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『暇と退屈の倫理学』読んだよ 〜未来に古典として受け継がれるべき良書〜

『限りある時間の使い方』を読み終わって思い出したのが、この本『暇と退屈の倫理学』。最近文庫版が出たのを機に買っておいて積読になっていたのでした。



時間の使い方、そして人生との向き合い方を考える気分の時にちょうど「暇のなかでいかに生きるべきか、退屈とどう向き合うべきか」を問うてる本書は読むべき本に思われたのです。


読み始めるとこれがとてつもなく面白い。
なんで今までこれを読まずに置いといたのかと後悔しました。

あまりに面白くって、連日寝る間も惜しんで読破してしまいました。
普段「睡眠時間確保が大事だよ」と「眠主主義」を訴えてる身なのに大変恥ずかしいことなのですが、すまねえ、面白い本にはオラどうしても勝てねぇんだ。



著者の國分功一郎氏はたしかNHK『100分で名著』のスピノザ『エチカ』回で解説をしていた哲学者の方です。
哲学者の著者の本ということで難しそうに思われるかもしれませんが、できる限り専門用語を排し全般語りかけるような読みやすい文調で記されていて、あまり哲学に素養がない方でも読める一冊と思います。

とはいえ、ハイデガーやマルクスやラッセルやら歴史上の偉大なる哲学者たちの論考を適宜参照しながらしっかり考えていく本なので、もちろん楽々な読書の旅路というわけではありません。今までの常識を揺さぶってくる鋭い指摘の数々に脳みそがパンチドランカーになることはうけあいです。

ただ、テーマが誰にとっても身近な悩みである「暇と退屈」であり、きっと退屈(!)せず興味を持って読み進めることができるはずです。

「人生は死ぬまでの暇つぶし」と豪語する人も居る中で、「わたしたちは暇や退屈とどう付き合うべきか」って、誰もが気になるところでしょう?

こう聞いて「忙しすぎて退屈する暇なんてないんだが!」って怒る人もいるかもしれませんが、それならば「暇がないってことは人生に退屈せず充実してるってことなのかい?」と問い返させてもらいます。
そうではなく《なぜか退屈してる》というのなら、やっぱり本書は面白いと思います。



さて、じゃあ本書は結局どういう本だったのかを説明したいところなのですが、本書は「本書の結論や主張だけを抜き出して議論するのは推奨しない」と明言されているのもあり、本書の結論をここでお示しするのは控えようと思います。

ただ「なぜ結論だけを抜き書きしてはいけないのか」を考えると、それだけで本書のメッセージがじわりとにじみ出ています。

(本書は約10年前に書かれた本ですので当時は存在しなかった風潮と思いますが)昨今流行っている「ファスト映画」や「ファスト読書」という類の、鑑賞を経ず結論だけをただ収集するような「拙速な人生の味わい方」には本書は否定的なスタンスと言えるでしょう。

各個人がプロセスを必要な分の時間をかけてじっくり味わうことの大切さを軽視してはならないのです。


この辺の「急いで効率よくものごとを消費しようとする風潮への否定」のニュアンスは先の『限りある時間の使い方』に通ずるものを感じます。

『限りある時間の使い方』はエッセイ的な本でしたので、どちらかというと読者を理屈で納得させるというよりは共感を誘うものでした。
しかし、こちらの『暇と退屈の倫理学』は「やっぱ哲学者パねえ」と言わざるをえないロジカルシンキングの嵐で、まさしく理屈で納得させてきます。


哲学者は社会に先立って問題を指摘することに長けてると言われます。

『限りある時間の使い方』だったり『何もしない』だったり『デジタル・ミニマリスト』であったり、あるいは「マインドフルネス」や「FIRE」や「アンチワーク」や「グレート・リジグネーション」であったり。

今や、忙しく仕事に追われながら生きることを見直す本や動きが一般大衆にも急速に広がってきてる中、10年前にこれらを先取りしていた本書はさすがと言わざるを得ません。


数々のポピュラー哲学本で有名な飲茶氏も『14歳からの哲学入門』で「これから求められる哲学は働かない社会を作るための哲学だ」とおっしゃっていました。

その道筋に至る理論的支柱を早々に示されていた本書は、未来に受け継がれるべき古典となるべき一冊にさえ感じます。


最後に、本書で印象に残っているドゥルーズのエピソードの一節に触れて締めましょう。


思考は強制されるものだと述べたジル・ドゥルーズは、映画や絵画が好きだった。彼の著作には映画論や美術論がある。そのドゥルーズは、「なぜあなたは毎週末、美術館に行ったり、映画館に行ったりするのか?その努力はいったいどこから来ているのか?」という質問に答えてこう言ったことがある。「私は待ち構えているのだ」。

國分功一郎. 暇と退屈の倫理学(新潮文庫) (Japanese Edition) (p.330). Kindle 版.


そう、江草も、本書のように《自分をとりさらってくれる》本を待ち構えているのです。

これだから読書はたまらない。

これが江草流の退屈との付き合い方なんです。



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