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文章鍛錬と備忘録のために生まれたアカウント

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最近の記事

【読書レビュー】遠藤周作『女の一生 一部・キクの場合』

私が小学一年生の頃、父が家庭用コンピューターを買ってきた。毎週日曜の7:30からはじまる戦隊もののおもちゃに夢中だった私は即座にネット上のオンラインゲームに夢中になり、長時間遊んではよく叱られたものだった。一方で小学生ながら、2ちゃんねるもよく見た。 中学生の頃はYoutubeやニコ動に夢中になった。特にパワプロゲーマーだった私は、彼女攻略法などを動画で学び、より強い選手をつくるのに必死になった。また、小学生の頃よりも自分の携帯(当時はガラケー)を持つ友人も増え始め、yah

    • 【読書レビュー】カル・ニューポート『デジタル・ミニマリスト』

      私が携帯電話(当時はガラケー)を持ち始めたのは、高校入学のタイミングだった。それまで家のパソコンで友人たちとメールのやり取りをしていたのが、ポケットサイズの小さな端末からできるようになり、離れた友人とも常につながっている感触を得たのだった。 高校を卒業し、大学に進学した時にはすでにスマホが世に出始めていたが、実際に私が初めてスマホを手にしたのは大学1年の夏だった。メールのやり取りができるのはもちろん、TwitterやLINEといった各種SNSの利用もスマホの購入を機に始めた

      • [吹奏楽部の思い出]突然顧問がいなくなったので、歌って野球応援をした話

        私は中学入学を機に吹奏楽の世界に足を踏み入れ、トランペットを吹き始めた。いま社会人になっても様々な楽団やイベントを見つけては演奏活動を続けているから、いま私の余暇を支えている吹奏楽に中学で出会えたことをとても幸運に思う。 これまで多くの演奏機会を経験してきたのだが、思い出すのは苦しかった本番ばかりだ。横殴りの吹雪の中で演奏したこともあれば、本番で楽譜を開いたら全く違う楽譜で絶望した本番もあった。苦しかったからと言って全てが辛い記憶というわけではなく、今となってはそれらも良い

        • 【読書レビュー】朝井リョウ『何者』

          学生時代、だいたい大学3年生になると、多くの友人が就活をし始めた。一口に就活と言ってもその有様は人それぞれで、有名企業のインターンに参加する者もいれば、学生団体が主催する相談窓口で自分の適性を見極めている者もいた。一方で、つい最近まで一緒に朝まで浴びるように酒を飲む仲だった友人たちが、急に黒いスーツに身を包んで外向きの顔をし始めたように思え、正直そんな友人たちが私には気味が悪く思えて仕方なかった。そのとき就活とは、社会に出るためには社会が求める人物像に合わせて(程度の差はあれ

        【読書レビュー】遠藤周作『女の一生 一部・キクの場合』

          軍艦島に行った話

          2017年9月、当時仙台の学生だった私は、かねてより訪れたいと思っていた軍艦島に行った。 軍艦島(端島)は、仙台から遠く離れた長崎県の離島である。取りあえず仙台空港から長崎空港まで飛行機で直行し、到着日は長崎市内をブラブラ歩き(遠藤周作を愛読しているので、長崎は歩くだけで満足だった)、翌日の朝一で軍艦島へ向かうツアーに申し込んだのだった。 軍艦島に向かう船は、約1時間で目的地に到着した。「軍艦島」という名づけの由来にある通り、島は遠目でみると確かに軍艦のような容貌をしてい

          軍艦島に行った話

          【読書レビュー】新海誠『秒速5センチメートル』

          新海誠は、数々の大ヒット作品を世に送り出している大人気アニメ作家である。スタジオジブリの傑作『千と千尋の神隠し』の興行収入記録を破った『君の名は。』や、昨年公開された『天気の子』に代表されるように、彼の作品は絶対的な映像美でスクリーンを観る者を圧倒する一方で、10代の若者の感性を上手に刺激した恋愛を描き、多くのファンを魅了し続けている。 『君の名は。』のインパクトが非常に大きいので、それ以前の新海作品はあまり世間で注目されていないように思える。また、新海誠は映画とその小説を

          【読書レビュー】新海誠『秒速5センチメートル』

          校則は「存在すべき学校」と「存在してはならない学校」があるという話

          ※私は高校教師をしている者です。 数日前、ツーブロックを禁止する校則の是非が激しく議論されていたことがあった。当該自治体の教育委員会の見解としては、ツーブロック等人目を引くような見た目をしていると、例えば公共交通機関等で犯罪に巻き込めれる可能性があり、その防止のために校則として定めているのだとのことであった。同じような議論が頭髪の染色、スカート丈にも当てはまると考えられる。これに対しSNS上では、「犯罪に巻き込まれることと生徒の外見には因果関係がない」「多様性が認められつつ

          校則は「存在すべき学校」と「存在してはならない学校」があるという話

          【読書レビュー】小澤征爾×村上春樹『小澤征爾さんと、音楽について話をする』

          題名の通り、文庫本の約400ページにわたって小澤征爾と村上春樹の両氏が音楽についてひたすら語り合う本だ。小澤征爾と言えば、世界的な指揮者として知られる、あの「世界のオザワ」である。数年前に心臓の病気で活動休止を余儀なくされ、現在でもかつての精力的な活動を取り戻すには至っていないが、「サイトウキネン」を見てわかる通り、世界各地の名門オーケストラを指揮する中で多くの一流音楽家の信頼を集めてきた。日本人で最も世界で通用した音楽家と言ってよかろう。一方の村上春樹は無類のクラシック音楽

