国際: 脱炭素とメタン/CH4
2024年3月、国際エネルギー機関/IEA(於:パリ)が、世界のメタンガス排出に関する現状分析をまとめた年次報告書Global Methane Tracker 2024を公表、その概要を整理した。
記事要約
その排出規模からCO2が注目されがちだが、他のGHGガス排出抑制も重要。メタン/CH4については、CO2に比べ25倍もの温室効果を持つ。
2050年気候中立(パリ協定)達成のためには、世界のメタン排出は-75%@2030年とならなければならない。そのうち-50%分は、各国・各社がこれまでプレッジしてきた取組を着実に実施することで達成可能。
とにもかくにもまずは人為的メタン排出&大気中のメタン濃度をピークアウトさせてほしいところ。
1. メタンと脱炭素
気候変動の要因となっている温室効果ガス/Green house gases (GHG)排出。その排出規模から二酸化炭素/CO2が注目されがち。だが、2050年気候中立や脱炭素のためには、他のGHGガス排出抑制も重要。
1.1 温室効果ガスとしてのメタン
他のGHGガスは、大気中に排出されるとCO2の何十倍から何万倍もの温室効果を持つが、それを現したのが地球温暖化係数/Global Warming Potential(GWP)。今回IEA報告書の対象であるメタン/CH4については、CO2に比べ25倍もの温室効果を持つ。
メタン/CH4ガスは炭素原子と水素原子が結合して生じる炭化水素化合物の一種で、自然界に広く存在する無色無臭の可燃性ガス。基本的に、複雑な構造の有機物が酸素不足の状態で分解される時に生成される。主な発生源は、湖沼や湿地、水田、牛などのゲップ、シロアリ、化石燃料の採掘および燃焼など。
1.2 大気中のメタン濃度増加
原則、大気中に放出されたメタンは、大気中のオキシダント(OHなど)との反応し消滅&土壌中の微生物利用によってバランスが保たれる上、寿命も12年と短い。しかし、産業革命以降様々な要因に人為的排出が急増、現段階で約40%は沼地や河川、シロアリなどの自然起源のもので、約60%は稲作・畜産・化石燃料の採掘といった人為起源となっている。その一例は以下:
アジアを中心に営まれている稲作(水田つまり人工的な湿原からの排出)
牛や羊などの家畜飼育(げっぷなど)
近年の人口増加や食生活の変化
天然ガスなどの化石燃料採掘(ガス田やパイプラインからの漏出など)
ゴミなど廃棄物やそれを用いた埋立地からのメタン放出
なお、天然ガスの主な成分はメタン、その天然ガスは、その約6割が火力発電用燃料、その3割は都市ガスとして使用。さらにメタノールやアンモニアなどの基礎化学品の他、プラスチック製品、医療品、塗料などの化学製品が製造されている。
1.3 脱炭素の好材料としてのメタン
大気中のメタン濃度の増加は懸念材料である一方、メタンの活用は脱炭素に資するとも考えられている。
第一に石炭や石油の代替燃料(例:火力発電や暖房やら)として優れている点。燃焼しても酸性雨や大気汚染の原因となるSOx(硫黄酸化物)が全く排出されず、NOx(窒素酸化物)、CO2(二酸化炭素)の排出量も石油や石炭よりも少量。石炭と比較すると、CO2の排出量は約6割にまで抑えられる。
第二にメタネーション(CO2とH2Oの両方を同時に電気分解(共電解)してCH4を生成)。工場や発電所から排出されるCO2を回収し、水素と掛け合わせてメタンを合成、生成されたガスを再び工場や発電所で使用するというもの。無論、メタネーション・ガス燃焼時にCO2が排出されるが、元々CO2を回収して生成したガスのため、実質的にCO2排出量がゼロになるという考え方。
第三にメタンガス化/バイオガス化。生ごみや家畜の排せつ物などのバイオマスを、嫌気性微生物の働きによって分解、メタンガスを含むバイオガスを生成する技術、精製したガスを燃焼させ、電源や熱源として利用するという考え。本来なら捨てられるはずの食品廃棄物をリサイクルできることに加え、メタンガス化と同時に生成される発酵残さ(微生物の食べ残し)は肥料として農地で活用できるのがメリット。
