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#11 コロナ陽性者がホテルでの療養を断る理由

保健所で某感染症の事務をしていたとき、陽性者にホテルでの療養を案内することがあった。

ところが、ホテルの入所が決定した段階でためらう方もいる。

ホテル療養は普段の生活より制約が格段に多いので、気持ちは理解できる。

今日はホテル入所をめぐるあれこれを、思い出しながら書き綴りたい。

ホテルというより避難所と考えた方が良い


ホテル療養という単語を初めて聞いたとき、「病院よりはのんびり過ごせそう」と思ってしまった。
しかし実際は

  • 部屋から出られない

  • 配布される食事がお弁当しかなく、出前の注文は不可

  • 売店、自販機も使えない(ネット通販は可)

  • 服は自分で手洗いしなければならない

といった環境だ。

全部書き出すと長くなるため、詳細は次の宮城県のサイトを参照いただきたい。
自分が調べた中では結構具体的にまとめられていたので、一例としてご紹介する。

細かい点は都道府県によってまちまちだろうが、従業員の感染予防のため、大なり小なり制約がかかることには変わりない。


ホテルではなく「避難所」と表現するべきではと思うくらい。



軽症者にとっては行動が制約されるのが何よりのストレスだ。

症状がある方はある方で、「いざというときちゃんと対応してもらえるの?」という不安もある。
ホテルには医療スタッフも常駐しているが、どうしても病院よりは心許ないと感じられてしまう。


食事の栄養バランスが悪いから嫌だ」と言われたこともある。
配布されるお弁当の写真がネットで出回っているらしく、そんな指摘を受けた。


他方、「一日でも早く入所したい」と訴える患者もいた。
人の感覚ってさまざまだなぁと思った。


子供を置いていけない


また、こんな理由で拒否されたことも。

3人家族の中で、母親だけ陽性になった。父親とまだ小さい子は陰性。

それじゃあお母さんホテル行きましょうか?
と提案した。

以前にも少し説明したが、かつては単身者や陰性の家族がいる人には、積極的にホテル入所を勧める方針を取っていた。


お母さんは、「子供の面倒を見なきゃならないから家に残りたい」と話す。

「でもご自宅にいると、お子さんにうつしてしまうかもしれないんですよね。
 お父さまは陰性なので、お父さまに面倒見てもらうことはできませんか?」

お母さんは
「うーん、それはちょっと………」
と言葉を濁す。

お父さん信用されてないな(笑)

それを上司に報告したところ、上司はにべもなく「お父さんに頑張ってもらいなさい」と。
厳しい……

結局、自宅療養で乗り切ることにしたお母さんであった。

各家庭で事情はそれぞれだろうから、我々がとやかく言う筋合いはない。

しかし万一の際にどうするか、家族で対処法を考え話しておくのは大事だと感じた。

陽性になる以外にも、ある日突然病気になってしまう可能性は誰にでもある。


ちょっとした冒険?


両親が陽性で、子供だけが陰性という事例もあった。

両親ともホテル療養した方が良さそうだが、子供がいるためやはり入所を迷っていた。

しかし先程のケースとは異なり、その子達は高校生と中学生。
しばらく子供だけで生活しても大丈夫、かな?

「むしろ良い経験ができますね」と、親御さんも最終的には前向きに捉えてくださった。

自分自身も高校生の頃までは、洗濯も食事の用意もしたことがなかった。
親御さんの言う通り、良い機会になるだろう。

不謹慎かもしれないが、子供二人だけですごす日々も、ちょっとした冒険のようでわくわくするような。

陽性者にされて困ったこと


これまでのケースとは反対に、一般のホテルに自ら宿泊してしまう人が稀にいた。
「家族にうつしたくないからホテルに泊まったんです」
うつしたくない気持ちは理解できる。
だがホテル側としては、陽性者がいきなりやって来て泊まられてはたまったもんじゃない。

療養用のホテルは都道府県が1棟丸ごと借り上げたり、動線を徹底して分けたりして、初めて陽性者が使えるようになる。

一般のホテルに宿泊されるとホテルにとっては大変な負担がかかるため、やめてもらいたかった。


車中泊も控えていただきたい。エコノミークラス症候群になったりするとシャレにならない。


本当はこうならないように、入院先や宿泊施設を増やしたり、療養が必要な人をすぐに案内できるのが理想だろう。

そもそもこういったホテルの存在が必要なくなるのが一番良い。


保健所の仕事を離れて随分経つが、その日はいつ来るのだろうか。

いつまでもゴチャゴチャと変異株なんか出しやがって……
早く終息しろよ! いいかげんにしろ!
というのが本音である。


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