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写真ありきの旅。
に、出たというわけではなく、出たい、あるいは、出てみたら良かった、という話です。
個人的に、写真は、自分の暮らしの半径500メートルを撮ることが大切だと思っています。そのいつもの、当たり前の、あまりにありきたりの光景に目を向けることが、写真が上手くなる手段だと思うし、新しい発見をすると思うからです。日常からはみ出さないところで、これはいいな、と思う一枚が撮れたなら、とても嬉しいものです。
けれども、やっぱりときに遠くへ行きたくなるのです。
5月と6月に東京へ行きました。
5月は息子たちを、大好きな電車に乗せるため。大宮の鉄道博物館は、あまり鉄道に関心のなかった僕でも楽しめましたし、アニメ シンカリオンの舞台を直に目にしたのも良かった。
一駅だけど、E5にも乗れたしね。
6月は完全に個人的な旅でした。久しぶりに会う大学時代の仲間たち。ただ、それ以外はひたすらカメラを構えた旅でもありました。
銀座、新宿(新宿はマップもキタムラもあるし、銀座もレモン社やライカがあるし)……東京を撮るのは楽しいのですが、旧知の場所でもあるので、どうしても昔の記憶とか、人に会いたいとか、そういうものに引っ張られます。だからそういうものに引っ張られない、他の場所にも足を運んでみたくなるのです。
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東京でないとしたら、どこへ行きたいのでしょう。ふと悩みます。どこへ行きたいか、は、何を撮りたいか、ということだからです。
好むのは都市部のうらぶれた部分で、そこを切り取りたいと思うのですが、それってけっこうやっているし、けっこう旅に出る前は色々妄想を膨らませるのですが、実際に行くとイマイチ気持ちが被写体に向かわないこともあります。
こんなときふと思いだすのは、尾仲浩二さんだったりします。あの、地方のさびれた風景を、シンプルに切り取って見せてくれる作品群は、形容しがたい気分にさせられます。都市部のスナップも楽しいけれど、地方の発展から取り残された場所を撮るのも楽しい。新興住宅地とは違う、計画性のない、地形に沿ったなかで出来上がったまち。
そういうところに旅行で行くことはないでしょう。でも、写真ありきの旅とすれば、そういうところにも足が向くのでしょうか。
根っからのコミュニケーション下手で、初対面の人とうまく会話することができない、いや、旧知の人でも、うまく時間を持たせることが苦手な僕は、いざその人と二人だけになると、その空間をどうすればいいのか分からなくなってしまいます。まさに「間が合わない」。カメラマンとしては致命的です。とはいえ、よくSNSで見るような集団でのフォトウォークなんかには憧れもあって、いいなあ、やりたいなあ、なんてことも思います。しかしこれが実際にやってみると、終わってみればぐったりと疲れていて、撮った写真もなんだかなあ、となることが多いのも事実です(そうでなくても常に何だかなあな写真ばかりで自己満足しているのですが)。
もちろんポートレートなどジャンルが違えばそうではないのでしょうが、写真を撮る、という行為は孤独な活動なのかもしれないですね。
だから、写真ありきの旅、というのは、孤独と寄り添う旅、ということになる。孤独ななかで見る光景を想像すると、尾仲さんが撮る写真が浮かんでくる。この何も起こらない写真。でもどこか哀愁とも言えない哀愁の漂う、秋口の冷えたような空気感、夏のじっとりとした倦怠、そういう写真。平たく言えば、やっぱり孤独なのだと思います。そういう孤独な写真を撮ってみたいという気分が、定期的に訪れるのです。
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それはもちろん、今、自分を無条件に受け入れてくれている家族があるからこそ感じる気持ちなのかもしれません。ただ、根っからの一人好きでもあります。自由に行動しちゃう。みんなが右に行くなら左に行きたくなる。そういう衝動が、やっぱりどうしても湧いてきてしまうのです。
よかったことか、悪かったことか、ただその孤独を味わうために、遠くへ旅をする実行力はありませんでした。ええ、これまでは。しかし旅が好きな妻の手によって、僕の遠くへ行くということへのハードルはかなり下がってしまっています。旅するくらいならその分カメラ貯金や!とか言っていた(言い訳していた)あの頃に、つまり独身時代に、写真ありきの旅をしていたなら、今の僕の写真はどうなっていたことでしょう。かわらないかもしれないし、もう少し、逆に人とのやりとりを楽しめるようになっていたかもしれません。自分探しのために旅に出る、旅に出たら自分が見つかる、そういうことなんかあり得ない、と思う方ですが、旅に出る、出ようとすることで変化できる部分はあったんじゃないかな、と、今はちょっと思っています。知らない土地に出ること、一人で写真を撮りに出ること。すなわち孤独になること。孤独という鏡は、自分を見つめなおさせるのです。
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そうか、尾仲さんの写真は、孤独な時間が欲しいと思わせる、そういう装置なんだと思うのです。電車に乗って、ここは手垢がついていなさそうだぞ、というところに降りてみる。開発から取り残された場所を探してみる。一泊数千円のような、家族での旅行なら泊まることはなさそうなところに宿を取る。そう言う行為のなかで撮られた写真を見ると、写真の方から旅にいきなよ、ひとりぼっちで、と誘っているのが聞こえてくるのです。
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