脂質の多彩な構造:油脂もミクロで見ると面白い
私たちの体を作る細胞膜は脂質二重膜とという油脂の膜でできています。このような油の薄い膜である脂質は非常に多彩な構造を作ります。
今回はそんな脂質の不思議な構造変化について紹介したいと思います。
脂質二重層についての詳細はこちらをご覧ください↓
以前のお話では、脂質二重膜は単純な膜と基板上に張り付いているだけでなく、ベシクルやリポソームと呼ばれる球体に変形するということを紹介しました。
今回はもう少し脂質二重膜の局所的な構造にフォーカスを当ててみていきます。
脂質の相転移
相転移という言葉を使うと多くの人は難しいな、と感じるかもしれません。しかし、安心してください、そんなに難しくはありません。私たちが普段見ている水が氷になったり、反対に氷が融けて水になったりするのも相転移の1種です。
つまり、水のようなサラサラな液体になったり、氷のような塊(固体)なったりすることを相転移といいます。
脂質二重膜も同様に状態が変わります。サラサラな流動体だったり、カチッとした塊だったりするわけです。
この状態の変化(相転移)を引き起こす主な要因は温度です。これは水と氷とも同じですよね。温度が高いとサラサラな流動体、温度が低いとカチッとした塊(ゲル相)になるんです。
ここでは、もう少し詳しく脂質二重膜の構造について非常に簡単に紹介していきたいと思います。
液晶相(Lα)
一般的な脂質二重膜の状態の1つで、液体のようにサラサラと動き回ります。このような状態を液晶相と呼びます。
この流動性のある液晶相の脂質はバイオ材料の足場として用いられます。足場というと何とも地味で面白味がないですよね。しかし、ナノの世界の足場はとっても重要な研究テーマになります。
というのも、ウイルスや酵素、または金属粒子などのナノの物質を小さな空間に適切に配置するのは非常に難しい技術になります。さらにはそのようなナノ物質を上手に移動させることは難しくなります。
ここで脂質二重膜の使ってやると膜がサラサラと動くのでナノ物質を配置したり移動させたりすることが可能になります。まだまだ完全制御には至らない段階ですが、ひそかに注目されている分野にもなります。
ちょっとキャッチーな言い方をすれば、脂質の足場を使って、ナノ材料を作るナノテク工場を作る土台になるわけですね。
リップル相(Pβ’)
流動性のある液晶相は温度が低くなると、脂質分子が動かなくなるゲル相という状態になります。この液晶相とゲル相の間の状態をリップル相と呼ぶそうです。
このリップル相というのはリップル=さざ波という名前から来るように、脂質二重膜が波打った構造をとっています。
この中間構造を経由して液晶相はゲル相になるようです。
ゲル相(ラメラゲル相など、Lβ’)
水が氷になるように、温度が下がると液晶相がゲル相へ変化します。このゲル相になると、流動性を失い脂質分子の位置は固定されてしまうため、流動性のある足場としての役割はできなくなります。
一般的なゲルとは少しイメージが違うなと感じますが、これが脂質二重膜でのゲル相となります。有名なところでは液晶相とゲル相がとてもよく出てくるので、これだけ覚えておけばいいのかなと思います。
指組ゲル相(LβI)
通常のゲル相と少し違った構造で指を組んだような状態になるため指組(構造)ゲル相と呼びます。単純な温度変化などでは現れないこともありますが、圧力がかかるような環境や他の不純物分子が加えられたときに発現することがあります。
結晶相(サブゲル相など、Lc)
ゲル相からさらに分子が密にパッキングすると結晶相となります。流動性のある液晶相と固体になるゲル相に比べると、あまり注目されているような感じはしませんが、個人的には興味ある領域です。
きれいにパッキングした脂質分子は結晶構造をとります。この脂質の結晶といえば、以前紹介したチョコレートやマーガリンの結晶に関係します。実際には分子の種類や構造が違ったりするので、一緒かといわれるとそうではないですが、このような長い分子(高分子)でも結晶ができるというのは面白い話ですよね。
最後に
今回は脂質二重膜の様々な構造について紹介しました。サラサラな流動体からカチッとした結晶相まで幅広い構造を作り上げることができます。
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