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EXestに西城洋志氏が参入。代表・中林と対談を実施【後編】|新規事業の失敗には「成長」という価値がある

2024年2月よりEXestに、現・パナソニックホールディングス株式会社 技術部門 事業開発室 室長の西城洋志氏が、経営戦略・事業戦略顧問として加わりました。

シリコンバレーや日本でのキャリアを通じて培った豊富な知見を、次世代に「Give」したいと考える西城氏。EXest代表・中林との対談を、前後編にてお届けします。

後編となる本記事では、西城さんと中林との出会いや、二人の考える「新規事業に必要な”失敗”の考え方」についておうかがいしました。シリコンバレーで新規事業を推進し続けてきた西城さんだからこそ語れる、チームづくりの哲学とは。EXestのこれからについてもうかがいました。

記事前編はこちら:EXestに西城洋志氏が参入。代表・中林と対談を実施【前編】|異なるものを足し合わせ、新しい価値を創造する

西城洋志氏 略歴
パナソニックホールディングス株式会社 技術部門 事業開発室 室長。
ロボット工学×「体験」にフォーカスした、新しいビジネスモデルの構築に従事。多様性に満ちた「夢の未来」をロボット工学で実現させるため、日夜情熱を注いでいる。
ヤマハ発動機株式会社に入社後、表面実装技術に特化したロボット事業のソフトウェア開発エンジニアとして従事。2014年頃から、新事業開発やパートナーシップ、コーポレートベンチャリングのキャリアに転⾝。シリコンバレーに赴任し、Yamaha Motor Ventures and Laboratory Silicon Valley, Inc.(ヤマハ発動機株式会社直轄子会社)を設立、CEOを務める。2020年、トヨタ系ソフトウェア開発会社のTRI-AD/Woven Planetに、事業開発・戦略の責任者として参画。会社の再編・リブランディングを含む事業開発戦略⽴案と実⾏、数件の買収などを実施。
2023年2⽉から、パナソニックホールディングス技術部⾨で技術部門事業開発室室長を担当している。

中林さんと西城さんが知り合ったきっかけは?

――中林さんと西城さん、お二人の関係性についてお聞かせください。

中林 師弟……と言うのはおこがましいですね。ここは「丁稚」でお願いします(笑)。西城さんと最初に出会ったのは、僕が起業して間もない、シリコンバレーにおいてでした。

初対面の頃から、的確かつ心に刺さるアドバイスをいただいて。心を打ち抜かれましたね(笑)。

そのあとは、西城さんがシリコンバレーから出張などで日本に一時帰国されるタイミングで、定期的に実施なさっていた飲み会の幹事に手を挙げることが多くなり、そこから可愛がっていただいている感じです。

西城 確かに、師弟ではないですね。僕も弟子なんか要らんし(笑)。

そもそも僕自身、自分のキャリアのなかで大した成果をあげられなかった、と思っているんです。元々50歳になったら引退する予定だったんですが、今年で50歳になってみて「これは延長戦だな」なんて思っているほどで。

ただ、そうは思いつつ、自分がキャリアのなかで「当たり前だ」「誰でもやっていることだ」と思っていたことが、誰かの気づきになるならシェアしたい、という気持ちはあったんです。これまで先人たちから受け取ってきたように、自分もGiveする側に回りたいなと。

そんな折に中林さんと出会いました。

――その頃からお二人の交流が始まったのですね。

西城 まあ、最初は「こいつ、小さいこと言ってるな」なんて思いましたけどね(笑)。

中林 あの頃は……そうですよね。思い返してみるとあの頃の自分は、スモールビジネスで儲かって、調子に乗っちゃってたんですよね(笑)。テレビ局時代の知人から受託した業務に携わっていたのですが。

あの頃僕が手がけていた仕事って、言ってみれば誰がやっても同じなんですよね。産業的に新しいことができているわけでもなければ、雇用も産業も生み出せていない。

西城さんから「アントレプレナーシップ(起業家精神)を語るなら、産業そのものを作らなければいけない」という言葉をいただいたときは衝撃でした。そのあと、自分ができることは何かと考えて、WOW Uが生まれて、Pocket Ownersが生まれて。

西城 正直なところ、中林さんが「スモールビジネスをしているから会いたい」と言ってきたら、彼の話を聞こうとは思わなかったでしょうね。「スタートアップをしている」と言われたから、じゃあ話を聞いてみようと。

ただ、僕自身もそのとき「日本の若者がここまで小さいことしか言えなくなっているのには、僕たちの世代にも一定の責任があるのではないか」という反省があったんです。自分がこれまで受け取ってきたものをGiveしたい、と思ったのは、中林さんとの出会いがきっかけになっていたかもしれません。

――西城さんがいなければ、今のEXestは存在しないんですね。

中林 自分のことでいえば、もしかしたら西城さんに出会わなければ、金銭的にはもっと豊かな生活が送れていたかもしれません(笑)。でも、WOW UやPocket Ownersを始めたことで、精神的満足度は圧倒的に高まりました。こちらの道を選べてよかったと心から思っています。