2. 報告書概要
大気中のメタン濃度は、産業革命以前に比べ2.5倍以上、地球の表面温度上昇の30%は、産業界以降のメタンの蓄積が原因。下記表の棒グラフが、大気中のメタン濃度で毎年増加しているのが見て取れる。折れ線グラフは毎年の濃度増減で、増加に波有れど、原則増加傾向にあることがわかる。
2023年に大気放出されたメタン量は580Mt。その内訳は下記だが、上述の通り、自然起源が4割、人為起源が6割。人為起源排出の内、農業起源が142Mt、エネルギー関連が130Mt。エネルギー関連の内、石油、石炭(地下鉱山開発起源)、天然ガス(油田やガス田から発生するガスを焼却処分するためのフレアリング)、バイオ燃料(不完全燃焼起源)の順でメタン排出が多い。
では、このメタン排出がどのように減少すれば、パリ合意に刻まれた温度上昇1.5度未満を達成できるのか?IEAの2050ネットゼロ排出シナリオ(NZE2050)によると、-75%@2030年が必須、そのためにはクリーン・エネルギー利用拡大を通じた化石燃料利用の大幅減が重要とのこと。
その削減量の内訳(各削減要因毎にブレークダウン)を説明したのが下記の図。①化石燃料生産を減らし、②石油&天然ガス生成時はメタン排出対策を実施&生産量が低い油田・ガス田は閉鎖、③ガス回収が困難な露天掘の削減など。他、油田やガス田における、各種リーケージ対策、低・ゼロ炭素ポンプやコンプレッサーの使用、Vapour recoveryによる回収ガス再利用(フレアリングや大気放出減・廃止)。。。詳細割愛。
-75%@2030年を達成するためには、特段技術革新は必要なく、既存技術の拡大普及で可能で、採算もある(回収したメタンを市場取引する等)。エネルギー価格次第な所はあるが、2023年のエネルギー価格であれば、2023年に排出されたメタンの内、その40%をネット・コストゼロで削減できたとのこと(2022年のエネルギー価格であれば80%まで上昇)
採算がとれるならなぜ、そのようなメタン排出対策が実施されなかったのか?その理由は:
問題の認知度が低い
企業に対してメタン排出対策を取らせるような規制がない
初期投資に対するPayback期間が長くなる(と思われがちだが、IEA試算によると初期投資に対するリターンは年率8%)
インセンティブのSplit(採掘会社、油田・ガス田オーナー間のインセンティブが働かない問題)
知見の問題、他
初期投資資金の問題
-75%@2030年を達成するためにはUSD 170 billionが必要との試算。そのうちUSD 100 billionは油田・ガス田、残りは石炭産業、地域別で必要とされる資金が違う。
-75%@2030年の内、50%分は、各国・各社がこれまでプレッジしてきた取組を着実に実施することで達成可能とのこと。the Global Methane Pledge (GMP), updated Nationally Determined Contributions (NDCs) under the Paris Agreement, the Oil and Gas Decarbonization Charter (OGDC), and national methane action plansなどが、それに相当。
3. コメント
大気中の寿命が短いにもかかわらず、1900年頃以降現在に至るまで、大気中のメタン濃度が増加傾向にあることにちょっと絶望を覚えたが、2050年ここ宇宙率達成に必要なマイルストーンである-75%@2030年の内、50%分はプレッジ済みの取組を着実に実行すれば達成可能、というのは心強いメッセージ。とにもかくにもまずは人為的メタン排出&大気中のメタン濃度をピークアウトさせてほしいところ。
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