マガジンのカバー画像

血も凍る

122
怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」で放送された怖いお話を、色々な方が文章に“リライト”しています。それを独自の基準により勝手にまとめたものです。
運営しているクリエイター

#小説

[禍話リライト]深夜のファミレス[燈魂百物語 第零夜]

これで机を拭いて回るのも何周目になるだろうか。 布巾をたたみつつ店内を見渡しても男子大学生らしきグループが窓際の席でダル気に話しているだけだ。今日も特に仕事はなさそうだな、と独り言ちながらボックス席に挟まれた通路を歩く。 一応24時間経営ファミレスの系列店ではあるが、交通の便などの事情で昼にさえ客があまり来ないような店である。深夜二時ともなればなおさらで一組の客がいるだけでも相当な珍事だった。 24時間営業など辞めてしまえばいいのにとも思うが、深夜だけに時給も高く楽な仕

【怖い話】 お迎えコンビニ 【「禍話」リライト42】

 最近、やたらとコンビニが建っている。あなたの住まいからちょっと歩けばコンビニがあるだろう。コンビニの近くにコンビニができていたりさえする。  適度な広さの土地さえあればすぐにコンビニが建つ。細胞が増殖しているかのようである。  ただ、そのコンビニがどんな場所に建っているのかは、ちゃんと知っておいた方がいいかもしれない。  「単位も稼いでましたし、そろそろいいかな、って思ってたんですよね」  2年生になったMさんは、「そろそろバイトでもしてみるか」と思ったそうである。  

[禍話リライト]トンネルの宴[禍話 第六夜]

個人で経営している塾が閑散期に入ってどうにも暇である。久々に実家のある北九州に帰省することにした。 あくまで個人でやっているので、世間一般の休みとは微妙にずれている。せっかくなので鈍行を利用してのんびり帰ってやろう。 ガタンゴトン ガタンゴトン 都会から徐々に田舎に移り変わっていく景色を楽しみながら、久しぶりにくつろいだ気持ちになれた。こういうゆったりとした時間は久しぶりである。乗客のスーツの割合も少なくなってきて、緩んだ田舎の空気の割合が増えてきた気がした。 そろ

[禍話リライト]人のいい佐藤君[禍話 第五夜]

大学を卒業してから、通勤の便のために故郷から都内に引っ越した。 父にも母にも、ものすごく心配された。 「お前は優しすぎるから、東京行って変な奴に騙されたりしないように気をつけろよ?世の中、良い人の方が珍しいんだから」 僕ははいはい、とか適当に返事しといたけど、そんなことはないと思う。どんな人だって、真心で接していれば、きっと心を開いてくれる。そのためには、きちんとコミュニケーションをとることが大事だ。 例えば、円満なご近所付き合いのための挨拶は大切だ。ちゃんと引っ越し

[禍話リライト]ザクザクのお祓い[禍話 第三夜]

私は辺り一面雪景色の中に一人ぽつんと立っていた。 ザクザク、と雪を踏みしだきながら歩くと、掘っ立て小屋が寄り集まった昔の村のような場所についた。 私は勝手知ったかのように村の中央に訪れる。 そこでは、白装束を着た全身ぐちゃぐちゃの女の人が、村人たちに農具で耕されるようにリンチされていた。 女の人は声一つ出さずに、ただただ耐えているようで、目を固くつむって、手足に力を入れていた。 その女は生きているのが不思議な状態だった。 女が来ている白装束は、すでにずたずたに切り

小説版禍話03「赤い女のビラは探すな」

 赤い女、という話がある。  おそらく、赤い服を着た女をモチーフにした怖い話は古今東西に様々なパターンが存在するだろうが、私達の間で話題になっているのは「赤い女に気をつけてください」という内容のビラがポストに投函される、という話だった。 「そのビラ、実在すると思います?」  サークルの飲み会で、その赤い女の話をしていたら、ひとつ下の山口という男子がヘラヘラとそう言った。 「いやーどうだろうね、でもエリア的にはこの辺って話なんでしょ?」  山口の同級生の、たしか高橋さんという女

小説版禍話02「黒い女の絵」

「黒い女の話、知ってる?」と言われた。 「黒い女?」  知らなかった。ただ、怖い話の類だろうということはわかる。そういった話が好きで集めていたら、頼まなくてもこうやってその手の話が持ち込まれるようになった。 「いや、俺もよく知らないんだ。あんまり深入りしたくなくて」  切り出しておきながらそんなことを言う。  その黒い女は、山の中にいるらしい。しかも、その山というのが、登山道などもなく、たとえば山中に発電所なんかがあって、そこの職員しか出入りしないような、そういう山だという。

小説版禍話01「段ボールの家」

一 そこの町内会長――仮に、石井、としておこう――は、面倒見が良いタイプだった。  だから、山を切り崩して建てたその新築住宅に若い子連れの夫婦が入ってきた時も、石井はすぐに挨拶に赴いた。  その夫婦――ここでは真壁夫妻と呼ぶ――は、夫の真壁は三十代半ば、妻の沙希は三十に差し掛かるかどうか、といったところで、二人の間にはまだ小学校に上がらない年子の息子と娘がいた。  その家は平屋だがなかなかに立派で、庭には砂場も作ってある。  若いのに大したもんだ――と思いながら、石井は真新し