「生意気なガキ」と「とにかく話が面白すぎる人」

――お二人が最初にお会いしてみて、第一印象はいかがでしたか。

西城 「生意気なガキ」(笑)。

中林 (笑)。否めない。

西城 あの頃の中林さんは、会話をしていても、聞く量より話す量が多かったんですよね。「自分は出来ている」と思っているから、人の話をよく聞かずに、すぐシャッターを下ろしてしまう。「何が分かってるんだお前」と思いましたよ。

今も名残はあるかもしれませんが(笑)、変わりましたよね、中林さん。

「無知の知」ってあるじゃないですか。自分は何も知らない、と知っているか。そういう態度が根底にある人は、他者の意見にも耳を傾けるし、それにともなって、学びの機会は何倍にも増える

――中林さんから見て、西城さんの印象はいかがですか。

中林 とにかく、話がめちゃくちゃ面白かった。それに尽きます。

たとえば、西城さんがヤマハ社内で新しいバイクの開発をすることになったとき、プレゼンで最初におっしゃったのが「バイクはゴミ」という言葉だった、とうかがって。

――かなり過激な言葉に思えます。

西城 これは、次世代のモビリティサービスを考えていたときの話ですね。

車やバイクって、その寿命のうち、動いていない時間が90〜95%もあるんです。つまり、9割以上もの時間は、「無用の長物」として置かれているだけ。

何も利益を生み出さないどころか、たとえば、景観そのものに資産価値があるヨーロッパのような国々においては、路上に駐車されている車は、その「資産価値」を食い潰している存在です。

だから「バイクはゴミ」。だったら、乗らない時間もなんらかの形で「動かす」ことはできないのか。僕はもともとロボット事業のソフトウェア開発エンジニアだったこともあり、この課題は解決できるだろう、と考えていました。

――セオリーや常識を軽々と超えてしまう、知識の裏打ちがなければできない発言です。

中林 こんなに面白いことを言う人が世界には存在するんだ、と思いましたね。

……まあ、その話をうかがって感嘆していたところにいきなり、自分のしていることがいかにスモールビジネスの域に止まっているかというダメ出しになるとは思っていなかったんですが(笑)。

西城 (笑)。ダメ出しというより「この人なら、もっとできるな」と思ったんですよ。

中林 ただ言えるのは、そこで素直に話が聞けたのは、西城さんの考え方が自分にとって刺激的だったからです。「この人の言うことなら……」と自然に思える人に、起業して間も無く出会えたのは、大きいことでした。

失敗とは、機会をつかみトライしたこと

――お話は前後するのですが。西城さんが定期的に飲み会を開催されていることについて、詳しくうかがっても構いませんか。お忙しい西城さんが、なぜそんなことをされているのだろうと思ったのですが。

西城 新規事業と既存事業の話題でお話ししたのと同じように、「1+1=2以上」になる出会いを生み出したいと思っているんです。僕を介することで、絶対に知り合わなかった人たちが出会って新しいものが生まれたら面白いじゃないですか。

――失礼な質問になってしまったら申し訳ないのですが、会ってみた結果、参加者のなかに何も生まれず「つまらなかったな」という感想を持たれてしまっても良いのでしょうか。

西城 構わないと思います。その人がその場所にきて「つまらない」と思ったということ自体が大きな発見なわけですから。失敗だ、と思ってもいいんです。それは機会をつかみ、トライした、ということだと思っています。

これ、実は僕が日本企業に残り続けている理由の一つでもあるんですが。日本企業って、失敗した人は「ダメな人」という烙印を押されることがあるんですよね。野球でたとえて言うなら、バッターボックスに入らず、ずっとベンチに座っているだけの人が、むしろ「失敗していない」ということでどんどん昇進していく。

リスクを取ってバッターボックスに立ったやつが三振したらボコボコに言われるというのが、やっぱり僕は悔しいんですよ。そこを変えたいですね。

さっきの飲み会の話でいうと、「この飲み会は失敗だったな」と分かった人の心には「この方向はダメそうだ」という指標のようなものが生まれたわけです。それは、チャレンジしたからこそ。

言うなればチャレンジって、自分なりの地図を作ることなんですよね。失敗でも成功でも、ともかくまずは探検をしてみなければ、どこに何があるのか、どうやって進めばいいのかも分からない。誰かにとっての「探検の場所」を提供したい、という気持ちがあります。

1-0で勝った試合には、価値がない?!

