体内にコンパスを持つ磁性細菌
体にコンパスを持つ生き物といえば、渡り鳥などが知られますが、とっても小さな細菌もまた体内でコンパスを作り出し、磁場を感じて生きています。
以前、半導体を作り出す細菌の紹介の時に少し登場しましたが、今回は磁性細菌に注目してみていきたいと思います。
磁性細菌とは
磁性細菌というのはその名の通り体の中に磁石となる酸化鉄の粒子を持つ細菌です。この磁性細菌は体内の磁石を使って方角を知ることができます。私たち人間は見知らぬ土地に置いていかれたら迷子になりますが、細菌である彼らは地図は理解できなくても東西南北を理解することができるんです。
磁性細菌は体内に磁石を形成することができるマグネトソームという器官をもちます。このマグネトソームは細胞膜(脂質膜)で囲まれた構造であり、膜の中に水に溶けた鉄(鉄イオン)と酸素を取り込み、そこで磁石を作ります。
脂質二重膜の詳細に関してはこちらから↓
成長した磁石は細菌内の脂質膜に包まれているおかげで、大きくなりすぎず、ナノサイズの微粒子になります。ここでナノサイズの磁石であることが一つポイントになります。
細菌の中にある列になっている黒い粒がナノ磁石
また磁石の磁気的な強さは小さくなるほど強くなることが知られています(単磁区化)。人間がつくるとそんなに小さなものを作るのは意外と大変なんですよ。そういう点から見ても磁性細菌が作るナノサイズの磁石は人間からしても非常に貴重な材料になるんですね。
現在では、磁性細菌にナノ磁石を作らせて回収するという研究もおこなわれています。生物の力を利用するという点ではとっても面白いんですが、磁石を作ったらお役御免で殺してしまうのはある意味残酷なところがありますね。
まあ、除菌とかしてる時点で残酷とかそういう話ではなさそう…と複雑な気持ちになります。
ちなみに体内のコンパスを使って目的の方向に向かう細菌を走磁性細菌といいます。彼らは地球の磁気を体内のコンパスで読み取ってより生活しやすいところへ移動するようです。
磁性細菌の中には酸化鉄だけでなくグレイガイト(Fe3S4)と呼ばれる硫化物系の物質をため込むものもいるようで、細菌の種類によって多種多様だなと思います。
最後に
今回は体内でナノ磁石を作り上げる磁性細菌について紹介しました。このような生き物が作り上げる結晶をバイオミネラリゼーションと呼び、これから生体模倣に非常に貴重な知見を与えてくれる研究の1つです。
現在、ハードディスクのような磁石の性質を使った記録デバイスにはナノサイズの磁石が必要とされています。そのようなナノ磁石を人間の手で作り上げるのではなくて細菌の力で作られるかもしれませんね。
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