欧州: 脱炭素と交通部門 by T&E
2024年3月、在ブリュッセルの環境NGO組織のT&EがClean solutions for allという報告書を発表。あくまで環境団体の言うことではあるが、それなりにモデル組んだりして分析しているので、その内容をサクッと整理してみた。
記事要約
運輸・交通部門は欧州全体の排出量の27%(2021年時点)を占め、そのうち車両起源のものが45%を占める。1990年比で、コロナ前の2019年時点で25%増、コロナ時の2020年時点でも6%増。
2035年内燃機関車両新車販売禁止&EVのみの施策だけでは2050年脱炭素は達成不可能。既に市場に出回っているガソリン・ディーゼル車両を何とかしないといけない。
T&Eが提案する追加施策を講じれば、2040年までに-86%(2015年比)が可能とのこと(E-retrofitting&Scrapping、カンパニーカーのEV化、モーダルシフトなど)。
1. T&Eとは
T&E自体の存在は知っていたが、いい機会なので色々と調べてみた。したらびっくりなほど大きな所帯を持つT&E。オフィスはブリュッセルにあるほか、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、UKにもあり、スタッフは総勢110名以上。
普通、資金繰りが苦しいNGO。そんなにスタッフを雇い入れるのは通常難かしいはずなのだが、金の出所を見たら納得。欧州委員会や各種基金、環境団体、各国政府などから資金援助を受けている。
今回の報告書は元自動車業界出身のエンジニアでT&Eでの勤務経験3年の若手スタッフYoann Gimbertさん。これまた環境団体として名高いICCTやFaunhofer Instituteの研究者によるProof readingしてもらったとのこと。
2. 報告書概要
運輸・交通部門は欧州全体の排出量の27%(2021年時点)を占め、そのうち車両起源のものが45%を占める。1990年比で、コロナ前の2019年時点で25%増、コロナ時の2020年時点でも6%増となっており、同部門の排出量に歯止めがかかっていないのが現状。
これではまずいということで、欧州委員会が車両CO2排出規制を改定、厳格化したのが2023年。その改定により2035年以降の新車は全てEVのみとなったのは記憶に新しい。
※自動車CO2規制の概要はこちら
ただ、これだけでは2050年脱炭素は達成不可能。なぜなら新車をEV化しても、既に市場に出回っているガソリン・ディーゼル車両を何とかしないといけないから。ということでT&Eとしては下記の追加施策を提案。これら施策を組み合わせることで、2040年までに-86%(2015年比)が可能とのこと。
まずは現行のCO2規制(2035年以降新車EVのみ)をキープ。
カンパニーカーのEV化(BEV):2027年までに50%、2030年までに100%
既存ガソリン・ディーゼル車両のE-retrofitting&スクラップ・スキーム(特に低所得者層向けにEV補助金やカーシェア支援)
OEMが推すE-fuelはドロップ、古い車は徐々に走行禁止。
道路建設の減少、モーダルシフトでクルマの利用を減らす。
ちなみにE-retrofittingとは、ガソリン・ディーゼル車両のエンジンと燃料タンクを電動駆動とバッテリーパックに積み替えることで、クラシックカーなどを対象に行われることが多い。
これらの施策を着実に実施することで、2050年迄に市場の車両ストック含め、完全BEVかできる、というのがT&Eが描く運輸・交通部門の脱炭素ロードマップである。
3. コメント
2035年からのEV新車販売only規制だけでは、運輸・交通部門の脱炭素化は頓挫してしまう、追加施策が必要というのは合意。格安EVが中国から押し寄せてきているとはいえ、そもそも欧州では新車購入するのはRich層、普通の人は中古車を買う。その中古車をどうにかしないといけないのはまさにその通り。
でも、その施策として、古い車両の走行禁止とかE-retrofittingってのは、現実問題としてどうなのだろうか。古い車両の走行禁止は低所得者層への負担が大きいので、どこまで政府ががっつり支援できるかによるが、それにも限度があるだろう。E-retrofittingも、クラシックカーはあくまで特例で、それを一般化・常用するとなると、セキュリティーや安全性の問題も出てくるはず。
カンパニーカーのEV化はいいところを突いてくる。私もカンパニーカーを持っているので正直EV化義務は個人的には辞めてほしいところだが、本気で脱炭素していくなら切り込まないといけない聖域ではある。
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