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普通の恋 #毎日ネタ出し59日目

【タイトル】

普通の恋

【あらすじ】

この恋が普通であるように。私は何度もそう願った。しかし、目の前に立っている彼女は震えた手で私に拳銃を向けている。そして、頬には涙が流れていた。


私は国立の大学を出て、研究者として国のとある機関で勤めていた。といっても、末端の研究者である私は、大した研究には関わってはいなかった。いわゆる事務的な作業が大半を占めていた。しかしそれでもある程度の給料は貰え、残業も少ない。とても良い環境だった。

そんな生活をしていると、プライベートを充実させたくなる。そこで私は、恋人を探しに色々なイベントやパーティーに参加をしてみることにした。その中で出会ったのが「シン」という女性だ。彼女は日本人ではない。しかし、留学生として日本に来て、そのまま日本で働いているらしい。まだ日本語は完璧ではない彼女だったが、一生懸命こちらに話をしてくれる姿に、私はいつの間にか恋心を抱くようになっていた。そして、彼女もそんな私に好意を持ってくれているようだった。

そうして私はシンと仲を深め、交際をすることになった。本当に幸せだった。同棲もはじめ、家に帰ればシンがご飯を作ってくれている。こんな生活がずっと続けば良い。どれだけ仕事が大変でも、家に帰れば全て忘れることが出来た。

そんな生活が仕事にも良い影響を与えたのか、今まで事務的な仕事しか任されていなかったのが、重要な仕事も任されるようになる。それから数年経つと、私は研究所の中でもトップクラスの位置まで昇り詰めることが出来ていた。

そして、私はいよいよシンとも結婚をすることを考え始める。しかし、彼女にはそれを伝えずに、サプライズでプロポーズをすることにした。

しかし、それが仇となる。シンを驚かせようと、後をつけてみることにした。彼女は普通の銀行員と聞いていた。しかし、シンが向かった先は銀行ではなく、どんどんと路地裏へと入っていく。そして、人気がなくなったところで、誰かと電話をし始める。それは日本語ではなく、現地の言葉だった。何を話しているか分からなかったが、いつものシンとは違う怖さを感じていた。とにかく、この場にいてはいけない。私はすぐさま去ろうとした。しかし、振りかえると、そこには黒いスーツを着た男性が立ちふさがっていた。そして、その瞬間に私は気を失ったのだ。

目が覚めると、私の手足はイスに縛られている状態だった。そして、目の前にはシンがいた。

「シ、シン。こ、これは何だ。ど、どういうことなんだ?」

「……いつから? いつから私のことに気づいていたの?」

「気づいていた? 一体何のことだ?」

「……とぼけないで。私の後をつけたでしょ。それは私のことに気づいたから。いつから?」

「気づいたって、だから何のことだ? お、俺はただ君を驚かせようと思って……。何かまずことをしたなら謝るよ。で、でもこの状況は何なんだ? それにあの男たちは誰なんだ?」

「……もう嘘はつかなくてもいいのよ。知っていることを全部話して」

「知っているって何のことだ? そっちこそこの状況を説明してくれ! 何がどうなっているんだ?」

「……本当に何も知らないの?」

「ああ何も知らないよ。……正直言うと、君にプロポーズをしようと思っていたんだ。サプライズをするために、君の後をつけた。……ごめん。こんな大事になるとは思わなかったんだ」

「……そんな。そんなこと信じられない……」

「ごめん。こんなことしなければ良かった。だから、もうこの縄をほどいてくれ。それで一緒に家に帰ろう。ね?」

その言葉に彼女は涙を流し始めた。そして、ゆっくりと腰から取り出したのは拳銃だった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。それは何だ? な、何の冗談だ?」

「……何でこんなことになったの。私はあなたを殺したくないよ……」

「待て。待ってくれ! 何を言ってるんだ。殺すってどういうことだ?」

「……ごめん、ごめんね。もう私にはどうすることも出来ないの……。ごめんね」

彼女が私に銃口を向ける。その手は震えていた。

「ま、待て。や、止めてくれ。教えてくれよ。一体どういうことなんだ? なぁ、何か言ってくれよ!」

私は混乱を通り越して、涙が溢れてきた。そして、シンも泣き崩れていた。そのとき、部屋の外から外国語で何か指示が入ったのか、シンは再び銃口を私に向ける。

「……ごめんね。本当にごめんね……」


彼女は誰なのか。なぜ彼女は私を殺すのか。彼女とのあの時間は全て嘘だったのか。それを私は永遠に知ることは出来なかった。



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