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何処かで見たことのある風景を装う。

はじめに

 旅に出ようが、近所の散歩だろうが、僕の撮り方は至って単純で、カメラを持ってパッと撮る、いわゆるスナップという領域を出ない。
 そうやって撮り歩くうちに、場所の持つ固有性みたいなものが薄らいで行って、はて、僕がいまこの旅先で撮っているものは、近所でも撮れるのではないか、そう感じるものにカメラを向けていることが多くある。
 旅先だから、気分は違うし、新鮮な気持ちで町を歩くのだけれど、シャッターを切りたくなるのは、いつか、どこかで、見たことがあるような、そんな どこでもいいどこか、だ。そうして撮ったものは、時折り、どこでもないどこかを強く感じさせたりする。
 あるいは、どこにもないその風景を、どこでもいいどこかに変換しようとしていることに気づく。
 そうすると、出てくる写真は、僕が何処かで見たことのある風景を装った、そんな一枚となる。

 このエントリは、そんな旅先でみた特別な光景を、どこかで見たことのある景色に落とし込んだり、旅先の、でもどこかで見たことのある光景を切り取ってみたりした写真たちだ。

 旅の写真は、それを見ると旅に出たくなるのが良い旅写真だと思う。けれどここに掲載するのはきっと、そんな気分にはならないだろう。あれ、これ、どこかで見たことあるかもしれないな、と思われるかもしれない。そしてそれが、この写真たちの立ち位置だと思ってご覧になっていただけたら幸いだ。

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変に明るい場所の、何も始まらない空気感が、空寒い感じがして好きだ。
たぶん、きっと、疲れた背骨が座り込むのだろう。
なんの変哲もない葉っぱの草臥れ具合に惚れる。
何を見つけたのか。何に見つけられたのか。
若いことはむやみに何にでも感動できる権利を持つことだ。行使するかどうかは問われない。
カマキリもいる。
真正面からまずは撮る。正面がどこかを見据える。
それから斜めに見てみる。斜に構える。
夜は見たくないものを隠してくれるから好きだ。
やっぱり真正面がいい、ということが多い。
きらめきは人を誘うが、受け入れてくれるかどうかは保証しない。
街をひとり歩く目的が欲しくてカメラを持つのだと思う。僕の場合。
ちゃんと僕と対峙してくれるのは君くらいのものだ。
何かがきっと売られている。僕とは関係ないものが。
朝日が昇るのを、その光で感じる。
むやみに明るい路地の暗がり。
時を確かめる。
信じるものと、信じたいもの。

 観光。光を見るということだから、自分が楽しいと感じるなら景勝地でなくても名所旧跡でなくとも、それは旅として成立する。

コンテナ。
朝のマンション。
人のいない繁華街。
木々と建築物
バスの窓から
バスの窓からバスを撮る
もはや何がいたのかもわからない。
通り。
通り。
通り。
シンボル。
バスの中から

 僕が撮るのは、その知らない街のなかの、何処かで見たことのある風景だ。場の固有性が消失し、旅になんか出なくても良かったんじゃないの?と思われるような光景に出会いたい。
 けれども、半径500メートルの日常は、何処でも見たことがありすぎて、何かを見つける目の動きが鈍ってきてしまうことがある。

病院の、規則正しさ。
灯る。
明暗の微妙なニュアンス。
そうか、そこに窓はあるのか。

 だから時々、私たちは外へ出ることを必要とする。日常という皮膜の外へ出て、新鮮な空気に触れてみる。何処かで見たことのある、でも知らない街に、生き生きとした目の動きを回復させてもらう。あるいは、私の暮らしの外にある風景を前にして、圧倒的にどこでも見たことのない、どこにもない風景にこの身をさらしたい。新鮮な風景は、日常に戻ったときの日常を、また違った角度で見つめさせてくれるかもしれないから。

空寒さという価値を見つけたい。
ごちゃごちゃした呼吸のような
陰が伸びる。落ちる。
深夜の吐息
深夜の吐息は
誰にも見つけてもらえない孤独。
そっちじゃないでしょ、こっちだよ。
そっちじゃないよ、こっちなんだよ。
そっちなんだろうけど、こっちなんだよ。
誰も目を合わせてくれない
それがきっと街で暮らすと言うことなのかもしれない、とか、なんとか。
ほら、やっぱり、こっちじゃないんだ。
朝にはきっと稼働していたんだろう。
どこへ行くのか。
銀座七丁目、ライオンビル。ビール。ビビる。

 だけど旅に出たからと言って、目の前に広がる光景は、なにも特別でなくても構わないし、特別だとしても、それを実物以上に切り取る術を持たない。だから風景に撮らされることもよくあって、素晴らしい風景をただなんの変哲もない写真として持って帰らなくてはならないこともしばしばだ。

連続するものの魅力
海は尊い

 何処かで見たことのある風景を、まだ見たことのない場所で、感じてみたい。見たことのない光景を、何処かで見たことのある一隅として照らしたい。
 僕にとっての旅の写真は、そんな場の消失を切り取る作業だ。そしてそれでも、何処かで見たこともない風景が切り出されてしまったなら、それは旅で写真を撮ることの醍醐味だと思う。

location:鹿児島 熊本 東京

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