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【映画感想】RUN / ラン

はい、いくつか前に感想書いた『クローブヒッチ・キラー』は16歳の男の子が父親の性癖を疑うことで始まるスリラーだったんですが、今回の『RUN / ラン』は、車イスで生活する少女(クロエ)が、母親の愛情を疑うことで始まるスリラーでした。で、どちらも結構なサイコ事案だったんですけど、『クローブヒッチ・キラー』に比べてこちらの方がよりジャンル映画的で、型にハマった分かりやすさとそこからハミ出した部分の斬新さが楽しめるので、夏ですし、何かスリリングな娯楽作品観たいなという方にはうってつけじゃないでしょうか。行方不明になった娘の消息をSNSを使って追っていくミステリー映画『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督の最新作『RUN / ラン』の感想です。

ということで、『search/サーチ』の時はプロットありきと言うか、視点のクールさとかちょっと引いた感じの構造的な映画だったので、そういう作家性の監督なんだろうなと思っていたんですが、今回はそれにプラスして、人間の愛情とか妬みの様な曖昧さがストーリーの軸になっていて、ジャンル映画的分かりやすさの中に"人"っていう分からなさが混ざって来てるというか、『サイコ』や『シャイニング』のような心理スリラーというジャンル・ムービーを、イーライ・ロス監督的スピード感で撮ってる様な面白さがあったんです(イーライ・ロス作品ほどエグくないのもこの映画の観やすさかもしれません。)。えー、例えば、子供にとって全幅の信頼を寄せられる最たるものが親の愛情だと思うんですけど、それが信じられなくなるとなればどうしたって不安定で重い話になってくると思うんです(正しく『クローブヒッチ・キラー』はその重さや不安定さを描いた映画だったんですが。)。この映画、そこの(母親なのかサイコパスなのかっていう)葛藤がほとんどないんですね。そこをスパッとスイッチすることで、愛情とか絆とかいうウェットになりそうな部分が狂気的な恐怖になっているんです。つまり、そこを引っ張らないことで車椅子でのクロエのアクション(クロエ役のキーラ・アレンさん、普段から車椅子で生活してる人らしいんですけど、そう考えると屋根伝いに部屋を移動するシーンとかヤバかったですね。)とか、母親のサイコな描写が多く描かれていて、そこは『クローブヒッチ・キラー』に比べてジャンル映画的な楽しさがあるんですよね。

じゃあ、母親のヤバさは単純にサイコパスだからということで済まされて、あとはジャンル映画的面白さのみで突っ走っているのかというとそうではなくてですね。母親がなぜそんなことをしてるのかというのが徐々に明かされて行くミステリーとして描かれるんです(その母親の思考の流れとそれまでやって来たことの理屈の合わなさっぷりが怖いんですけど。)。で、この母娘の愛憎(もしくは虚実)入り混じるやり取りを映像のインパクトとスピード感(そして、サイコな事象)で描きながら見ているうちに何とも哲学的(というか宇宙的)なヤバさを感じるやつなんかあったなと思ってたんですが、あれですね。楳図かずお先生の『洗礼』(『洗礼』の母親の方が断然サイコでヤバいんですが、これを読んでいたからこそ、この映画を疑うことなく楽しめたのかなという気はします。あと、昔観た『エスター』というホラー映画が『洗礼』そっくりだったんですが、その話はまた後日。)。で、そんなこと考えてたら主人公のクロエ(キーラ・アレン)なんか楳図漫画的美少女だし、母親のダイアン役のサラ・ポールソン(ネトフリの『ラチェット』の看護師役も怖かったです。)の古のハリウッド女優的美しさと怖さを併せ持つ感じなんかも楳図的と言えばそうですよね。


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