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30日間の革命 #革命編 17日目

 坂本は江藤に「なぜ革命のことを馬場に話さなかったのか」を訊ねた。江藤は馬場に革命のことを話していない。坂本はそう確信していた。それはこの数日何も起きなかったからだけではない。加賀が江藤に話をした日から、江藤の表情に迷いが生じていることを坂本は見逃していなかった。確実に江藤の心の中で何かが変化している。だからこそ、それを確かめるために坂本は直接江藤と話すことにしたのだった。

 「江藤さんの中で何か迷いが生じてるんじゃないかな? 革命に対すること、私たちに対すること、馬場君に対すること……」

 坂本が話を続けると、再び江藤は声をあげた。

 「だから勝手なこと言わないでよ! あんた本当に何なの。急に話しかけてきたと思ったら、分かった風な口きいてさ。あんたのそういうところが前々から嫌だったんだよ」

 そこから江藤は少しトーンを落として話を続けた。

 「あんたはいいよ、誰からも人気があってさ。先輩、後輩、同級生、先生。誰からも慕われもてはやされる。そのうえ学校を変えようってメンバー集めて楽しそうにしてる。ずーっと鼻についてたんだよ。だから私は馬場側についた。正直あんたが選挙で大負けしたのを見て清々したよ。あんたの負ける姿を見れて良かったって思ったよ」

 坂本と江藤はお互い学校内では有名な存在だった。しかしそれは似て非なるものだった。片や生徒会長として、生徒たちから憧れられる存在。片や女子バレー部のキャプテンとして、生徒たちから恐れられる存在。何をしても周りに人が集まる坂本とは対照的に、何をしても周りから恐れられ人が離れていく江藤。

 江藤にとって坂本は眩しすぎる存在だった。坂本が輝けば輝くほど、自分の影が濃くなる。それが嫌だった。

 「……あんたもセトも調子に乗りすぎたんだよ。これを機にさ、もっと普通に暮らしなよ。確かにあんたの言う通り、馬場にはまだ革命のこと言ってないよ。だからちょうどいいよ。このまま何もしなければ、普通に生活できる。そうしなよ」

 江藤はそう言ってこの場を後にしようとした。しかし、

  「嫌よ」

 と坂本は江藤に言い放った。江藤は「チっ」と舌打ちをして振り返った。

  「いい加減にしろよ! 何なんだよお前もセトもさ。こっちが穏便に済ましてあげようとしてんのに食い下がってきて……」

 江藤は再び声を上げようとしたが、坂本の表情を見て止まった。坂本はいつになく真剣な眼差してまっすぐ江藤のことを見ていた。

 「何でだよ……何でそんな目ができるんだよ。私がこうやって怒鳴ったらみんなもっと怖がってさ、謝るよ。なのに何でお前もセトも、そんな強い目でこっち見るんだよ……」

 江藤の目から小さな涙がこぼれていた。

 「私もセトも、江藤さんのことを『怖い』なんて思ってないからよ。だから私は革命をやめようとも思わないし、セトも江藤さんを仲間にしようってことを諦めない。ただそれだけ」

 坂本はまっすぐ江藤を見つめながら、穏やかにそう語った。

 「……しいんだよ……悔しいんだよ。セトとあんたが分かりあってるような感じがさ。元々は私と仲が良かったのに……。あんたと一緒のクラスになってから、セトはあんたと一緒にいるようになってさ。前よりも楽しそうにしてるし、どんどん先へ行っちゃうし。焦ったよ。私ももっと頑張らなくちゃ、あんた達に置いていかれるってね。だからバレー部でも厳しくしたんだよ。でもやればやるほど空回りして。どんどんみんなから恐れられて、私もどうすればいいかわかんなくなって……」

 江藤の口から、本音が溢れ出てきた。

 「そう言えば、手崎って2年生も白の会だったよな。あいつもそうだったよ。こっちがいくら脅しても、一向に折れなくてさ。あんたらと同じ目で私の方を見てた気がするよ。もうどしたらいいかわかんないよ、私は。自分が正しいのか、あんたらが正しいのか、馬場が正しいのか……。ねぇ、どうしたらいいの?」

 江藤はうつむきながらそう言うと、坂本はそっと江藤に近づいて抱き寄せた。

▼30日間の革命 第一部
まだお読みでない方は、ぜひお読みください!

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