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青い鳥から学ぶ新しいインク~コロイドアモルファス~

自然にはトップ画のような色鮮やかな生き物がいます(ステラーカケス)。

彼らは私たちの想像しえない方法できれいな色を作り上げています。自然が作り出したこの仕組みを明らかにすることで私たちの生活はより豊かになるでしょう。

今回は、この青い鳥が持つ特徴的な構造コロイドアモルファスの研究を紹介したいと思います。


自然の贈り物オパール

色鮮やかな青い鳥(ステラーカケス)の持つコロイドアモルファスの説明の前に少し前置きを挟みます。

ガラス玉(シリカビーズ)が集まってできた鉱物をオパールといいます。虹色に光り輝くものをプレシャスオパールといい、虹色にならないものをコモンオパールといいます。青い鳥の持っている特徴はコモンオパールの一種と考えられています。

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一部 https://nanboya.com/jewelry-kaitori/post/common-opal/の画像を引用

この虹色を遊色といい、遊色効果がでるかでないかはガラス玉の並び方によります。

虹色に光るプレシャスオパールは、ガラス玉が規則正しく並んでいます。これをコロイド結晶と呼びます。
一方で、虹色を示さないコモンオパールは、ガラス玉が不規則に並んでいるため、きれいな色が見えません。こちら結晶に対してコロイドアモルファスと呼びます。

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今回、注目するのは虹色に見えないくすんだ色をしているコモンオパール(コロイドアモルファス)についてです。

まずコロイドアモルファスの話をする前に、それと対になるコロイド結晶について簡単に紹介します。

コロイド結晶では、光の波長(数百nm)程度の間隔で規則正しくガラス玉が並ぶため、光の回折という現象が起きます。これが虹色の仕組みです。これは見る方向によって色が変わるため、きらきらとした虹色に見えます。

もう少し詳しい説明はこちらへ▼

しかし、日常で使うには、見る方向によって色が変わると困る場合があります。
例えば、メタリックカラーだからといって車の塗装に使えば、きらきらと鬱陶しい色に仕上がってしまいます。そのような色の車が欲しい人もいるかもしれませんが、落ち着いた決まった色のほうが一般受けするでしょう。

このような見る方向によって色が変わるというのはメリットもあればデメリットもあります。

そこで、開発されたのが、どこから見ても同じ色に見えるコロイドアモルファス材料です。


コロイドアモルファス

小さなガラス玉が不規則に並んだコロイドアモルファスですが、そのままではくすんだ白っぽい色に見えます。

私たちが色を感知するのは、特定の色(波長)の光が目に届いたときなので、すべての色の光が目に届くと白く見えるわけです。(太陽光などがそのいい例です)

コロイドアモルファスではガラス玉が不規則に並ぶとはいえ、ガラス玉の間隔はだいたい同じぐらいになっています。(短距離秩序を持つ)

この構造は特定の色の光をよく発すると考えられていましたが、それ以外の光の散乱も起こるため私たちの目には白っぽく見えてしまいます。

そこで研究チームはカーボンブラックという黒色の小さな粒子をほんの少し混ぜました。この黒い粒子がわずかにあることで、余分な光を吸収し、構造由来の特定の色が際立つようになりました。

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参考文献[1]より引用

さらに、ガラス玉の大きさを変えることで、際立つ色を選択することができるようになりました。
赤や青といった色を自由に決められるので、この原理を使用したインクが開発されています。(すごすぎる!!)


生き物に学ぶ構造発色

冒頭で示したとおり、この粒子が不規則に集まっているのにきれいな色を示すものというのは生き物の中ですでに発見されていました。

トップがのステラーカケスだけでなく、ノドムラサキカザリドリという鳥もとても鮮やかな青い色をしています。この青色は微細な粒子状の構造が不規則に並んでいることにより起きるようです。

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Wikipedia[2]より引用

実際に、このような見る方向によって色が変わらないコロイドアモルファス構造を持つ動物は他にもいるようです。現在では、動物が持つ構造を詳細に調べることで、より高性能な材料を開発しようとしています。

また、微細な構造によってつくられた色を構造色といいます。これはモルフォ蝶の鮮やかな羽やタマムシなどにも見られます。(これらは基本的には規則的な構造により発色する)

構造色を示す材料は、色素や顔料を使わないことから環境にやさしく退色しない材料として期待されています。


最後に

私は結晶屋なので、規則正しいものが最も良いという固定概念でいましたが、その概念がいい意味で崩れ去った研究の1つです。

今でも結晶は素晴らしいと思っていますが、同時にアモルファスも面白いと思うようになりました。それぐらいインパクトの大きい、カッコいい研究だと思います。

日本のグループの研究なので、日本語のプレスリリースや論文がネットで読めます。興味がある人はぜひ調べてみてください。


補足(科学的な表現)
ガラス玉=サブミクロンスケールのコロイドシリカ粒子
見る方向によって色が変わる=色の角度依存性
光の色≒光の波長

科学的な表現はなるべく平易なものに変えているのであしからず

[1] 竹岡敬和、角度依存性のない構造発色性顔料の調製、コスメトロジー研究報告vol.23 (2015)

[2] https://en.wikipedia.org/wiki/Plum-throated_cotinga#:~:text=The%20plum%2Dthroated%20cotinga%20(Cotinga,and%20heavily%20degraded%20former%20forest.

トップ画像はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%B1%E3%82%B9より引用

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