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国際: 脱炭素と再エネ

国際エネルギー機関/IEA(於:パリ)が、1月11日に再エネに関する年次報告書「Renewables 2023」を公表、世界全体で再エネ導入が勢いよく伸びているとのこと。報告書概要とそのインプリケーションをサクッとまとめてみた。

記事要約

  • 2023年迄の世界全体の再エネ導入実績と今後の見通しをまとめたのがこの報告書。

  • 内容は一言で下記に要約できる:再エネ導入は引き続きすごい勢いで伸びているが、今のペースだとCOP28での合意にはちょっと足らない、だから政策をもっと頑張ろう。

  • 脱炭素目標に対して、再エネ導入は成果を上げている方で、稀なケース。他の分野ではかなりてこずっているのが現状。




1. そもそも再エネってなんだっけ?

高校でちょこっと習ったエネルギーという概念。仕事をすることできる力の事を差し、運動エネルギー、位置エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー、電気エネルギーなどいくつか種類がある。電力などに加工される前のエネルギーを一次エネルギー/Primary Energyと言い、一次エネルギーの中には再生可能なものと再生不可能なものに分けれる(下記図参照)。IEAの再エネ年次報告書が扱っているのが、再生可能な一次エネルギー(例:風力や水力、太陽光、地熱等)と、これら一次エネルギーから転換・生成された二次エネルギー(例:電力、水素、バイオ燃料等)である。

2. IEA再エネ年次報告書「Renewables 2023」概要

IEAでは日々、あらゆる種類のエネルギーに関する生産・供給・使用状況をモニタリング・分析している。再エネもしかりで、2023年迄の世界全体の再エネ導入実績と今後の見通しをまとめたのがこの報告書「Renewables 2023」。

この報告書のメッセージを一言で説明するならば、以下の通り。

再エネ導入は引き続きすごい勢いで伸びているが、
今のペースだとCOP28での合意にはちょっと足らない、
だから政策をもっと頑張ろう。

第一に、再エネ導入の伸びがすごいことがわかるのが下記の図。特に太陽光発電の伸びがエグい。2023年の再エネ新規導入の内、3分の4以上が太陽光発電増加に起因。

IEAによる世界全体における再エネ導入の動きをまとめた図
世界全体における再エネ導入の動き (出典:IEA再エネレポート、p. 15)

第二に、国・地域別でみると欧州、米国、ブラジルらも頑張っているが、中国が圧勝なのが、下記の図でわかる。2017-2022における再エネ発電施設の新規導入量(約1453GW)は、中国(681GW)がほぼ半分近く占めている。なお、2023年の太陽光発電施設の新規設置を世界全体で見た時、そのおよそ半分は中国。そして今後もその流れは変わらない。

EAによる、国・地域別の新規再エネ導入分析の図
国・地域別の新規再エネ導入(出典:IEA報告書、p.16)

第三に、それでも今のペース(28年時点で0.73万GW予想)では、COP28にで決まった2030年目標(1.1万GW)に届かない。それがわかるのが下記の図。28年時点で少なくとも0.81万GWに達してないとダメ。特に利率上昇&インフレによるマクロ経済状況の影響、グリッド投資、再エネ導入プロセスの簡素化、途上国における資金アクセス等に対する政策が必須。

IEAによる世界全体の再エネ電力容量の今後の予測シナリオ
世界全体の再エネ電力容量の今後の予測シナリオ(出典:IEA Renewables 2023

他にも、太陽光発電や陸上風力発電による発電コストが化石燃料利用による発電コストより下回った旨、洋上風力については資金繰りやサプライチェーン/コスト問題、認可機関の問題で停滞気味(中国除いて)、水素やバイオ燃料、地熱など他の再エネの生産・供給・利用拡大もまだまだな旨記載されているが、詳細割愛。

ちなみにいつも通り、ライブ・ストリーミングもされている。

3. 思ったこと

この再エネの話だけ聞いていると、あと少し政策強化すれば脱炭素やネット・ゼロ達成できるんじゃないか?と錯覚しそうになるが、現実はもっと厳しい。まず一点目に、確かに再エネの伸びはすごいけど、まだまだ先は長いということ。再エネはまだ、エネルギー供給全体の10%しか占めていない(世界全体、2019年時点)が、脱炭素を達成するためにはこれが少なくとも3分の2以上にまで拡大しないとならない。

IEAによる2050年ネットゼロシナリオにおけるエネルギー供給
2050年ネットゼロシナリオにおけるエネルギー供給
(出典:IEA、ネットゼロ・ロードマップ、p. 57)

ちなみに再エネ導入は、成果を上げている方で、稀なケース。他の分野ではかなりてこずっているのが現状。建物や運輸、産業といった個別セクターや電力セクター等を含めたエネルギー・システム全体で、脱炭素化が不可欠な要素/Componentsを細かく仕分けると、各種再エネ導入も含め50個以上になる。IEAが定期更新しているTracking Clean Energy Progressという名の分析プログラムを見ると、何が進んで/遅れているかぱっとわかる

IEAが発行するTracking Clean Energy Progressから脱炭素に向けた進捗状況の一覧表
脱炭素化に向けた進捗状況(出典:IEA「Tracking Clean Energy Progress 2023」から)

詳細は省くが、今日時点で進捗が良好なものは、電力セクターにおける太陽光発電システムの設置運輸セクターの電気自動車導入建物セクターのLED導入だけである。何よりも、人口増加や途上国の経済成長がある中で、年々増加する世界のエネルギー供給を早期ピークアウトするのが至難の業な気がする。電化や省エネ、人々の行動変容がカギとなるがそれだけで増減分を吸収しきれるか。。。

ということで再エネの進捗自体はウェルカムだが、脱炭素への道は引き続き厳しく険しいものになりそう。そして、IEA。働く場所としては大変だったが、IEAの各種成果物は非常に有意義だなあと再認識させられた。


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