          【読書レビュー】小澤征爾×村上春樹『小澤征爾さんと、音楽について話をする』

          【読書レビュー】小林昌平 山本周嗣 水野敬也『ウケる技術』

          皆さんの身の回りに「面白い人」「トークが上手い人」はいるだろうか。私の周りにもやはり何人かユーモアがあって常に周囲を笑わせてくれる人がいる。私はどちらかというと面白くない側の人間であるから、そんな人を笑顔にしてくれる「面白い人」に憧れていたのだが、しばらくその姿を観察していくうちに、彼らには共通点があることが分かった。 彼らの共通点、それは「一つ一つの笑いのくだりを、相手との相互作用で成り立つように組み立てていること」である。要は一人で面白さを完結させるのではなく、あくまで

          【読書レビュー】小林昌平 山本周嗣 水野敬也『ウケる技術』

          【読書レビュー】ひのまどか『モーツァルト』

          題名の通り、ひのまどか著『モーツァルト』は音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生涯を綴った小説である。クラシック音楽を深く理解するためには、作曲家が生きた時代背景や生活の有様をよく知っておくことが非常に重要で、モーツァルトしかり、ベートーヴェンや近年のバーンスタインに至るまで多くの傑作を残してきた音楽家(作曲家)には、必ず伝記が存在すると言ってよい。 ただ、この本はあくまで小説であり、モーツァルトの生涯を記述した単なる伝記ではなく、モーツァルト(ヴォルフガング)

          【読書レビュー】ひのまどか『モーツァルト』

          【楽曲レビュー】ハイドン交響曲第100番「軍隊」

          クラシックの系譜において「古典派」は、主にハイドンからモーツァルト、ベートーヴェンに至るまでの流れを指す。古典派とは、ソナタ形式や(特にベートーヴェンによる)機能和声を発展させ、その後のロマン派時代への重要な先駆けとなった。 古典派の代表としてハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人を挙げたとき、スコアを実際に読んでみると、和声分析ひとつをとっても非常に簡単であることがわかる。特にモーツァルトのスコアは読んでいて解釈に迷う箇所がない(少なくとも自分は遭遇していない、気が

          【楽曲レビュー】ハイドン交響曲第100番「軍隊」

          【読書レビュー】遠藤周作『彼の生き方』

          遠藤周作といえばキリスト教、弱い人間に対して赦しを与える存在としての神を主題として書く小説家というイメージをお持ちの方が多いだろう。個人的に遠藤周作の作品は特に好んで読んでおり、最近では『女の一生』を読んで涙したところである。 だが、今回レビューする『彼の生き方』は、彼の作品群でも珍しくキリスト教を背景とせず、作中で神への言及も一切ない。多くの作品で神を登場させる氏の作風とは一線を画す作品と言えるだろう。 『彼の生き方』は、吃音症の男性、福本一平の少年時から青年時までを描

          【読書レビュー】遠藤周作『彼の生き方』

          【読書レビュー】三浦しをん『光』

          通勤電車で本を読むのが日課だ。片道45分程度、往復で1時間半の道のりを毎日読書にあてていることになるから、一般的な社会人よりも本に触れる時間は長いはずだ。 noteを使い始めて何回か自分の体験や考えていることを投稿はしてみたが、人様に披露できるだけの大した経験や思考は持ち合わせていないので、既にネタ不足に悩んでいる。そこで、どうせ通勤時間に本を読むのなら、中でもいいと思った本を自分なりにアウトプットしていろんな人に見てもらうのもいいかなと思うので、これからは自分のペースで細

          【読書レビュー】三浦しをん『光』

          インフルエンザに罹って修学旅行に行けなかった話

          私が通っていた高校の修学旅行は、1年生の12月初旬に行くことになっている。大阪奈良京都を巡る関西コース、和洋中の文化が混ざった長崎を中心に観光する九州コース、真冬でも夏の気分を味わえる沖縄コースの3つから選ぶことができ、私は沖縄コースを選んだのだった。ちなみに一番人気は関西コースであり、次点で沖縄コース、マニアックな少数派が九州コースを選んでいた。 「沖縄」という地は、冬でも観光客が海に入り、半袖姿で人々が街中を行きかう常夏の島という印象を私は抱いており、生まれてからずっと

          インフルエンザに罹って修学旅行に行けなかった話

          指揮棒が耳に刺さった話

          だいたいの人は、自分の耳に指揮棒(クラシックの指揮者がもっている鋭利な棒)が刺さる経験はないだろう。あれは大学2年の冬、自宅で今度指揮することになる楽譜を見ながら拍子の確認をしていた時だった。4拍目を振るときになぜか手元が狂い、運悪く自分の右耳に指揮棒をぶっ刺してしまった。最初は何が起きたのかわからず、突然の右耳の激痛と激しい耳鳴りでその場にうずくまった。次第に「誤って耳に指揮棒をさしてしまった」ことに気付き始めたが、耳鳴りは一向に収まらず、ただ耳から流れる血を見て絶望した。

          指揮棒が耳に刺さった話