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黄金のカミキリムシをヒントにした新しい放熱シート

概要

今回紹介するのは、黄金のカミキリムシの体毛構造を真似して、効率的に熱を逃がす放熱シートができたという論文です。

この論文のすごいところは昆虫の微細な構造とその放熱性能を明らかにしただけでなく、それを模倣した放熱シートまで作ってしまったという点です。

さらに、柔軟性と強さを兼ねそろえた放熱シートはスマホやウェアラブル端末など様々なものに利用できるようです。


今回の論文▼
Biologically inspired flexible photonic films for efficient passive radiative cooling
Haiwen Zhang, Kally C. S. Ly, Xianghui Liu, Zhihan Chen, Max Yan, Zilong Wu, Xin Wang, Yuebing Zheng, Han Zhou, and Tongxiang Fan, PNAS,117 (2020) 14657–14666.

どうして太陽光で暑くなる?

一般的に太陽光が当たると目には見えない光である赤外線により体が温まります。体温が上昇しすぎると死んでしまうため、いかに太陽光を反射したり、体から放熱して熱を逃がすかが重要になります。

例えば人間は汗をかいて気化熱で体温を下げますし、犬が舌を出してるのは体温調節といわれていますね。このように動物は特有の方法で、体温が上がりすぎないようにしています。

今回の研究で注目されたNeocerambyx gigasという名のカミキリムシには金色に光る毛が生えており、その毛の微細な構造が太陽光(赤外線)から体を守っているようです。

カミキリムシ

論文より引用

何がわかったのか?

カミキリムシの金色の毛の微細な構造には2つの役割があることがわかりました。

可視光から近赤外の光を効率的に反射・散乱することで吸収しない
中赤外の光を効率的に放出する

要は、体温上昇に関与する太陽光を跳ね返すようなイメージです。

この毛の断面は三角形で、この構造が太陽光を跳ね返すのにいいようです。
これは以前紹介した砂漠のアリと似たようなものだそうです。


研究者たちは、シリコーン樹脂を使って、微細なトゲトゲをたくさん用意したシートを作り、その中にアルミナというセラミックスの粉を入れてカミキリムシの毛の特徴を模倣しました。このアルミナの粉というのは光を効率的に散乱させるために必要で、さらに熱を外に逃がす役割もあるそうです。

カミキリムシシート

論文より引用

その結果、柔軟性のある放熱シートが完成しました。このシートは日傘にしたり、スマホに張ったり、体に身に着けるウェアラブル製品にもできるようです。


感想

最終的な機能性シートはまるでカミキリムシのようなものではないですが、自然界の秘密を明らかにして、人間が使いやすいように再デザインして新しいものができるのはかっこいいですね。

おそらく今後生体模倣工学がブームになれば、このようなモノづくりが一般的なことになるのかなと思います。

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