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薬と毒を見分ける:薬のための結晶づくり

以前、薬の効き目も結晶がとても重要だよ!という話を紹介しました。

薬も過ぎれば毒となる、という言葉もあるように薬と毒は表裏一体のような関係にあります。

今回はそんな薬の危険性と結晶を使って解決しよう!という話です。
それではさっそく見てみましょう~


サリドマイド事件

サリドマイド事件を知ってる方は多いのではないでしょうか。
ニュースや授業などで、よく聞く有名な話です。

サリドマイドには右手系と左手系と呼ばれる2種類の分子があります。右手と左手はそっくりな形ですがぴったり重なることはないですよね。

右手系と左手系のイメージ図

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https://en.wikipedia.org/wiki/Chiralityより引用

このようなまるで鏡写しのようなこの関係をキラリティといいます。

つまりサリドマイド分子にはそっくりだけどちょっと違う右手系と左手系があるということです。

この右手系と左手系の物質の性質はほとんど同じです。しかしながら、薬に関しては大きな問題があるんです。

というのも、私たちの体はこのちょっとしたキラリティ(右手系・左手系)の違いに敏感で、左手系のサリドマイドを飲むと異常が起きることがわかりました。(催奇性と呼ばれる胎児の体に悪影響を及ぼすものです)

しかし当時はそんなことは知られておらず、なおかつこの右手系と左手系を分離するのも容易ではなかったため、気づかず飲んでしまった結果、大変なことになったということになります。

ざっくり言うと、これが有名なサリドマイド事件です。

このキラリティというのが大事なことはわかったけど、結晶と関係ないじゃんと思われるでしょう。

ということで、ここからが本題になります。


右手系と左手系の分離

一般的に、このようなキラルな関係(右手系と左手系)を持つ分子は混ざった状態で存在します。サリドマイドのように片方が毒だったりします。そして、それを分離するのがとっても難しいので骨が折れるわけです…

この分離には様々な手法が研究されていますが、ここでは結晶成長を使った分離法を紹介します。

結晶の元が溶けている溶液を冷やしたり、試薬を入れたりすると、中から結晶が析出します。これを晶析といいます。(詳しくは前回を見てね!)

この晶析(結晶化)技術を用いて2種類の分子を分離します。

ただキラルな物質を普通に析出させると、右手系結晶と左手系結晶、または右手系と左手系が混ざった結晶が現れます。

これでは全然分離したことになりませんね。右手系の分子が欲しければ右手系結晶だけを大量に取り出さないといけません。


優先晶析法

結晶成長の知見はとてもたくさんあります。
その1つに特定の結晶構造だけ作り出す種結晶法という方法があります。

例えば、大量の右手系の結晶が欲しい時、あらかじめ右手系の結晶をほんのちょっと用意しておきます。

結晶の原料が入っている溶液に用意した右手系結晶を少し入れるとたちまち右手系結晶が析出します。出てきた結晶を回収してやれば、右手系の物質だけを得ることができます。

これにはいくつか課題もあるようですが、ざっくりとはこんな感じです。


不斉晶析法

添加物を入れることで、片方の結晶しか出ないようにする方法です。
正しくは片方の結晶が出てくるのが早くなるようです。その結果、右手系と左手系の結晶の大きさに差ができます。

結晶の大きさが変われば、フィルターや遠心分離などいろいろな方法を使って右手系結晶と左手系結晶を分離することができます。

この添加物にはアミノ酸が使われることがあるようです。そもそもアミノ酸にも右手系と左手系があるので、これを使うことで上手に差を作ることができるんですね。

他にも外からキラルな場を与えることで片方の結晶だけを作る方法なんかもあります。
本当に奥が深いですよね。


最後に:キラリティって面白い

このように薬と結晶構造は非常に密接に関係しており、私たちの生活に大変役に立ってます。

そもそもキラリティの研究というのがとっても面白いんですよね。
というのも、巻貝やつるまきの巻き方とかもキラリティです。

画像2

https://en.wikipedia.org/wiki/Gastropod_shellより引用

リモネンは左手系ではレモンの香りで、右手系ではオレンジの香りらしいです。

この起源はまだ分かっておらず、一説には宇宙の起源にまでつながるそうです。

そんな話を聞くとロマンを感じますね~

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