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金属と半導体でできたナノサイズのエンドウ豆

エネルギー問題が騒がれる昨今、太陽光を効率的に集めるというのはこれからの社会でとても重要になります。

それなら太陽光パネルをたくさん作ればいいじゃないかと言われてしまいそうですが、そう単純な話でもありません。

なぜなら太陽光は私たちの目に見える可視光以外にも近赤外線や紫外線といった目に見えない光もたくさん含まれています。特に赤外線は非常に広い波長があるにも関わらず、太陽光電池で吸収するのは容易ではありません。

NEDOのHPより引用

そこで登場するのがナノテクの力です。ナノの世界に生じる面白い現象を使って、これまで吸収が難しかった近赤外の光まで効率的に吸収するのが目的になります。

ということで、今回は金属や半導体という固い物質でできたナノサイズのエンドウ豆が効率的に近赤外光を集めるという驚きの研究を紹介します。

参考文献より引用

効率的に光を吸収するナノエンドウ豆

すでに、いろいろと情報が散らかっているので、一度簡単にまとめてみましょう。

まず、エンドウ豆というのはあくまで形のことを言っています。さや状の半導体の中身に金属粒子がまるで豆のように見えることから、エンドウ豆といっているんですね。

そしてそのエンドウ豆のサイズがウイルスよりも小さなナノサイズであるというのも驚きです。

さやになるのはHxK1-xNbO3という物質です。まるで暗号のように思えるかもしれませんが、ニオブ(Nb)という金属の酸化物にカリウム(K)と水素(H)がある割合で混ざった物質です。

あまり深く考える必要はありませんが、この物質を使ってナノサイズの筒状を作り出すことが非常に難しいんですね。

この研究の努力したポイントとしては、結晶構造の観点から筒状(さや状)にするのが困難な物質の製造プロセスを工夫することで可能にしたという点です。

一方で豆に当たる粒子は主に金のナノ粒子です。こちらはナノの世界では非常に有名なものになりますが、上述した奇妙なさやに含まれてているニオブが混ざり合わさった、金ーニオブナノ粒子となります。またこのナノ構造も非常に面白く、この研究では3種類のナノ粒子が観察されています。

例えば、金ナノ粒子が単結晶の場合は金の全体をニオブが包んでいるコアシェル構造、金ナノ粒子が多結晶(多重双晶)の時は一部の表面をニオブが包んでいる不均一な状態。そして金に対して半分程度の領域をニオブが占めている構造です。やはりナノの世界というのは興味深いですね。


下図オレンジで囲われているのが金、グレーで囲われているのがニオブ(参考文献より引用)

少々、細かい説明になってしまいましたが、要はHxK1-xNbO3という酸化物の筒の中に、金とニオブでできたナノ粒子がぎっしり詰まっているという状態になります。

このナノエンドウ豆が光、特に近赤外線を効率的に吸収する能力があるという点が今回紹介する論文の重要なポイントなんです。

効率的な光の吸収

この光の吸収原理というのは非常に難しいため、とてもざっくりとした説明になりますが、ここでは金属ナノ粒子が発現する表面プラズモンという現象が肝になってきます。

表面プラズモンとは簡単に言ってしまえば、光の波長よりも小さなサイズの金属の表面で起きる電子の挙動で、この不思議な現象のおかげで光を効率的に集めることができます。

プラズモンに関してはこちらの記事をご覧ください。

実は、このプラズモンの効果を最大限使おうと思うと、金ナノ粒子の距離を粒子のサイズよりも近くしなければなりません。この粒子が近づくことによって粒子間のプラズモン共鳴が生じてさらに効率的に光を集めることができます。※正しくは表面プラズモン共鳴による電場増強現象。

豆(ナノ粒子、図中:オレンジ線)とさや(ナノスクロール、図中:緑線)の状態ではあまり光を吸収できていないが、エンドウ豆(青線)になると、広範囲の波長の光を吸収できている
(参考文献より引用)

とにかく、プラズモンという特性をベストな形で使うため、粒子を非常に小さな筒の中にぎっしりと詰め込んだということになるんですね。

吸収した光で光触媒を実現

さて、このようにできたナノエンドウ豆ですが、実際にはどんなことに使えるのでしょうか。

1つには光触媒としての能力が発揮されます。光触媒とは光が当たることで、触媒としての能力が発現して、周りの化学物質になにかしら作用する効果のことです。例えば酸化チタンの抗菌作用などが有名な光触媒ですね。

光を効率的に集めることができるナノエンドウ豆と特定の色素を入れたところ、たしかに色素が分解されることが確認されました。

各種状態における感光性の比較(参考文献より引用)

加えて、ただのエンドウのさやだけでは、触媒としての効果はあまりなく、むしろ中に豆となるナノ粒子が入っていることが重要でした。

この光触媒現象は非常に面白く水の光分解にも使えるということがわかりました。まるで夢のような技術の始まりですね。

最後に

この記事では主にプラズモンについて触れましたが、実はそれ以上に金属と半導体が接合しているという状況(ショットー接合)を人為的に作り上げることができたというのも重要なポイントになります。

残念ながら、正確に伝えることが難しいため、割愛しましたが興味がある方は是非参考文献を読んでみてください。(オープンジャーナルなので無料で読むことができます。)

また、ここまででうっすら気づかれた方もいるかもしれませんが、実はエンドウ豆というのはなんでもよかったんですよね。ただ形がまるでエンドウ豆のように見えて、なおかつキャッチーだったからこのように名付けたのかもしれません。

どちらにせよ、Natureコミュに匹敵するすさまじい研究だったなと感じます。

参考文献

Au@Nb@HxK1-xNbO3 nanopeapods with nearinfrared active plasmonic hot-electron injection for water splitting

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