雁楓

編集者、ナチュラリスト。本の紹介など。

雁楓

編集者、ナチュラリスト。本の紹介など。

マガジン

  • みんなのセンス・オブ・ワンダー

    自然の神秘さや不思議さに目を見はる感性=センス・オブ・ワンダーを綴った記事を集めます。 Top Photo by Kanenori on pixabay

最近の記事

言葉で伝えられないものは確実にある

「話せばわかるなんてことはない」つくづくそう思う。 ひとつは先日の部会での話。ここでわからなかったのは自分のほうだ。 私は少し昔の著名な動物行動学者の本を引用しながら、こんな企画を考えている、と提案していた。それに対して部長が「その話は、最近明らかになっている知見を踏まえると、ちょっとおかしいのではないか」と指摘した。 私はその最近の知見を追えてなかったこともあり、その指摘の意味するところがよくわからなかった。さらに言えば、その動物行動学者の文章にとうてい落ち度があるよう

    • 本で届けようとしている時点で人口の半分以上は切り捨てている

      本で届けようとしている時点で人口の半分以上は切り捨てている。1ヶ月に1冊も本を読まない人が半分くらいいるのだから。 平成 30 年度「国語に関する世論調査」の結果の概要↓ https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/r1393038_02.pdf これによると「1か月に大体何冊くらい本を読むか」という質問に対し、 「読まない」が 47.3%,「1,2 冊」が

      • 「何を伝えるか」より「どんな体験をもたらすか」

        オンラインイベントで話を聞いたり、記事を読んだりしていて、いまひとつ訴えかけてくるものが弱いと感じてしまうことがある。話の中には、おもしろい話題が含まれているのだけど、そのおもしろさがいまひとつ伝わってこないというか(人のことをとやかく言えるほど、自分も話せないし書けないのだが)。 これはひとつには「何を伝えるか」を意識するあまり「どんな体験を提供するか」という視点が欠けているためではないだろうか。編集の仕事においては著者の発信のサポートをするわけだが、そこで意識することの

        • 民主主義のはじめの一歩

          宇野重規『民主主義とは何か』は人に紹介したくなる本だ。民主主義(デモクラシー)とは「人々の力、支配」が元々の意味で、みんなが「参加」することが重要だから。この背景には人々に力のなかった時代、君主制や貴族制のもとでの抑圧があるのだろう。 いまさら言わなくとも投票率はここ最近ずっと低調だし、政治参加も選挙の時によいと思った人に投票するぐらいで、自分がしっかりと政治参加できていると胸を張れる人がどれほどいるだろうか。 しかし気候変動をはじめとした環境問題は政治の問題であるし、教

        言葉で伝えられないものは確実にある

        • 本で届けようとしている時点で人口の半分以上は切り捨てている

        • 「何を伝えるか」より「どんな体験をもたらすか」

        • 民主主義のはじめの一歩

        マガジン

        • みんなのセンス・オブ・ワンダー
          4本

        記事

          テクノロジーが私たちを体から遠ざける

          これは『サピエンス全史』を著した歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『21 Lessons』における一節である。スマホをはじめとしたテクノロジーは、近年ますます私たちの生活の中に組み込まれるようになった。一方で体や感覚を使うことは少なくなってしまっているように思う。 それの何が問題なの? と思うだろうか。ハラリ氏はこれによって以下のようなことが引き起こされると書いている。 体とのかかわりを失うことが、疎外感を生んだり、幸せに生きられないことにつながるのだとしたら、それは由々

          テクノロジーが私たちを体から遠ざける

          はじめて植物の名前を覚えたいと思った時に手に取るべき図鑑は?(樹木編)

          「植物の名前ってどうやったら覚えられるの?」 そう尋ねられることが時々ある。植物調査などの仕事をしているプロにくらべると私も決して詳しいわけではないのだが、それでも身近な植物についてはだいたい名前がわかる(と思っている)。 植物に限らず、生き物の名前を知りたいと思った時にまず考えるのは「図鑑を買うこと」ではないかと思う。しかし注意しなくてはいけないのは、ビギナーの場合「どの図鑑がよいか?」の判断がむずかしいことだ。これは図鑑に限らず、料理ビギナーであればどのレシピ本がよい

          はじめて植物の名前を覚えたいと思った時に手に取るべき図鑑は?(樹木編)

          自然に触れる価値を教えてくれる最良の本

          世はインターネット全盛時代。電車ではほとんどの人がスマホを見ているし、IT系のサービス業・市場はここ数年、十数年で飛躍的に増えた。多くの人が起床時間の多くをインターネットに接続されたモニタの前で過ごしているのではなかろうか。 一方で自然に触れる機会というのはますます少なくなっているように感じる。その自然に触れることの価値を教えてくれる最良の書だと思うのが、冒頭に引用した『センス・オブ・ワンダー』だ。 センス・オブ・ワンダーとは「神秘さや不思議さに目を見はる感性」。道端の小

          自然に触れる価値を教えてくれる最良の本

          人間が持つもっとも強い性質と仕事

          著者の神谷美恵子さんは言わずと知れた精神科医であり、将来に希望も目標も見出せないと語るハンセン病患者と接するなかで、「生きがい」への関心を深めていった。衣食住は国によって保証されていたものの、彼らをいちばん悩ませていたのは「無意味感」であったという。 「毎日、時をむだにすごしている」 「無意味な生活を有意義に暮らそうと、むだな努力をしている」 「たいくつだ」 ここから私たちの生活を生きるかいあるように感じさせているものは何か、ひとたび生きがいを失ったら、どうやってまた新し

          人間が持つもっとも強い性質と仕事

          岡潔「文章を書くことなしには、思索を進めることはできません」

          『人間の建設』に記されている岡潔の言葉。よく言われることだが、考えることと書くことは一体。少しのことは書かなくても考えられるが、深く考える、思索を発展させようと思ったら書くことなしにはむずかしい。あの岡潔だってそうなのだ。 たとえば、数学の問題(簡単な計算問題でなく、いくつかのステップを踏んで解を導く問題)を解くのに、書かずに解くのはむずかしい。ある課題の解決法を考えるときも、何が原因になっているかをデータをさまざまな角度から見たり、加工したりして、その要因を探る。けっして

          岡潔「文章を書くことなしには、思索を進めることはできません」