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記事一覧

受肉

『受肉』

 名も刻まれぬ墓のひとつひとつから、ギイギイと音を立てて墓石が崩れ落ちてゆく。
 ひとりの少女は焼身に、生前こだわっていたであろう装飾過多な焦げたフリルやレースのドレスを着て。
 ひとりの少年は戦闘服に身を包み、頭蓋を割られて脳髄の滴る姿で。
 何も身に纏わせてもらえず、腐った身体に打撲痕を残した男女の双子。
 蘇った誰もがまだ子どもとも大人とも言い切れぬ年頃の少年と少女たち。
 蘇っ

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静かな過換気症候群

静かな過換気症候群
見せて 綺麗な階段
つまずいて痛む膝に目
足元に広がる池の色は四角い赤
立体に広がる赤
頭蓋を満たす希望の赤
両目を縫って
手のひらに雲母が張り付く

淵にて

神様 神様
バラバラバラ
神様 神様
バラバラバラ

黒い輪っかが小中大
くぐって落ちる 彼岸の砂浜
浸潤する病理の見えない薄皮を
剥ごうと擦る
愛に耐えきれず

神様 神様
バラバラバラ
神様 神様
バラバラバラ

決めさせてくれと秘めた心が
罰当たりに輪っかで喉輪を締め付ける

神様

助けてください
行き先はどこでもいいから

肺の底に張り付いた鬱の
息をするたび吹き返す愛の加護が

バラバ

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時代霊

お前は詩に向かっている
時代霊の息吹をふきかけられて
無強権主義の平坦な楽園の夢
夢の霊に導かれている
お前は詩に向かっている
その肉体を他者と共有していることを
知っているか

夢見る社会有機体
融合こそが原初 善の本質
収奪こそが原初 悪の本質
社会有機体は融合の性質を持ち
お前は原初として悪夢と羽根を共有している

地上に堕ちて嬉しいか
お前は詩に向かっている
言葉を授けられた
時代霊がまた

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生きてなんかいねえよ

剃刀よ
お前は歌うな
お前は奏でるな
お前は無音の中で踊れ
傷痕を眺めてもしくしくと暮れるな
お前は弱く孤高であれ
過ぎて行ったものたちに囚われて泣き叫べ
生きてなんかいねえよ
もう捨てちまったんだよ
何回拾い上げられて、何度懇願されたことか
捨ててくれ
あなたがたが願うように、私にも願いがある
生きてなんかいねえよ
生きてあげようと、咲いてあげようとしている
ふりをしているだけなんだ
それだけで

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