30日間の革命 #毎日小説51日目
手崎は橋田の胸を借りて泣いた。今までこんなに泣いたことはなかった。誰かに嫌われたり陰口を言われることが、こんなにも悲しくて、辛くて、そして悔しいことなんだと手崎は思った。
それから5分ほど泣き続けた。その間、橋田は無言で手崎のことを支えていた。だんだんと沈んでいく夕日が二人の影をひっそりと薄めていった。
しばらくすると、下校を促す放送が流れた。
「ほら、もうすぐ下校時間だよ。あんたまだ図書室に荷物置きっぱなしでしょ。取りにいくわよ」
「……はい」
大粒の涙を流した手崎の目は、赤く腫れていた。そして、二人は屋上から校舎へと戻った。
(この場所また来たいな。今度のお昼休みにでももう一回行ってみようかな)
橋田は心の中で、またこの屋上のベンチへと行こうと思った。
二人は図書室へ戻り、荷物を持って下校した。校門を出たところで、
「なら、私はこっちだから」
と橋田が別れを告げた。手崎は、
「……わ、私はこれからどうすればいいんでしょうか」
と、背を向けて歩きだしていた橋田に向かって訪ねた。橋田は振り返り、
「……自分次第だよ。このまま逃げ続けてもいいし、立ち向かってもいい。ただ、私は私のやるべきことをする。だから、あんたもあんたのやるべきことをしなさい」
手崎は握っていたカバンの持ち手をぎゅっと握りしめ、
「も、もし、立ち向かったとき、私の心が折れたらまた話しを聞いてくれますか?」
と橋田に尋ねた。橋田はふと笑顔になり、
「もしあんたが江藤さんに立ち向かったなら、私は何時間でも話しを聞くよ。でも、もうティッシュはないから泣かないでね。じゃあね」
そう言って、再び前を向いて歩き始めた。手崎は、橋田の後ろ姿を見つめて、再び持ち手をぎゅっと強く握りしめた。
翌日の天気は快晴だった。そのため、いつもよりも気温が高く、より一層夏に近づいているようだった。
始業前、坂本は加賀へ話しかけた。
「そっちの様子はどう? 人数集めは順調かしら」
加賀はネクタイをゆるめ、うちわで扇ぎながら、
「まあまあだよ。神原君はホームページで集会の参加者を募っているみたいで、それが結構人集まってるんだって。さすがIT社会だよ」
と答えた。
「セトと手崎さんは?」
「俺らはアナログだから、地道にやってるよ。手崎さんとも協力して2年生にも声かけてるし、何とか100人は集められそうだから安心してくれ。それにしてもほんっとに今日は暑いな」
加賀は暑さにやられているようだった。
「……セトは手崎さんと二人で行動してるの?」
坂本は更に加賀へと質問した。
「んー、毎回一緒に動いているわけじゃないけど、たまに一緒にいるよ。図書室で将棋やったりもするし」
「そうなんだ。何か変わった様子はない?」
「変わった様子? 手崎さんのこと? んー、俺から見れば、いつも通りな感じだけどね」
「……そう。それなら大丈夫だけど」
「ん? なんか手崎さんが気になるの?」
「……一応さ、セトは学校でも人気者っていう自覚を持った方がいいよ。いつどこで誰に見られているかわからないからさ」
「へ? どういうこと?」
「もしかしたら、手崎さんと二人でいることを快く思っていない人もいるかもって話しだよ」
「なんだそりゃ。そんなの気にする人なんていないでしょ」
「そういう人がいるから言ってるんじゃない。今話したのは、また私の勘なんだけど、最近忙しくてみんなの様子をしっかり見れていないから少し心配なの。もしかしたら、何か大事なことを見逃してるかもしれないから、セトも何か気づいたことがあったら言ってね」
「小春の勘は当たるから怖いな。わかったよ。何か気づいたら報告するよ」
「よろしくね」
そうして始業のチャイムが鳴り、いつも通り担任の高橋が教室へ入ってきて出席番号順に出席をとっていった。
「江藤……。あれ、江藤いないのか?」
江藤は朝練があるため、遅刻することはめったになかった。
「あれ、今朝部活にはいましたよ」
バレー部の同級生が答えた。
「なんだ、学校には来ているのか。まあそれなら、そのうち来るか。もし誰か連絡が来ていたら教えてくれ」
そうして、高橋は再び出席をとり始めた。
この時、既に大きな事件が起こっていることを、坂本も加賀もまだ知らなかった。
▼30日間の革命 1日目~50日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!
takuma.o
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