見出し画像

【詩】とおくの潮騒



心臓のまんなかに

貝殻があって

うずを巻いてとんがった先は

外界との唯一の交信手段なの

ダイアモンドよりもずっとずっと硬い

心臓をつるぎで突き刺したくらいじゃ決して砕けない、

わたしはそのなかにいる

べつに息をころしてる訳じゃないの

隠れてるわけなんかじゃないのよ

かくれんぼしてて

見つけてもらえなかったあの頃みたいな

喚きたくて

砂を蹴散らしたくて

まっしろな壁にコブシの跡をつけたい

紅炎みたいな煮えたぎる衝動が

さめた頃にはもう

わたしはここに閉じこめられてしまった


ここからの眺めはきれい

貝殻の天井はきらきらしている

ここからの音はおだやか

水中で聴こえる拍手みたい

わたしは歩いている

はだしで歩いていく

うずのなかへ

回転はるるる

足音はろろろ

出口のない未来へ

内耳のふるえさえ届かない裏側へ

ネムリの調べを口ずさみながら


この記事が参加している募集

#私の作品紹介

97,242件

#眠れない夜に

69,794件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?