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30日間の革命 #毎日小説100日目

女子バレー部のキャプテンを決める投票が、バレー部内で行われていた。例年、現キャプテンの方針で決め方は変わるが、今年は江藤の案により、唐橋と橋田のどちらかを投票で決めることになった。

 部員たちは白紙を渡され、そこに次期キャプテンに適任だと思うどちらかの名前を書いて投票する。

 「書けたらここに紙を入れていけよ」

 江藤は近くにあった籠を持ってきて、そこに紙を投票するように促した。部員たちはどちらに投票したらいいのか少し戸惑っている様子だったが、決心したのか、続々と投票をしていった。そして、全員が投票を終え、いよいよ開票する。

 「よし、まず一人目。……唐橋」

 最初に名前が挙がったのは唐橋だった。

 「次は……唐橋!」

 江藤はどんどんと票を開いていった。10人まで票を開いた結果、全て唐橋への投票だった。部員たちの間にも、やはり唐橋で決まりかという空気が流れていた。しかし、11人目を開票すると、

 「橋田!」

 と江藤は大きな声で橋田の名前を呼びあげた。とうとう橋田にも票が入る。そして、ここから橋田の追い上げがはじまった。20人までを呼びあげた結果、唐橋11票、橋田9票となった。残す票はあと5人。4票橋田に入れば、橋田がキャプテンに。2票でも唐橋に入れば、その時点で唐橋に決定する。江藤は、再び開票を始めた。

 「あと5人だ。まず最初は……橋田!」

 最初の票は橋田に入った。

 「よし次だ。次は……橋田」

 続いても橋田に票が入る。これで唐橋と橋田の票が並んだ。橋田は開票されるたび、心臓が張り裂けそうなほど、ドキドキしていた。

 「次は……橋田!」

 そして3票目も橋田に入った。これで橋田が逆転した。次に橋田の名前が呼ばれれば、橋田がキャプテンに決まる。

 「よし、これで次開けた票が橋田だったら、橋田に決まりだ。なら開票するぞ」

 部員たちは固唾を飲んだ。唐橋はそっと目をつぶり、橋田は思わず手を組んで祈った。

 「次の票は……橋田! 次期キャプテンは橋田に決まりだ!」

 何と、名前が呼ばれたのは橋田だった。その瞬間、バレー部の部室内に換気の声が響いた。まさかの橋田の勝利だった。橋田はその場にへたり込み、涙を流した。唐橋は逆に、笑顔を見せ拍手を送った。

 恐らく3年生も投票したら、この結果は変わったかもしれない。しかし、橋田に入った票のほとんどは1年生によるものだった。1年生は、手崎が厳しく指導されているのを見て、恐怖を感じていた。それを橋田が勇気を持って「バレー部を変える」と宣言してくれたことにより、橋田に票が集まったのであった。

 その場にへたり込んでいる橋田に向け、江藤は

 「おい、泣いてる場合じゃないぞ。お前はもうキャプテンなんだからな。このバレー部を変えるってんだろ? 簡単なことじゃないぞ。厳しさをなくしたら、部員たちだってついてこなくなるかもしれない。お前はバレー部をまとめられるのか?」

 と声をかけた。橋田は、涙を拭いて、ありったけの力を込めて

 「はい! 頑張ります!」

 と叫んだ。

 「なら任せたぞ。キャプテン!」

 江藤は橋田の肩を叩いた。そして再び部室内には大きな拍手が起こった。

 この女子バレー部キャプテンの交代も、これから学校で起こるを「革命」の一つの出来事となった。

 そして、女子バレー部が新たな歴史を歩むことが決まった裏でも、坂本たちは動いていた。彼女らは革命を起こすことを諦めてはいなかったのだ。選挙では負けたが、坂本の言葉通り、それは革命の終わりではない。自分たちが学校にいる限り、革命が止まることはない。白の会の意志はまだ途切れていなかった。

 そして、白の会の動きを監視している生徒会や教師たちも気づかないところで、静かに革命は動き出していた。そしてそれは文化祭に向かって確実に一歩ずつ歩みを進めていた。

 記録的な暑さを更新した夏も徐々に終わりを迎え、季節は秋へと移っていた。学校には、今までと変わらずに登校する学生たちの姿がみえる。教室では友達と会話をしたり、勉強をしたり。誰もがこの日常は変わるはずがないと思っていた。

 しかし、これからこの学校の歴史を大きく揺るがすことになる「革命」が起ころうとしている。そして、それは一部の学生を除いて、まだ誰も知る由もなかった。坂本小春は教室の窓から空を見上げていたーー

「30日間の革命 第一部 完」

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