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【読書レビュー】小林昌平 山本周嗣 水野敬也『ウケる技術』

皆さんの身の回りに「面白い人」「トークが上手い人」はいるだろうか。私の周りにもやはり何人かユーモアがあって常に周囲を笑わせてくれる人がいる。私はどちらかというと面白くない側の人間であるから、そんな人を笑顔にしてくれる「面白い人」に憧れていたのだが、しばらくその姿を観察していくうちに、彼らには共通点があることが分かった。

彼らの共通点、それは「一つ一つの笑いのくだりを、相手との相互作用で成り立つように組み立てていること」である。要は一人で面白さを完結させるのではなく、あくまで聞き手がツッコめる隙を残しているのだ。

今回取り上げた『ウケる秘術』(なんて下心丸出しの題名…)にはたくさんのウケを取るための技術が紹介されている。上で述べた「相手がツッコめる隙」をどうやって残すか、どうしたら(相手にも面白さが分かるように)上手くボケることができるのかを、様々な方法でもって紹介している。列挙するとキリがないほど種類が多彩なので、詳しい内容についてはぜひ本を手に取って読んでもらいたい。

一方で、なぜ「ツッコめる隙を残す」ことがトークをはじめとしたその人の全体的な面白さにつながるのだろうか。あくまで持論だが、「お笑い」は普通の「会話」と同様に、人どうしの相互的な意思伝達に関与するかどうかが、その場が楽しいか否かを決めているのではないか。例えばあなたとAさん、Bさんの3人で会話していたとしよう。話の途中でAさんとBさんの共通の知人であるCさんの話題でAさんとBさんが盛り上がっているとき、あなたは蚊帳の外で会話を楽しめないはずだ。この時、あなたはAさんとBさんとの意思疎通に参加していない。お笑いにも同じことが言えて、あるボケが提示された時に、自分がそのボケの面白さに気付き、(場の空気をうまく読みながら)ツッコめることができるということは、ボケた人との会話の成立と言ってよかろう。きっと「面白い人」というのは、ただボケるのではなく「さあ、ここが面白いからツッコんでごらんなさい」という上手なパスを相手に出しているのだ。あるいはボケとツッコミは逆の場合もあるだろう。あなたがボケたとき、その面白さ(ときにボケた人が気付いていないこともあるだろう)を適切に判断してツッコめる人は面白い。

『ウケる技術』には、ツッコむ方法よりもボケる方法がたくさん書いてある。それらを使ってボケるもよし、あるいはそのようなボケを発見したら適切にツッコむのもよし、自分の性に合う形で活用してほしい。

ここまで偉そうに人の面白さを高みの見物でいろいろ書いてみたが、『ウケる技術』を読んだ自分が果たして「面白い人」になれたかは疑問である。本当に面白い人は、そもそもこんな本に助けを求めることなどしないのかもしれない。

おわり

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