――中林さんも以前「意味のある失敗をし続けることが重要」とおっしゃっていましたよね。

中林 僕は「失敗してもいい」ではなく「失敗から何を学んだか」というのが重要だ、と思っています。それから、同じ失敗は繰り返さないことも重要だなと。

「こうしたら、こうなるんじゃないか」と想定して、トライしてみる。そこで失敗したら、「なぜ失敗したのか」「次、どうすれば失敗しないか」を考えて次に進む。

失敗をしたことについてコミュニケーションが取れて、次に活かせるなら、その失敗は意味があるだろう、と思っています。

西城 確かに、そうですね。僕はチームメンバーに「もし試合に1対0で勝てたとしたら、それは目標設定が低すぎたということ」と伝えています。

中林 というのは。

西城 1対0で点を取られることなしに勝ってしまうと、そこからは学びがないじゃないですか。10対9で勝っていれば、9回点数を取られるたびに学びが生まれる。ただ成功するだけではなく、そこから自分はどう成長できるかに焦点を当てていてほしいんです。

――お二人の「失敗」に対する考え方は、どこか通底するようなものがあるようにも思えます。

中林 偶然、似たような結論に達したという感じですかね。EXest社の強みは、ものすごい速さで失敗を重ねているところにあると思っていて。事業も実際のところ、100のトライのうち、90近くは失敗しているんです(笑)。

そうやって事業を進めていくなかで、「失敗しないと分からないことはたくさんあるんだ」と納得していきました。

西城 EXestがスタートアップ、新規事業だから、というのもありますよね。

これが既存事業の場合、先ほどの例でいうと、すでに先人たちが作ってくれた地図を使える状態にあるわけですよね。僕は元々ヤマハで既存事業を扱っていたときは「鬼軍曹」なんて呼ばれていたんですが(笑)、既存事業での失敗は「地図を見ながら道を間違えた」状態。それは許されないだろうと思っていました。

――中林さんが「同じ失敗は繰り返さない」とおっしゃっていましたが、これも「地図があるのに道を間違えた」状態なのかもしれません。全く違うキャリアを進んでこられた二人ですが、どこか似たような哲学をお持ちなのですね。

1+1が2よりも大きくなるような組織へ

――西城さんがメンバーになったことで、EXestはどのように変わっていくのでしょうか。

中林 一番は、EXestの風通しをよくしていただきたいですね。

今のEXestって、良くも悪くも、創業者である僕が一人で全てを実行してしまっているわけです。新規プロジェクトを進めるにしても、最終的に「僕が進めていいと思ったか」ということが一番重要になってしまっている。

西城 そういうチームのありようでは、EXestという組織そのものが、中林さんのキャパシティを超えられないんですよね。ある種、最初から天井が見えてしまっているというか。

中林 EXestは現在、立ち上げのフェーズから、じょじょに「育てて大きくさせる」フェーズに入ったと思っています。この段階で重要なのは、チームメンバーの多様な視点から「自分はこう思う」という忌憚のない意見が出てくることだなと。

西城さんには、その文化や風土づくりを根付かせていく上で、重要な役割を担っていただけると思っています。

西城 もちろん、今のEXestが悪いということではないんですけどね。ほとんどの会社が利益を出せずに倒産するなかで、ここまで成長させたことはすごいことだと思います。

中林さんは「ラッキーだった」と謙遜していますが、ラッキーな人、つまり降って湧いたチャンスを掴める人というのは、瞬間的に掴むだけの準備ができている人ということですよ。誰でも彼でも「ラッキー」に対応できるわけではないんです。

ただ一方で、それだけの能力があるのに、今の地点に安住してしまうのか、とも思いました。やはりEXestには、1+1が2よりも大きくなるような組織を目指してほしいんですね。

たとえば僕がシリコンバレーにいたときは、チームメンバーから毎日1回は必ず”I disagree with you(反対だ)”と言われたんですよね。反対されたからといって頭ごなしに抑えつけてしまっては、イノベーションは生まれない。なぜ賛成できないのかを聞くことで、発見や気づきが生まれるんです。

問いかけ続けることで、自分のキャパシティも増えていく。人が増えれば増えるほど、事業が豊かになっていく実感がありました。

リーダーが一番忙しい組織はよくない、と思うんですよね。「いると思わなかった」と言われるぐらいでちょうどいい。メンバー一人ひとりが自分の頭で考えて、転んで立ち上がっていければ、組織は自ずから、もっと大きくなっていくはずですから。

そういう僕の経験が、何かしらの役に立つのであれば嬉しいですね。

恩返しはできない。だから、得たものを違う誰かにGiveしていく

中林 EXestの代表としてさまざまな人とお会いしていますが、やはり、西城さんほどリスペクトできる人はなかなかいらっしゃらないなと実感しています。

だからこそ、こういう形でご一緒できていることがとても嬉しいですね。

西城さんの知識量に追いつける気はしませんし、ましてや西城さんに知識やノウハウを授ける立場に回れることは絶対にないとも思います。恩返しは絶対にできないからこそ、得たものは、自分の下にいる人たちへ伝えていきたいです。そういう流れを作ることも、実は大事なんじゃないかと。西城さんのように、オープンソース化、とまではまだ言えませんが……。

西城 「下に」残すっていうのが、まだ成長途中の部分だな、なんて思いますね。「次世代に」残すと言ってほしいところですが。

中林 なるほど、確かに……。まだまだ修行が足りません(笑)。

――名残惜しいですが、そろそろお時間となりました。本日はお集まりいただき、ありがとうございました。

一同 ありがとうございました。

記事前編はこちら:EXestに西城洋志氏が参入。代表・中林と対談を実施【前編】|異なるものを足し合わせ、新しい価値を創造する

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