30日間の革命 #毎日小説49日目

 橋田は手崎の手を引きながら、屋上から更に上へつながる階段を進んでいった。そして、階段を上りきり外へ出ると、そこにはベンチが置いてあった。

 「なんだ、こんな場所があったんだ」

 橋田は驚いたが、ちょうど人目につかない場所だと思い、それまで引っ張て来た手崎の手を離した。手崎は相変わらず泣き続けていた。

 「ほら、もういい加減泣き止みなよ。それに、そんなに泣かせるほど私はきついこと言ってないでしょ?」

 手崎はこぼれ落ちる涙を手で拭きながら答えた。

 「ず、ずみません。あなたのせいではないんです。私最近おかしくて。この前までは学校が楽しかったはずなのに、最近急に学校が嫌になってきたというか、よくわからないんです」

 泣いているせいもあり、話が上手く整理できていない様子だった。そんな様子を見かねた橋田は、持っていたポケットティッシュを手崎に渡した。

 「ほら、これで涙ふきなよ。それに鼻水も出てるよ。まったく、これじゃあ全然話が進まないじゃない……」

 橋田は、江藤のことを話そうかどうか迷っていた。話を引き受けた以上、明日以降で手崎が江藤のところへ挨拶にいかなければ、ターゲットに橋田が加わることは間違いない。そうなれば、女子バレー部のキャプテンになるどころか、また前の生活に逆戻りになってしまう。それだけは避けたいと思っていた。今はどんな手を使ってでも、江藤に近づき、信頼を得て次期キャプテンへ指名してもらうこと。それが橋田にとっての最優先事項だった。

 ただ、頭ではそう分かっていても、手崎の泣きじゃくる様子を見ると、どうしても言葉が出てこなかった。

 しばらく橋田が悩んでいると、手崎から話しかけてきた。

 「ず、ずいません。ティッシュありがとうございました。少し落ち着きました」

 泣き止んではいたものの、手崎の鼻からは少し鼻水が垂れていた。その姿に、橋田は思わず笑ってしまった。

 「ちょっと、あんた鼻水垂れてるよ。現役の女子高生が鼻を垂らす姿なんて見たことないよ。ほら、まだティッシュあるから、それで拭いちゃいなさい」

 そういうと、橋田は持っていたティッシュを再び手崎へ渡した。 

「あぁ、ずみません。ありがとうございます」

 橋田が笑ったことで、手崎も少し笑顔になった。そうして、二人はベンチに腰をかけ、少しの間話しをした。

 「はぁー。なんかあんたの鼻水見たら、悩んでたことが馬鹿らしくなったよ。何のためにこんな一生懸命やってんだろうってね」

 「すいません。私が取り乱したせいで、またご迷惑をおかけして……」

 「もう謝らくていいよ。まあ私が泣かせちゃったことは事実だしね。私こそごめんね」

 「い、いえ。悪いのは私なので、謝らないでください。最近本当に心が不安定だったので、本当にご迷惑をおかけしました」

 「……ふーん。何で不安定だったの?」

 橋田は、あえて手崎にそう質問した。すると手崎も少しうつむきながら、ゆっくりと話しはじめた。

「……よくわかりません。でも、前までは感じなかった、変なプレッシャーみたいなものを最近感じているんです。私、実は白の会っていう先輩たちの集まりに参加しているのですが、その会の集会が終わった時からそう感じるようになりました。でも、その会の人たちは本当に良い先輩たちばかりで……。なので、原因はそれ以外だと思っているのですが……」

 「……クラスメイトとか、先輩からの視線とか?」

 「……はい。ずっと私の勘違いだと思おうとしていたのですが、でもやっぱり教室に入ると、クラスメイトがひそひそ私のことを話しているような感じがして。それに、廊下で3年生の先輩とすれ違う度にも、同じような感じでしていて、これは私の勘違いなんかじゃないって最近思い始めていました」

 「……なーんだ。やっぱり気づいていたんじゃない」

 橋田はそう言うと、少しだけため息をついてから、こう続けた。

 「もう、ここまで来たから、本当のこと言うね。その通りだよ。クラスの子や先輩たちは、あんたのことを妬んでいるよ。それで陰で噂を言ってるんだよ」


▼30日間の革命 1日目~48日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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