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教育格差とイノベータ⑥

「教育格差に対して支援そのものを不要にする」という改革アプローチに「イノベータ育成」が処方箋のひとつになりえないか の第6回です。
今回がこのシリーズの最終回になります。

未来のイノベーターはどう育つのか
  子供の可能性を伸ばすもの・つぶすものhttp://www.eijipress.co.jp/book/book.php?epcode=2179

著者 : トニー・ワグナー
訳者 : 藤原朝子

今回は「6章 イノベーションの未来」で掘り下げてみます。


1-5章を掘り下げて、私見を交えながら、若きイノベータ群像と彼ら彼女を取り巻く学校環境に触れてきました。
最終回では、イノベータに育つために必要な環境を学校卒業後の就業環境にまで広げて考え見ます。

世界のイノベーションの未来には、教師と親、メンター、そして雇用主のすべてが重要な役割を果たす。

出典:トニー・ワグナー. 「未来のイノベーターはどう育つのか」. 英治出版, 2014

以下のそれぞれの切り口でみていきたいと思います。

  1. 教育制度

  2. 雇用主


1. 親

親は子どもに実験する機会と時間を与えるべき、そしてオモチャやスクリーンタイム(スマホ見たりする時間)は少なくおさえるべきと筆者は主張しています。

僕の子どもの頃の話を少しさせてください。
僕は、小学校に上がるとすぐに釣りにはまり、同級生と毎週土曜日はいつも近所の川でフナ釣りをしていました。釣りを趣味にしている父親を持つ友人は道具も知識も豊富でうらやましく思ったものです。そこで、釣り番組や雑誌(お金ないので立ち読みして記憶)を見て、シカケや釣法をせっせと自分でノートにまとめていたのを思い出します。
結果として、不足していれば、それを補うためいろいろと自ら考える行動に至ったのは良かったのかなと思います。逆に制約された環境では失敗は許されない(お小遣いで買った釣り道具の失敗など)ので、実験の機会は豊富であったとはいえないといった状況でした。ハイリスクハイリターンを嫌う性格はこのときにカタチ作られたのかもしれません。加えて、多くの友人たちと付き合うと必要なお金も増えるので、それを控えていたり、そのため人付き合いが下手なコミュニケーションスキルの成長阻害を引き起こしてしまっていたかもしれません。

僕自身、それほど裕福な家庭で育ったわけではなかったためオモチャは友人たちと比べて少なく悲しい思いをすることもありました。加えて、両親共働きだったせいもあり、遊びは自分で見つけることが多かったように(今から考えると)思います。

裕福だったり経験豊富な親の家庭に育つ子どもたちは、多くの実験する機会や得るかもしれませんが、一方で制約された環境の中でこそ創意工夫は生まれるのかもしれません。



2. 教育制度

筆者は米陸軍の報告書を引き合いに出して、現在のアメリカの教育制度に一石を投じています。

「授業の大部分をファシリテーターがリードを取るコラボレーション的な問題解決活動に変える。個々の学習者の経験と適正にあった学習方法を組み立てる。講師主導でスライドを見せるタイプの授業は大幅に減らすか撤廃する」を高校でも実践したら、どんなに物事は違っているだろう。

出典:トニー・ワグナー. 「未来のイノベーターはどう育つのか」. 英治出版, 2014

実際に社会に出て働き始めると、学校教育ではあまり取り扱われていなかったスキルの重要性に多くの方々が気づくのではないでしょうか。他人と協働する場合、コミュニケーションやマネジメントの知識や経験が必要ですが、普通の学校では実践を交えた教育をするケースは稀ではないでしょうか。

「教育格差とイノベータ④」では、教師であるリンダの苦悩についてふれました。「学校で決められた教育方針」と「自身が望む社会にとって必要と考える分野横断的な知識を与える指導」との間で板挟みになっていました。

本書では、イノベータの教師が自らの権威と指揮権を手放し、「教壇上の賢人」から「寄り添うガイド役」になることが必要不可欠であることを見てきた。

出典:トニー・ワグナー. 「未来のイノベーターはどう育つのか」. 英治出版, 2014

最近ではリベラルアーツを主軸にした分野横断的な知識を与え生徒自身が進む道を決める教育方針を掲げる大学もある聞きます。しかし、小学校や中学校では状況は違うのではないでしょうか。ぜひ現場の教師の方々に実状についてお話をうかがいたいと思います。

現在の教育制度そのものを変えることはすぐにできることではないのかもしれません。少なくとも小学校から子どもたちが、多くの実験の機会を得て、失敗や創意工夫の経験をしていくことのできる将来の選択肢を増やすことを可能とする教育制度へ少しでも変わるといいな。そう思います。



3. 雇用主

若きイノベータが企業でその能力を発揮するためには企業自身が変わる必要があると筆者は語っています。

「組織内で情報の自由な流れを確保することはイノベーションを促す上で決定的に重要です。トップダウン式の経営は新しいアイデアが生まれるのを著しく制限する傾向があり、会社に『集合知』が生まれるのを阻害しています。

出典:トニー・ワグナー. 「未来のイノベーターはどう育つのか」. 英治出版, 2014

若手の提案を募集したり若手中心のチームを作ってみたりと、ボトムアップに取り組む企業は多いと思います。しかし、僕自身の経験でも感じたことがありますが、若手の不満のハケ口や市場へのアピールに終始してしまうケースは、実際のところ少なくないのではないでしょうか。

イノベータは管理されるのが嫌いです。彼らは自分が尊敬する人と働き、自分が心からおもしろいと思う顧客の問題を解決したがる。

出典:トニー・ワグナー. 「未来のイノベーターはどう育つのか」. 英治出版, 2014

最近はオープンイノベーションという概念において、企業の外からのイノベーションの組織内への取込に力を入れる企業が増えてきているように思います。国や自治体も後押しをしていることで拍車がかかっているように感じます。
しかし、逆から見てみると企業は自身の組織内でイノベータを育成し経営への貢献をさせるのが困難と考えているのかもしれないと思いませんか。

若き(潜在)イノベータ自身が自らをそうであると認識したり、他人がそれを判断識別するのは難しい場合が多いと思います。企業において、フラットな関係・・・むしろメンタとメンティであるような関係は構築できないものでしょうか。そうすることで、潜在イノベータが真イノベータになり、彼ら彼女らが力を発揮すれば企業にとってもよい話です。

雇う側と雇われる側という雇用関係はあるものの、CEOであれ一般社員であれ役割が違うだけであって、シックリこない上下関係をまずなくすことはできないのでしょうか。トップダウンやボトムアップという表現が使われること自体、まだまだ先は遠いな。そう感じます。


6回にわたって書いてきた「教育格差とイノベータ」はこれにておしまいです。ここまで読んでいただけた方々にひとかたならぬ感謝を申し上げます。

次回のテーマはまだ決めていません。異なる題材で再度「教育格差とイノベータ」について書くか、もしくは、僕の所属している団体や仲間たちについて書いていければと思います。


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