見出し画像

ゆきだるまのおんがえし - 手のひらサイズの物語

私はひとり、家路を急ぐ。
 いつの間にか降り出した雪の中、傘もささずに。手にはくしゃくしゃになったを包みをひっつかむように持って。
本当にあの人、最低だ。
クリスマスデートをすっぽかした挙げ句、他に好きな人が出来たから別れようなんて私ほんとにただの都合のいい女だったって事だよね。
 悪態をついてみるけれど、むなしい気持ちになるだけでなんだか泣けてきた。分かれ道の先に見えた眩い街並みから逃げるように、街灯の少ない道へと進む。

「……あ」

 ふと、視線の先に少し丸い人影のようなものが見えた。
 不審者かと警戒したけれどそっと近づくにつれ、それがただの雪だるまだったことに気付く。
 暗がりの道端にぽつん、と立ってる雪だるまに軽い同情と親近感を覚えた私は、握りしめた包みを剥がし、ニットマフラーを引っかける。

「もう必要ないからあげる。あなたが彼氏だったら良かったのに。………なんてね」

冗談交じりに笑いながら、私はその場を立ち去った。
それが、クリスマスイブのこと。

落ち込みたかったけれど、仕事は待ってはくれないし。
何とか仕事を納めて、定時を大きく超えた時間に、私は、とぼとぼ駅から自宅への道を歩いていた。
いつもの分かれ道にさしかったところで、ふと、あの雪だるまのことを思い出す。
 そうだ。私あのマフラー、そのままにしてたんだ。迷惑になるから、回収しなきゃ。
あの夜歩いたのと同じ道へ分かれ道を行く。
そこに、人影が見えた。さすがにもう雪だるまでもないだろう。
だって丸くないし、影の形は人っぽい。
今度こそ不審者かと思い、なるべく刺激しないように、目線を向けないよう進んで、ようやく、その影の前を通り過ぎようとした、その瞬間。

「彼氏を無視するとは、なんて冷たいやつなんだ」

信じられないひとことが、その人影から発せられた。
めちゃくちゃイケボだったけど、そんなことより何より内容が衝撃的すぎて、思わずそっちを見てしまう。
さらさらヘアーに切れ長の瞳。透き通るように白い肌。どこからどう見てもイケメンが、私を見て笑っていた。
「はい……?」
「彼氏だったらいいなと言ったのは、君だろう」
その言葉に私は、数日前の出来事を思い返す。
よくよく見てみれば、その不審者・もといイケメンの首に巻かれているのは、さっきまで回収しようと思ってたマフラー。
「それは、雪だるまに」
「ほら、そうだろう!」
いや胸を張られても。
「だから今日から俺が、彼」
「お断りします」
「えっ!」
そんなの当たり前でしょ、って、なんでこの世の終わりみたいな顔してるの。

「だって、俺、雪だるまで、恩返し……………」
いや、雪だるまがイケメンになって恩返しなんてあるわけないでしょ。
「これ、嬉しかったから」
握りしめてるそのマフラーも、さっきの台詞も、確かに雪だるましか知らないことだけど、そんな非現実的なことあるわけない。普通なら。
「………ほんとに?」
けど、振られたあげく残業続きで疲れ果ててた私は。
「信じられない、か?」
上目遣いに恐る恐る尋ねてくる様子に負けてしまい。
「じゃあ、とりあえずお友達からなら、どう?」
この雪だるま、もとい残念イケメンを、拾うことになってしまった。


絵 はしもとあやね @enayacomic
文 ねきの@nekino_e



イラストレーター×文筆家の物語ユニット
 et word

各種SNSでも投稿中!
ぜひ他の物語もぜひご覧ください
Twitter : @_etword Instagram : @_etword
et word公式HPはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?