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#9 殺伐としたときこそ、いつもの仕事に救われる

あの感染症が出始めた2020年、保健所の業務は増え続ける一方だったが、一時的に減った業務もあった。

2021年2月末までという条件付きだが、指定難病の受給者証の更新作業がなくなった。

受給者証に設定されている有効期間が延長されたのだ。


【指定難病の受給者証とは】
難病の患者さんに発行されるカードのようなもので、これがあれば病院で支払う医療費を減らすことができる。
では指定難病とは何かというと、文字通り国から指定されている難病のこと。300種類以上ある。
国から指定されるにはいくつか要件があるが、長くなるのでここでは割愛する。


受給者証は、普段なら一年に一度更新(継続申請)の必要がある。
これがまた専用の診断書を取って、課税証明書を取ってと、更新には非常に手間がかかる。


職員側も毎年この時期は忙しい。保健所の電話は鳴りっぱなしになり、申請書の処理で深夜まで残業に追われるのが常だった。

今年は感染症業務でとんでもない事になっているが、それと両立できるのかという不安がつきまとっていた。



その更新の手続きが、この年に限りいらなくなったのだ。
(参考:厚生労働省ウェブサイト

※現在は更新が必要となっています。


患者さんとしては、感染のリスクを負いながら、わざわざ診断書を取るために病院へ行く必要がなくなった。

私たちの事務負担も大幅に軽くなった。

Win-winではないか。


これに関しては厚労省グッジョブ!というのが個人的感想。



さて、受給者証の更新の手続はなくなったが、新規発行の受付はいつもどおり行っている。
この状況に関係なく、病気が見つかるときは見つかる。
受給者証が必要になる方がいるのには変わらないからだ。


こう言うと患者さんには怒られてしまいそうだが、自分はこの受付の仕事に癒やされていた。

窓口に来た方と、何気ない世間話をするとホッとする。

「よくわからないけど病院から手続しろって言われて…」
と話しながら来る人もいる。

制度を説明して、「あぁそういうことね!」とご理解いただけたときが嬉しい。

患者さんの治療において直接力になることはできないが、手続や制度についての「わからない」を解消することならできる。
安心して治療を受けるための一歩を踏み出す手助けならできる。

手続によって、少しでも気持ちが楽になればと思うのだ。

また、受付カウンターの背後では
「誰か健康観察やって!」
「○人陽性になったから調査やって!」
「11時に1名ホテル入所!車の手配して!」
「検査の手配を!」

といった声が職員間で飛び交う状況である。

患者さんと話しているときは、この喧騒を忘れることができる。

まれに「こんな忙しいときにすみませんねぇ」と言われる。
だが我々にとっては、感染症以外の普段の仕事をすることで、心の平穏を保てるのだ。

すみませんなんてことは全くないので、どうぞお気軽にお越しください。

そんな風に思っていた。

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