまったく予想できなかった。


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●『 魔眼の匣の殺人 』を読んだ感想(※ネタバレ注意)


『 屍人荘の殺人 』で一世を風靡した今村昌弘氏のミステリ小説第二弾。

私は前作の『 屍人荘の殺人 』を一日で最後まで読了した。

そして今作、『 魔眼の匣の殺人 』もほぼ一日で読み終えてしまった。

著者の作品にはそれほどの魅力があるということだ。

細かく張り巡らされた伏線の数々はもちろん、展開もスムーズで読んでいて苦がない。あらすじで既に読者が知っていることや、簡単に予測がつくことに関して先延ばしにせず、早い段階でそれを披露するので、ストレスがない。

例えば今作では、十色真理絵という予知したことを絵に描いてしまう少女がいる。

彼女は本編の前に、登場人物一覧で、既に”未来を見通す絵を描く予知能力者”と紹介されている。そのため、読者は登場人物がそれを知る前に知ることになる。

そして、登場人物もいずれ予知能力を知ることになるのだが、それまでの間隔が短い。すぐに葉村譲と剣崎比留子によって予測されてしまっている。

これは、二人がミステリ愛好会所属で、観察眼が鋭いということもあるが、読者への配慮であるとも思う。「こいつ予知能力者だっていつ気づくんだよ!」といったストレスがないのは、推理における読者の無駄な労力が削がれるため、個人的にはありがたいと感じた。

前作にも時計を用いたトリックを利用しており、著者はそれを得意としているのだろうと思った。また、本作も前作と同様、クローズドサークルを取り扱っている。

作中で剣崎比留子が述べていたように、クローズドサークルは犯人にとってリスクが高い。現状がクローズドでなくなり警察が調べでもしたら、すぐに犯人はわかってしまう、と。

このように、クローズドサークルでのデメリットはもちろん、ミッシングリンクや交換殺人、発射残渣など、ミステリにおける難点や特徴、鉄則について述べたり扱ったり、現実とのギャップを含んで推理している。そしてそれを思わぬ調理法やテイストで仕上げているので、ミステリが好きでよく読む私でも、勉強になると同時に新しい発見があるので読んでいてとても身になり、楽しく感じる。

一冊で完結するということもあって、伏線が複数含んだ状態で物語が進んでいく点も、ドキドキした緊張感が続いたり、伏線が回収され謎が判明して一安心したり、かと思えば驚きの展開が急に訪れたりなど、全く飽きることがなく、読んでいてとても楽しかった。途中で仕事があって一時離脱したのだが、その時も『 魔眼の匣の殺人 』についてずっと考えていた。ミステリに限らず本としてとても魅力的であるということを証明していると思う。

理不尽な伏線やトリックもなく、冷静に頭を使えば推理できるようなレベルであるという点も、納得ができる範囲で、謎が解けなかった悔しさも感じることができるので良い点だ。

また、前作の登場人物がメインで、さらにそこで残された謎を解くために村を訪れているので、『 屍人荘の殺人 』を読んでいないとわからないことがあるとは思うが、それはそれとして、前作の一番のカギとなる部分については述べられておらず、徹底しているなと感じた。

本作は予言を一番のカギとしており、予言を恐れ、自分が犠牲者とならないために殺人を犯し、結果として予言と同じ末路を辿ってしまうというのは実に皮肉なことだ。

作中、剣崎比留子が言っていた言葉が、『 魔眼の匣の殺人 』の本質であり、また、人間としての本質でもあると思う。その言葉を記載し、この感想を終了したいと思う。

”予言そのものが誰かを傷つけたわけではない。心に負い目がある人物が予言を真に受け犯罪に走ってしまった。”


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●今回レビューした図書の詳細


題名:魔眼の匣の殺人

著者:今村昌弘

発行所:東京創元社

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