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30日間の革命 #毎日小説98日目

 3年1組は、文化祭の準備に力を入れていた。毎年、この時期のホームルーム内で文化祭についての話し合いを設けるのだが、真面目に取り組むクラスは少ない。だいたいが、演劇部や経験者に任せきりとなり、片手間で終わらせてしまう。高橋も、例年受け持ったクラスではそんな様子を多く見ていたため、特に文化祭に特別な思い入れはなかった。なので、文化祭に力を入れようとしている自分のクラスを見て、少しだけ違和感を感じていた。そして、更に気になるのがスローガンである「革命」だ。この前の生徒会長選挙で「革命」を企てていたとされる坂本が中心となって立てたスローガン。少し気になった高橋は、ホームルーム終了後、坂本に話しかけた。

 「坂本、ちょっといいか?」

 「はい。なんでしょうか?」

 彼女からは特に変わった様子も見受けられない。高橋はゆっくりとつばを飲み込んでから、スローガンについて聞いてみた。

 「あの文化祭のスローガンなんだが、革命ってのは何か意味があるのか?」

 革命という言葉を出しても、坂本の反応は全く変わらなかった。

 「ええ。さっきのホームルーム内でも言いましたが、最後の文化祭だから、革命を起こすくらいの気持ちで頑張ろうって意味ですよ」

 「……それだけか?」

 高橋の質問に、坂本は何かを察したように笑顔になって、

 「先生、まさか私がまた革命を起こそうと企てているって心配してるんですか? まあもちろん、革命を起こすくらいの気持ちで頑張りますが、あくまで文化祭での話です。学校をどうにかしようなんてことは考えていませんので、安心してください」

 と答えた。彼女の穏やかな笑顔から、嘘をついているような様子は見られない。だけれども、彼女のあまりにも落ち着いて答える様子が、逆に高橋の中で少しの不安を残した。

 「そ、そうか。まぁあれだ。受験もあるから、ほどほどにな」

 高橋はそう濁してその場を去った。その後ろ姿を坂本はじっと見つめていた。

 翌日の昼休み、坂本と加賀は屋上のベンチに集まり話をしていた。

 「セトはさ、どうやってこの学校を卒業したい?」

 「卒業って実感を掴んでから、卒業したいな」

 「卒業の実感か。それってどんな感じなんだろうね」

 「わからないけど、小春といると掴めそうな気がするな」

 「ならもっと頑張らなくちゃね」

 坂本は微笑んで加賀に答えた。

 「たださ、本当にうまくいくのかな?」

 加賀は空を見上げながら、少し不安そうな顔を見せた。

 「心配なの?」

 「まあね。心配だし不安だよ。また何か起こるんじゃないかなって」

 「そういえば、高橋先生も昨日何か不安そうな顔してたよ。みんな不安を抱えてるんだね」

 「高橋先生が? 何で?」

 「私たちのスローガンが『革命』だからだよ」

 坂本はニコッと笑顔を見せた。

 「おいおい。なんか勘づかれてるじゃん。本当に大丈夫かよ?」

 加賀の表情はますます不安に満ちていた。

 「大丈夫。もう今度は誰に何て思われても、私たちのやることをしっかりとやるだけだよ」

 坂本は、相変わらずの笑顔で答える。その笑顔を見た加賀は、

 「……あーもう。小春っていつもそうなんだよなー。ピンチになればなるほど笑顔になるっていうか、楽しんでるような感じ。……わかったよ。もう俺も覚悟決めるよ。ここまで来たら、もう怖いものなんてないし、俺も楽しむとするか!」

 と半ばやけくそのように笑顔になって答えた。

 「成功するといいね。文化祭」

 「うん。絶対成功させよう」

二人は、一つ先の世界を見つめるように、空を見上げていた。


▼30日間の革命 1日目~97日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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