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【映画感想】キャンディマン

えー、1992年に公開されたオリジナルの『キャンディマン』。当時観ているんですが、70年代のオカルト、80年代のスプラッターとホラー映画のブームが続いていたところでのちょっと過渡期といいますか谷間といいますか。久々にホラー映画だなって感覚で観たという記憶があるんですけど、それなのに、なんだかとても哀しい話だなと思った印象もありました。その『キャンディマン』の精神的続編(リブートと言われてましたが、完全に92年の続編ですよね。これ。)。『ゲット・アウト』、『usアス』のジョーダン・ピールが制作、脚本を書いた最新版『キャンディマン』の感想です。

はい、ということで、あの、もう、めちゃくちゃ良かったんですが、前作では恐らくはっきり読み取れてなかった差別の問題(なぜ、この物語はこんなに悲しげなのか?)っていうのが全部すっきりすると言いますか。『キャンディマン』がなぜ『キャンディマン』にならざるを得なかったのかっていうのと、その後のストーリーに(前作では)いまいちハッキリとした繋がりを感じられてなかったんですけど(エンターテイメントで人種差別を扱う時のバランスが当時としてはこのくらいがギリだったんじゃないかなと今作を観て思いました。で、その裏に隠さなくてはならなかった感じがまたリアルなんですが。)、今回のはそういうのも含めてもっと積極的と言いますか、「この『キャンディマン』の切ない顔見たらどれだけ差別が人ならざる所業か分かるだろ?」って感じなんですね。で、それでもまだ今作も都市伝説という。つまり、前作では差別の問題を都市伝説として扱うことで真実を隠さなくてはならないという"悲しさ"だったものが、今作ではあれからもう30年も経ってるのにまだ都市伝説(「これ本当にあったことなんですよ。」)的な扱いだっていう"怒り"に変換されてると思うんです。それが今この物語を語り直す理由にもなってるんだと思うんですよね。

でですね、もちろんそこばっかりじゃないのが良いんですけど(こっちの方が本丸なんですけどね。)、ちゃんと怖いんですよ。というか、ちゃんとホラーなんです(前作同様人体損壊的なエグみもありますし。)。『ゾンビ』とか、『悪魔のいけにえ』とか、『13日の金曜理』とか、『ハロウィン』、『エルム街の悪夢』とか、タイトル挙げたらすぐキャラクター名が出て来るような、(結構王道的な)ホラー映画なんですよね。キャンディマンの最初の登場シーン、手の平を開いて持っているキャンディを見せるってシーンがあるんですけど、それとか。団地の前で振り返るカットとか、めちゃくちゃカッコ良くて(そもそも毛皮のコートに片腕鉤爪とかビジュアルがカッコイイんですよ。キャンディマンは。)。僕にとってはホラー映画って怖さよりもそっちなんです(どっちかというとマーベルとかのヒーロー物観てる感覚に近いんです。異形のヒーロー。)。『ゲット・アウト』観た時に、あ、ひさびさにカッコいいホラー撮る人だなと思って、『アス』でやっぱりこの人そうなんだって確信した(あの地下家族のビジュアルとか凄く良かったですよね。)ので、今回、監督がジョーダン・ピールじゃなくてどうかな?と思ってたんですけど、ニア・ダコスタ監督そこのとこ(異形のヒーローとしての描き方)めちゃくちゃ良かったです(なんなら、ジョーダン・ピールほど洗練されてないのが、インディー映画っぽくてより今回の作風に合ってたんじゃないかと思います。)。

で、更には続編としての作りも良くて。ほとんど前作の話を踏襲しているので(ここをもってリブートって言ってるんだと思うんですど。)、話の流れは一緒なのに、キャンディマンという概念(といいますか)を取り巻く現実の部分がアップデートされていて(シカゴのアート業界が舞台になってるのとか、今までのホラー映画にはなかった舞台設定なんかもあって。)、その上で前作の話が都市伝説として現代に語り継がれてるっていう。つまり、前作を観てない人には『キャンディマン』とは?という説明になっていて、前作を観てる人には「あれは何だったのか?」っていう部分の解説にもなってるんですよね。で、更にそれが現代にどういう呪いとして描かれるのかっていうサスペンスにもなっているという。これはジョーダン・ピールの脚本の凄さですよね。素晴らしい。

ということで、僕にはめちゃくちや刺さったんですが、ド平日真っ昼間とは言え、新宿の映画館で映画泥棒始まるまであわや貸し切り?という状況だったんですけどどうなっているんでしょうか。この傑作を見逃す手はないですよ。


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